04

「じゃあ、あとよろしく」

「わかりました」


 破壊されたドローンは、随分と派手に壊されていて、調べられるかは怪しいものだが、調べないよりはいい。

 部下に後のことは任せ、暗い表情をしている彩花の元に行く。


「災難だったね」


 今回の場合、狙われたのが彩花である可能性も否定できないが、怪我がなかったのは不幸中の幸いだ。

 それも隣で心配そうに彩花を見ている灯里がいたおかげもある。

 

「送るよ」


 周囲への聞き込みでは、彩花がドローンの異常にいち早く気が付き、銃撃を魔法防壁で防ぎ、反撃したとということだが、彩花の話ではドローンの発砲を防いだのは自分ではないという。

 その彩花の証言を裏付けるように、銃弾にはアンチマジック加工が施され、地面を抉っていた。

 弾かれた弾丸ではこうはいかない。


「何度も聞かれたかもしれないけど、ドローン以外に不審な人物はいた?」

「いえ……」


 ドローンが撃ち落された後も、その場は騒然としていて、我先に逃げる人は多かった。

 彩花自身も動揺していて、手をずっと握ってくれる灯里がいなければ、取り乱していたかもしれない。


「灯里ちゃんの魔法って、機械には通じない?」

「今回のは」


 カメラなどに映らせないようにする魔法は存在するが、それは肉眼でも見えない存在となってしまい、案外使い勝手が悪い。

 それでも、人に認識させにくくする魔法よりも難易度は低く、灯里でなければ、そちらを使っていただろう。そして、その魔法であれば、今回の事件は起きなかった。


「私が、外にいたから、ですか?」


 外で待っている間にもドローンは何度か見かけた。

 SNSで話題になってしまっていたのだから、もし彩花狙いであれば、周囲をドローンで探していたのかもしれない。


「可能性がないわけじゃないけど、彩花ちゃんのせいじゃないよ」

「でも……」

「悪いのは向こうなんだからさ」


 しかし、彩花の表情は暗い。


「灯里、ごめんね」


 ぽつりと溢した言葉。

 久遠のことも、展望台のことも、今回の銃撃も、全て灯里だけであれば起きなかったことだ。

 自分が浮足立って、灯里に迷惑ばかりかけている。


「大丈夫だよ? このくらいなら全然」


 困ったように大丈夫だと否定する灯里に、言い表せない感情がせり上がってくる。


「全然このくらいじゃない! 死んじゃうかもしれなかったんだよ?」


 作り物ではない銃口が確かに自分たちに向き、撃たれた。

 死んだっておかしくない状況を、いくら気が使ったところで、”このくらい”で済むはずがない。


「ぇ……」


 つい熱くなってしまった感情は、目を丸くした灯里の表情で急速に冷えていく。

 続けて出てきそうになる言葉を必死に抑える。

 こんなのただのやつ当たりだ。

 守ってくれた灯里に、どうしてやつ当たりなんてできるか。


「――っご、めん……なさい」


 絞り出せた言葉はそれだけだった。

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