天からの火石
近況ノートにカウントダウンイラストの口絵を後悔しましたので、興味があれば見て行ってください
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無数の大砲型魔道具を搭載した装甲船から放たれる巨大な魔力弾が大型の海生妖魔たちを怯ませ、仰け反らせ、その頑強な表皮を突き破っては次々と海へ沈めていく。
この世界で間違いなく最大規模にして魔道具の歴史史上初となるその船の名は、対大型海生妖魔用巨大戦艦、
「三番船、海鳥型の大型妖魔を撃破! 次の標的の殲滅に取り掛かっております!」
「鮫型の妖魔が岬へ侵攻! 巨大結界の起点となっていると思われる魔術師の元へ急進しています!」
「主砲の照準を合わせて! あの結界が無くなれば戦況が不利に傾く! 彼女には指一本触れさせるな!」
そう指示を飛ばした勅使河原惟冬の指示に従い、背びれを海面から出しながら高速で泳ぐ巨大な鮫型の妖魔に戦艦の長大な主砲が向けられ、放たれた極大の光線が妖魔を貫き、天まで届く巨大な水柱を発生させる。
まるで怒号のような報告と指示が飛び交う五隻の戦艦、その内の一隻に乗り、全体の戦況を見渡せる高所から拡声の魔術を使って全体の指揮を執る、巨大戦艦、洛陽の開発者である惟冬は、視線だけ岬の方へと向けた。
(まさか再会の場所がこんなところになるなんてね……)
郷愁にも似た、どうしようもないほどの感情を胸の中で整理しながら、惟冬はほんの少しだけこれまでの事を振り返る。
思い返せば、この世界に転生したばかりの頃は一人孤独と戦っていたように思う。死んだと思えば異世界に生まれ変わり、前世とは環境も常識も何もかも違う場所で、どうにか居場所を作ろうと必死に足掻いていた。
やがて愛する人や信頼できる家臣たちを得ることで孤独を癒すことはできたが、前世に置いてきた縁だけは心残りとして、ずっと胸の中に残り続けていたのだ。
(でももう、そんな心残りはない)
前世で紡いできた縁は時空を超えて、この世界で再び結びついた。
生きるか死ぬかの戦場に立たなければならない境遇は前世では想像もできなかったことだが、この地位に齧りついたからこそ、再びこうして会えたのなら、重責の中で足掻き続けた甲斐はあったのだと強く思う。
(本当なら再会はもっと和やかな場でゆっくりとって思ってたけど、それは後にしよう)
オタク青年だった森野としての意識から、大和帝国貴族、勅使河原家の次期当主としての意識へと頭を切り替え、惟冬は引き連れてきた軍艦と、それを操る兵士たちに号令を飛ばす。
「出遅れたけどここが正念場だ! 撃って撃って撃ちまくれ!」
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「あいつら……っ!」
空から現れた黒髪の美男の言葉を聞いて、今起こっている事態を把握できた政宗は、胸の奥から熱いものが湧き上がってきそうなのを堪えて、大長巻を振り回しながら海坊主へと直進する。
張り巡らされた結界の檻に阻まれ、逃げ場を無くした海坊主が再びこちらに視線を向けた時には、政宗は妖魔の群れという壁を遂に突き破り、海坊主へと続く直線状に障害物が存在しない場所まで辿り着いていた。
「もらったっっ!」
地面を爆発したかのように砕き、陥没させるほどの脚力で、一足で最高速を叩き出しながら海坊主へと迫る政宗。
鬼神を前にしたような圧力に耐えかねた海坊主は口から極大の水の大砲を放ち、太く長い触手を動かして政宗を撃退しようとしたが、軍隊をも蹂躙できるであろうその抵抗は、目にも止まらない連撃を前にして無意味となる。
「オオオオオオオオッ!?」
水の大砲は霧散し、触手は細切れになるのを見て恐怖に慄く海坊主。
このままでは死ぬ。間違いなく死ぬ。そんな生存本能を爆発させた海坊主がとっさに取った手段は、自らの胴体に埋め込まれている人間……上原篝を肉の盾にすることだった。
人間は同族には甘い。肉盾として人間を使えば、人間は簡単に攻撃の手を緩めるということを、海坊主は知っていたのだ。そうして生まれた隙に乗じ、何とか逃げ出そうとした海坊主だったが――――。
「ほぉ……わざわざ取り外しやすいようにしてくれるたぁ、ちったぁ気が利いてるじゃねぇか」
政宗は篝が肉の盾として使われたことにも動じず、海坊主が知覚できないほど速く繊細な斬撃で、篝の周辺の肉だけを切り削いだ。
これまでの豪快の二文字がよく似合う戦い方とは打って変わって繊細……大長巻を巧みに操り、篝の肉体は一切傷つけることなく彼女を海坊主から切り離した政宗は、篝を左腕に抱えて、右腕で大長巻を振るう。
「辞世の句はいらねぇだろ……せいぜい土御門の地を踏み荒らしたことを悔いながら、あの世に逝きなぁっ!」
激しい雷を纏う妖刀、羅刹王の刃が大上段から振り下ろされる。
妖魔から見ても化け物染みた怪力に落下の重量と勢いが加えられたその一撃は海坊主を縦に切り裂くだけではなく、放出される途方もない電熱によって二つに分割された体を消し炭に変えるのだった。
「……あっちの方も、もうじき終わりそうだな」
海坊主の完全な消滅を見届けた政宗は、意識が戻る気配のない篝を抱え直し、上空を見上げる。
夜刀神の強大さは政宗も感じ取っていた。だからこそ、海坊主を片付け、創造主を失って烏合の衆と化した妖魔の群れを相手にするよりも先に、まずそちらからと思っていたのだが、どうやらその必要はないらしい。
政宗は天から迫りくる赤い光を見ながらそう確信した。
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実を言えば、晴信や惟冬が援軍に来る事は知っていた。
確かに二人とも、領内で起こった事件の後処理でなかなか動けない状況だったが、別に一人で事後処理をしていたわけじゃない。ある程度都合さえ付けられれば、援軍に向かえるとは聞いていた。
(おそらく、あっちの軍艦に乗っているのは西園寺と勅使河原の混成軍……人数自体は少ないだろうが、兵器の性能で大型妖魔たちを圧倒してくれているのはデカい……!)
それにしても惟冬の奴、あんなものまで用意していたとは……こんな状況じゃなければ、今すぐにでも華衆院家での買い取り交渉に入るところだ。
とりあえず、その辺りの商談は後で絶対にするとして、今は夜刀神を始末するのが優先なのだが……正直、もう負ける気がしない。
「惚れた女の危機に颯爽と現れるなんて、随分と美味しいところを持っていくじゃないか! 晴信!」
「そんなもの、狙ってやったわけではないがな!」
海に半身が浸かったままでも、頭が夜刀神が浮遊する上空まで届く巨大な水の明王が、手に持っていた剣を夜刀神目掛けて振り下ろす。
水属性の魔術を得意とする晴信は、海という巨大なアドバンテージを得たことで圧倒的な質量攻撃が可能となった。おそらくあの水剣は山くらいなら簡単に両断してのけるのだろうが、夜刀神の鱗に傷を付ける程度で両断には至らなかった。
「なるほど……これは堅いな……!」
「あぁ。会敵とほぼ同時に締め上げながら焼いているんだが、一向に弱る気配がない。いくらなんでも頑丈すぎる」
苦痛を感じているのは間違いないようだが……ここまでくると正直、生物として色々おかしい気がする。
「……どうやらただ頑丈というだけではないようだ。見てみろ」
「……げっ」
晴信が夜刀神に付けたはずの傷が塞がっていやがる……! 岩の龍が纏う炎で見えなかったけど、夜刀神もレオナルドと同様に再生能力持ちらしい。
そうなると、チマチマとしたダメージを持続的に与えるのは効果が薄い。ただでさえ頑丈であるのは間違いないだろうし……やるならば、再生する余地もないくらいのダメージを一撃で叩き出さなくてはならない。
「晴信、交代! 少しの間、夜刀神の動きを封じてくれ!」
「勝算は?」
「ある!」
「承知した」
了承を得ると同時に、俺は【岩塞龍】を解除。夜刀神に巻き付いていた岩の龍はただの石像と化し、あっという間にバラバラにされてしまうが、晴信にはその僅かな隙があれば
十分だった。
「【
水の明王がその形を崩し、夜刀神の全身を包み込むほどの巨大な水球になると同時に瞬時に凝固する。
どうやら氷の中に敵を閉じ込める魔術のようだが、所詮は氷。夜刀神の圧倒的な力の前に、瞬く間に罅だらけになって砕け散りそうになったが、そうなる前に氷は水へと戻り、また瞬時に氷へと戻る。
「これは、俺の地属性魔術と同じようなやつか……!」
俺は岩石が砕けても粘土のように変形させて瞬時に修復させることで、力のある妖魔を拘束してきたが、晴信の【氷牢之月】は過程こそ違うが結果として俺の地属性魔術による拘束と同じだ。氷が割れても即座に水に戻し、また即座に氷に戻すことで、実質的に砕けない氷の牢獄を生み出している。
普通の妖魔なら、氷の中に閉じ込められ続ければ窒息死するだろうが、夜刀神が相手では油断はできない。完膚なきまでにその体を破壊する必要がある。
「……が、その前に」
俺は妖刀、太歳の力を使って引力を発生させ、そそくさと逃げようとしていたレオナルドを引き寄せる。
夜刀神の対処を晴信に任せた今、俺も全力で魔術を行使できる。魔力切れを起こして逃げるしか出来ない奴を捕まえるなど朝飯前だ。
「な、なんだ!? 体が引っ張られ……うわあああああああああっ!?」
「晴信! ついでにこいつも頼む!」
俺のすぐ傍までレオナルドを引き寄せると、今度は斥力を発生させて、夜刀神が閉じ込められた氷の檻へと吹き飛ばす。
それを見た晴信はタイミングよく氷を水に変化させると、レオナルドは水の球体の中に勢いよく突入し、その瞬間に水が氷に戻る。
これで敵は全て一纏めにできた……となると、後は仕上げだ。
「【
俺は地属性魔術と併用する形で重力魔術を発動し、ある物をこの場所へと引き寄せる。
それは雲の更に向こう側にある宇宙空間から飛来し、前世における遥か古の時代に恐竜を絶滅させたという天からの鉄槌。大気圏突入時の圧縮と摩擦によって、魔術を使わずとも真っ赤に焼けた灼熱の火石。
まだるっこしい言い方を抜きにすれば……魔術によって引き寄せられた隕石である。
「やってくれる……まさか隕石とはな……っ!」
晴信は飛行魔術を使って即座に退避しつつ、夜刀神とレオナルドを閉じ込めた氷の檻を結界の上……丁度隕石が着弾するであろう場所へと移動させる。
それを見た俺は晴信の判断を内心で褒め称えた。空中にいる相手に隕石をぶつけるよりも、壁や地面に接した状態の奴にブチ当てた方がダメージが出る……このまま隕石と結界で挟んで擦り潰してやろう。
そう思った俺は魔術を使って落ちてくる隕石の軌道を微調整し、隕石が直撃するその直前に、晴信は魔術を解除した。
「駄目押しだ……確実に潰せ、國久!」
「あぁ、任せろ!」
【氷牢之月】という、ともすれば盾にもなり得た氷の檻が突然消えたことで夜刀神は動き出そうとするが、時すでに遅し。
凄まじい速度で飛来した隕石が夜刀神を押し潰しながら結界に直撃した途端に砕け、それと同時に大爆発でも起こったかのような凄まじい衝撃波を周囲一帯に向けて拡散。
妖魔の大群でも突破できなかった強固な結界をガラス板のように砕くと同時に、夜刀神をレオナルド共々、木っ端微塵に吹き飛ばすのだった。
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