古い剣術
今回、書籍版発売まで一ヶ月を切った記念に、近況ノートに雪那の簡単なプロフィールとイラストを載せました。よければご覧ください。
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度重なる俺からの挑発を受け、怒りが頂点に達したのか、全身を怒りで震えさせるレオナルドは大剣の柄を潰す勢いで握りしめる。
「もはや、もはや許せん……! 我らの地を奪った蛮族の末裔風情が……! 今すぐ五体を切り刻んで豚の餌にしてくれるわ!」
正面から猛スピードで突っ込んでくるレオナルドに対し、俺は妖刀を構えながら足場にしている岩の板に意識を割く。
夜刀神の対処にも追われている今、俺は他の魔術をまともに使うことができない。できるとすれば精々、足場の操作と身体強化くらいだろう。
それに対し、レオナルドは魔力量だけ見れば天狗くらいはあると思う。普通まともな攻撃魔術が使えない状態で天狗に挑むとか、俺でも無謀だ。
……ただし、こいつに限っては話は別だ。
「エルダール流、雷光牛かがっ!?」
大剣の切っ先を俺に向け、全身に激しい光を纏いながら、さながらミサイルのような勢いで突撃してくるレオナルドの刺突を掻い潜りながら、すれ違いざまに手首、顔、そして翼を連続で斬りつける。
鎧に覆われた他の箇所に刃が届かないし、顔面への斬撃は危機感が働いたのか、頬を裂いて血を流させるだけで終わったが、それでも鎧の隙間に位置している手首を傷つけ、奴の背中から生えている一対の翼を纏めて両断することに成功する。
「う、うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
空を飛ぶための器官が無くなり、そのまま地面に向かって真っ逆さまに落ちていくレオナルド。そのまま墜落死かと思いもした、即座に翼が再生され、再び空中を旋回し始める。手首からの出血も止まっているあたり、そっちの傷も治っているんだろう。
(超速再生……魔術によるものじゃないな)
この世界において、漫画で出てくるような即座に傷が塞がるような回復魔術は、人体に悪影響を与えるとして使用に制限が掛かっている。少なくとも、手足の欠損を全て魔術で治そうとすれば速攻で衰弱死するだろう。
しかし、人間以外の生物……強靭な生命力を持った妖魔の中にはあんな感じの再生力を持った奴もいる。今見せたレオナルドの再生能力は、それと同じに見えた。
「は、ははは……! 見たか!? この斬られても瞬時に治る絶対的な力! これこそが
自分の力を見せびらかしていい気になっているのか、また気になるワードを口にしてくれた。
神に恩寵……それが具体的に何を指すのかはともかく、今の台詞からは魔術に対する負の感情も見て取れる。その辺りが奴の正体を暴く鍵になりそうだが……。
「そうだな……少なくとも魔術じゃ体の欠損を即座に直すのは無理だ。その点では魔術はお前の恩寵とやらに劣るだろう」
「クククク……! ようやく身の程を弁え――――」
「だが無尽蔵に再生できる訳じゃない」
被せるようにそう言うと、レオナルドは動揺と共に言葉を詰まらせた。
今しがた見せた再生と同時に、奴から決して少なくない量の魔力が消費されたのを俺は見逃していない。つまるところ、全く異なる過程を辿って現象を引き起こしているものの、恩寵とやらは魔術と同じく魔力を消費して発動しているという事だ。
「なら攻撃し続ければ倒せるのも道理。お前の剣が俺に当てるのが先か、俺がお前の魔力を削り切るのが先か、勝負といこうか」
「余裕ぶるのも今の内だ……! 俺の恩寵が再生だけだと思うか!?」
レオナルドがそう叫んだ瞬間、奴が持つ大剣からこれまでよりも更に強い光が噴き出す。
それと同時に、俺の所にまで熱波が届いたのを肌で感じ取れた。どうやらただ剣をビカビカ光らせるんじゃなく、光を熱エネルギーに変換したようなものを剣に纏わせているらしい。
「慄くがいい……これが貴様ら大和の蛮族共を滅ぼすために、あの方から授けられた神の剣だ! この威光の前にひれ伏せ!」
再び翼を羽ばたかせて向かってくるレオナルドに対抗するように、俺も足場にしている岩の板を高速で動かしながら妖刀を振るう。
何度も何度も大剣と妖刀がぶつかる度に火花を散らし、空に消えていくのを繰り返していると、レオナルドは顔を歪めた。
「おのれしぶとい奴め……! ならばくらえ! エルダール流、蒼空――――」
膠着状態を嫌がったのか、焦ってまた大振りの攻撃をしようとした瞬間を狙い、俺は妖刀でレオナルドの頭を頭蓋ごと両断した。
脳まで届く一撃だ。これなら妖魔でも即死するんだが、その瀕死の重傷すらも即座に再生される。どうやら本人の意思が発動の要になる魔術とは異なり、完全に自動で再生されているらしい。
「チッ……! 油断したか……! だが次はそうはいかん! エルダール流、斬こ――――」
横薙ぎに振るわれた大剣に対し、俺は足場の岩をレオナルドの真下を潜るように飛ばすと同時に跳躍。空気を引き裂きながら迫る刃を、レオナルドの頭上を越えながら回避し、体の天地を入れ替えながら、背後からレオナルドの首を両断。
そこから更にもう半回転して体の天地を戻し、あらかじめ前に飛ばしておいた岩の足場に着地した。
「に、逃げ足だけは達者のようだな! しかしこれは避けれまい! エルダール流、だ――――」
縦に振り下ろされた大剣を半身になって躱すと同時に、首に妖刀を突き刺し、そのまま上に向かって切り上げる。
「おのれぇえええええっ! さっきから何度も何度も! エルダ――――」
繰り出される袈裟斬りをレオナルド本人の肩に跳びながら回避すると同時に、その頭蓋骨を思いっきり蹴り砕く。
「うがああああああああああああっ! も、もはや許さんっ! エ――――」
両腕を振り回して俺を追い払い、大きく大剣を振りかぶった瞬間を狙い、俺が跳んだ先へと移動させておいた岩を足場にして即座にレオナルドの元へと高速で再接近。頭蓋に妖刀を突き刺すと同時に、そのまま後ろに向かって全体重を掛けながら首をへし折った。
「い、いい加減にしろぉっ!? さっきからチマチマチマチマと!」
「そんなこと言われてもな。お前が未熟過ぎて隙だらけなんだから仕方ないだろう? やっぱり最強剣術とか言ってたのは誇張表現なんじゃないのか?」
「ううううううううううううううううううううううっ!」
そんな犬みたいに唸られても、殺し合いをしてるんだから仕方ないだろう。
どうして三メートルを超えるような大男が拗ねる姿を見ねばならないのか……これが雪那の拗ねる姿だったらいくらでも見られるのに。
「なぜだ……! なぜさっきから俺の攻撃が当たらない……!? それどころか、まともに技すらも……!」
大層不思議そうにしているレオナルドだったが、俺からすれば……いいや、この現代で武術を学んでいる人間からすれば当たり前の事だろう。
戦ってみて分かったんだが、レオナルドが使うエルダール流とやら……どうやら乱戦や人間よりずっと大きな妖魔との戦いを想定して、一撃の重さや範囲に重きを置いたものらしい。
それ自体は悪いことじゃない。数の利を覆したり、相手の防御を力づくで押し潰す大振りの一撃だって立派な剣術だ。
(しかし、それしかない剣術はハッキリ言って古いんだよ)
戦時中なら多対一の状況を想定した剣術は流行っただろうけど、戦争を無くそうと各国が働きかけている現代、演武のような武術大会が世界各地で開かれるようになり、一対一の戦いをする機会が増えていった。
それに伴い、現代の武術は相手の攻防の隙を狙い、細かく攻撃を差し込む技術が組み込まれたものが主流となっている。
端的に言うと、エルダール流とやらは現代剣術の使い手を相手にするには相性が悪いのだ。どっちの方が優れているとか、そういう話じゃない。
「斬りかかる時にいちいち技名を叫ぶとか十四歳で卒業してくれよ。聞いてて恥ずかしくなる」
「黙れ黙れ黙れえええええええええっ!」
ついでに言うと、いちいち攻撃の合図とばかりに技名を叫んでくれるからすっごい見切りやすい。総じて言えば、レオナルドは相性差を覆して俺を斬るだけの技量が無いのだ。
「はぁ……はぁ……! い、いいだろう……! そこまで死にたいのなら見せてやる……この技を出されて生き延びた者はいない……! エルダール流最終奥義――――」
「あぁ、もういいよ、お前は」
いい加減に夜刀神に本腰を入れたい。そう考えた俺はレオナルドを始末するべく、足場の岩を一気に加速させて、すれ違いざまにレオナルドの鎧の隙間に刃を通し、大剣を握っていた右腕を肩から斬り飛ばす。
突然得物を失って動揺するレオナルドを尻目に、足場の岩を急旋回させ、腕が新たに生えてくるとほぼ同時に懐に入り込み――――。
「ふんっっ!」
折り曲げた肘を力一杯、レオナルドの腹に叩きこんだ。
頭部以外を鉄の鎧で覆ったレオナルドに対し、今の俺ができるのは鎧の隙間に妖刀を差し込むくらいなもんだ。こんな頑丈そうな鎧の上から素手で攻撃してもダメージにはならない。普通ならそう考える。
「ごぼぉおおっ!?」
しかし、その常識を覆し、肘打ちを受けたレオナルドは口から血を吐き出しながら吹き飛んだ。
格闘漫画とかでよく、相手の体内にダメージを与える打撃……みたいなのが登場するけど、今俺がやったのは魔術によってそれを再現したもの。魔力を変換して生み出した衝撃波が鎧と筋肉を突き抜け、内臓を破壊したのである。
「がはっ!? げほげほっ!? な、何で……!? なぜ鎧の上から打撃が……ごほぉっ!?」
そしてその一撃を受けたレオナルドだったが、今までみたいに即座に再生……することはなく、血を吐きながらもがき苦しみ続けている。
これまで散々ダメージを与え、更には考えなしに付与魔術のような力も使わせ続けた。その甲斐あって、ついに再生能力を発動できるだけの魔力がレオナルドから無くなったのだ。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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