剣と魔法のファンタジー版銃火器
鉱山へ突入するにあたって、討伐軍は天狗と直接対決する俺と惟冬のチームと、妖魔の群れに対する囮を兼ねた、薫率いる掃討部隊に分かれることになった。
薫たちが天狗がいる場所からは離れた場所で派手に戦う事で山中の妖魔を誘き寄せながら処理していき、天狗の周囲が手薄になったところで、俺と惟冬が一気に本丸を叩く。捻りはないが、堅実な一手だ。
懸念点は、天狗が掃討部隊の方に行ってしまい、広範囲攻撃が得意な天狗と掃討部隊を交える形で乱戦になってしまうという事だが、その可能性は低いらしい。
「何度か討伐部隊を送って分かったことがある。天狗はある一定の場所から動かない」
作業効率の理由から、この鉱山には坑道が数か所開けられているんだけど、山の中腹には全ての坑道の入り口を確認できる場所がある。そこを陣取ることで、天狗は何時でも好きな坑道を潰せるようにしているんだとか。
「下手に前に出るよりも人質……というと語弊があるけど、それと似たような感覚で「坑道潰すぞ」と脅しをかけ、最低限自分の身の安全を保証しにかかる……例の天狗は、想像以上にクレバーな奴だな」
「頭が良いとは知ってたけど、まさかこんな手を使ってくるとは思わなかったよ。人間の常識や事情なんて知る由もないはずなんだけどなぁ」
……言われてみれば、今回の一件はちょっと不自然かもしれない。
幾ら人並みの知能があり、妖魔と言葉でコミュニケーションをとっているとまで言われている天狗でも、俺たちとは当然のように使う言葉も違うし、価値観も常識もまるで異なる。そんな天狗が、ここまで的確に俺たち人間が嫌がることをしてくるだろうか?
(天狗の知能を考えると、ありえない話ではないけど……)
いずれにせよ、今は関係のない話だ。そう頭を切り替えて、天狗が根城にしている場所へと山道を登っていくと、麓の方から大人数が一斉に叫んでいるような声と一緒に、派手な魔術による攻撃が引き起こしたであろう地鳴りが聞こえてきた。
「どうやら向こうも始まったみたいだね」
「あぁ。こっちの目論見通り、山に人間がやってきたのを察知して、辺りから妖魔たちが集中しているみたいだ」
そして薫たちの方に群がる妖魔たちの魔力の大きさを測ってみた限りでは、その中に天狗が混じっていないらしい。どうやら高みの見物を決め込んでいるようだが、いざとなれば遠距離から掃討部隊を攻撃することも可能なはず。薫の未来予知ならその攻撃にも対応できるだろうが、急いだ方がいいだろう。
俺と惟冬は道中で襲い掛かってくる妖魔をなぎ倒しながら、引き続き山中を突き進んでいくにつれて、段々と風が強くなっていくのを感じた。
単なる自然現象ではない……この魔力を帯びた風は、間違いなく天狗が引き起こしているものだ。
「この風はどうやら天狗なりの探知能力みたいでね。僕たちが近づいてきているのも、感付かれた頃だろう」
そんな惟冬の言葉を肯定するかのように、妙な圧力みたいなものを全身で感じた。どうやら敵の接近に気付いた天狗が魔力を滾らせているらしい。
しかし、それに臆することなく突き進んでいくと、やがて目的地である天狗の棲み処へと辿り着いた。
「いた。あれが例の天狗で間違いない」
山の麓だけでなく、勅使河原領の村々や街道を一望できる、少し開けた場所に居座っていた天狗は、白い翼を背中から生やし、全身の肌が赤くて鼻が長い、耳元まで裂けた大きな口から乱杭歯を覗かせる人型の妖魔だ。
前世の世界の伝承に登場する天狗のように着物を着ているというわけではないが、下半身は獣のように長い体毛で覆われていて、その手には巨大な広葉樹の葉っぱのような形をした扇が握られている。
「■■■■■■■……っ」
既に俺たちの存在に気付いていたであろう天狗は空中に浮かび上がり、明らかに悪意のあるニヤニヤ顔を浮かべながら、人間には理解できない言語を口にし、手に持つ扇を坑道がある方角へと向ける。どうやら俺たちに対して脅しをかけているようだ。
「さて、そっちの方は任せるよ、國久」
「あいよ」
それでも退く様子のない俺たちを見た天狗は扇を大きく扇ぎ、強烈な突風を坑道の方に向けて放った。
天狗が引き起こした突風は、まるで巨大な衝撃波のように山の木々を雑草でも引き抜くかのような勢いで吹き飛ばしながら坑道の入口へと突き進み、直撃。
天高く舞い上がった濛々とした砂埃が晴れるとそこには、木々を吹き飛ばされながらも地形そのものは変わっていない鉱山の姿があった。
「■■■っ!?」
これには天狗も驚いたのだろう。確かに天狗の一撃は山そのものを吹き飛ばし、地形を変えるほどだ。その威力は、突風の直撃を受けた木々が根こそぎへし折られ、一直線の道が形成されていることからも明らかだろう。
しかし、俺の地属性魔術は天狗が巻き起こす破壊の更に上を行く。こちらも目論見通り、坑道が潰されないように鉱山を保全することに成功した。
「これでお前を守るものは何もなくなった。遠慮なく攻撃を仕掛けさせてもらう」
そう言って惟冬は、引き金のない小銃の銃口を天狗の方へと向けた瞬間、ドガガガガガガガッ! という凄まじい轟音が連続で鳴り響きながら、魔力で出来た弾丸がジャイロ回転しながら天狗へと殺到する。
最早火縄銃なんてもんじゃない。弾倉が高速で回転する度に銃口から火を噴き、雨あられのような魔力弾をばら撒くその連射力は、ガトリングのそれだった。
(これが異世界版鉄砲の威力……事前に性能の確認に立ち会ったけど、こうして実戦の中で改めて見てみると、その性能がより顕著に伝わってくるな……!)
形こそ地球の鉄砲に酷似しているが、そこは剣と魔法の世界の産物で、仕組み自体はかなり異なる。その最たるものが、銃弾を魔術で補えるという点だろう。
魔力を圧縮して撃ち出すという、遠距離攻撃魔術の基本みたいなのがある。惟冬が今やっている攻撃はそれの延長なわけだが、その連射力と……何よりもその弾速は常軌を逸脱していた。
(魔術師が単身で発動できる、音速以上の速さが出る攻撃魔術は限られているからな)
この世界の魔術理論では、地球の鉄砲のように音速を超える速さがでる攻撃魔術は、自力で使うには手間がかかる。発動する事自体は出来るんだけど、かなり集中しないといけないから、実戦で運用できる場面が限られているのだ。
唯一の例外は雷属性だけど、あの魔術は軌道がブレやすいし、俺の《鳴神之槍》は音速以上の速度で真っ直ぐ飛ぶけど、専用の弾を準備する必要があるから自力というわけではないし。
(その扱いの難しい超高速の攻撃魔術を、ガトリング並みに連射できれば、そりゃ天狗と戦うってなっても自信が付くだろうな)
更に言えば、魔力弾も銃弾と同じような理屈で、回転を加えてスピードを上げればその分威力も上がる。
姿形大きさが人に近いためか、天狗自体の耐久力はそれほどでは無い。音速を超える攻撃魔術が直撃すれば、その体に風穴を空けることは容易だろう。
(しかも、それだけじゃないんだよな)
惟冬が撃ち出す圧倒的な弾幕を前に最初は逃げ回っていた天狗だったが、自分が巻き起こす風が遠距離攻撃魔術に対して有効だと知っていたのか、自分の周囲に強烈な旋風を引き起こした。
その風に煽られた木々はへし折れ、暴れるように宙を舞い飛んでいく。俺が懸念していた通り、あんな風の結界に守られた天狗に対して遠距離攻撃を仕掛けても、間違いなく弾かれてしまうだろう。
「■■■■■■■っ!?」
しかし信じられないことに、惟冬が放った弾丸は強風にあおられても射線が全く変わらず、真っ直ぐに天狗の方へと飛んで行っている。
発射されている魔力弾自体が強風を切り裂いてまっすぐ進むよう、惟冬が対天狗戦用に小銃に組み込まれた魔術式をカスタマイズしているのだ。
(前世から魔法がある中世風ファンタジー世界に転生した場合、どうやって銃を生み出すかなんて妄想してた奴だったけど……まさかその妄想を実際に形にするなんて、当人も考えていなかっただろうな)
そんな惟冬が使っている銃型魔道具は、地球で作られている銃の常識では考えられない性能を誇っている。
一見すると魔力弾をばら撒くという単調な攻撃のように見えるが、実は戦う敵に合わせて何種類もの魔術を組み合わせることで特性を変えるという、魔術師単独では再現出来ない、魔道具の力があって初めて使える極めて高度な攻撃魔術なのだ。
「■■■■■■■っ!」
自慢の風の影響を受け付けない、当たれば体に風穴が空く威力の弾幕を前に恐れをなしたのか、天狗は銃弾対策にジグザグと不規則な軌道を描きながら飛び回り、そのまま一目散に逃げだしてしまった。
判断が早いと敵ながら褒めたいところではあるが、生憎とこちらは逃がすつもりは一切ない。俺は地属性魔術を発動し、全長三メートルほどの岩の小船を地面から生み出す。
「よし、乗れ惟冬!」
俺と惟冬が乗り込むと同時に岩の小船は浮かび上がり、そのまま高速で空を突き進んで天狗を追いかける。
いわば、【宙之岩船】の超小型版の魔術だ。攻撃や防御に必要な大きさを削いで軽量化している分、飛行速度だけなら天狗のそれと同等以上で、見る見る内に天狗と距離を縮めることが出来た。
「逃がさないよ……うちの領地で好き勝手してくれた分、その報いを受けてもらう!」
天狗を射程圏内に収め、再び小銃を乱射する惟冬。
地上で行われていた鉱山を巡る戦いは、そのまま空中戦へと移行するのであった。
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