第7章 学園都市メルキス編 第3話(4)

「まったく……誰も彼も、集団行動というものを知らないのか」

 そうして、クランツとカルルが静かに視線の火花を散らせていた頃。

 後に残ったクラウディア達は食堂を後にし、ゲイツの案内で図書館に向かっていた。リヴはカルルを、セリナはクランツの様子を見に行くという名目で走り去り、現在三人が抜けた王都自警団一行に学内を案内できるのはゲイツだけになっていた。

「面目ない。奴らはいくら躾けても馴らせないじゃじゃ馬だ。俺が代わりに詫びよう」

「君が謝ることじゃないよ、ゲイツ。こっちも似たようなものだしね」

 クラウディアの小言に反応したゲイツをフォローするように、ルベールが言っていた。

「むしろ、君だけでも残ってくれてよかった。案内役になってもらって助かるよ」

「恐縮だ。善い奴なのだな、君は」

 ルベールとゲイツが知己のような言葉を交わす傍らでは、サリューが嘆いていた。

「それにしても、エメリアとクランツはともかく、セリナまで調べ物ってわかった途端に逃げ出すなんてねえ。少しは根性見せてほしかったけど」

「セリナも馬鹿じゃない。走った先で何らかの情報は掴んでくるだろう。泣き言言うな」

「はいはい。鬼教官にしごかれるのは、私じゃないはずなんだけどねぇ」

 ゲルマントとサリューの会話を小耳にしながら、クラウディアは思案していた。

 突如エメリアに手を引かれていったクランツと、それを追っていったカルル。

 不思議と、彼らのその突飛な行動には意味がないとは思えなかった。それどころか、そこには彼ら三人の何らかの意図が絡んでいるような感覚すら覚えた。

 もしも、その予感が真実だとしたら。

(クランツ、エメリア……いったい、何を企んでいるんだ?)

「クララ、聞いてる?」

「えっ?」

 思案に耽っていたクラウディアは、サリューの言葉でハッと我に返った。

「すまない、思考が飛んでいた。何の話だった、サリュー?」

「もう、しっかりしてよ。クララまでおかしくなったら頼れるところがないわ」

 茫然としていたクラウディアを窘めるように、サリューは言った。

「クレア様に挨拶に行くんでしょ。だったら私達もここでお別れだもの」

「ああ……そうか。そうだったな」

 その言葉に目的を思い出したクラウディアは、ゲルマントに断りを入れる。

「ゲルマント、すまないが私達が戻るまでの間、残りのメンバーの監督を頼む」

「はいよ。つっても、抜けに抜けて野郎三人しか残ってないけどな」

 呆れたように軽く頭を掻くと、ゲルマントは言った。

「まあいい、行ってこい。世話になったんだろ。積もる話もあるだろうし、急がなくていい。こっちはこっちで適当にやっとくからな」

「ふふ、男前ね。ありがと、ゲル。行きましょ、クララ」

「ああ。後を頼んだ、ゲルマント」

 そう後を任せると、クラウディアとサリューは連れ立って去って行った。

 そうして後に残されたのは、ゲイツ、ゲルマント、ルベールの三人のみとなった。

「これで、残りは三人か……随分と抜けられたものだ」

「何、やる気がある奴だけ残ったと思えば十分だ。俺達は俺達の作業に集中するぞ」

「ですね。皆が帰ってくるまでに、なるべく有益な情報を見つけ出しましょう」

 ルベールの言葉に、ゲイツが感心したように言う。

「この状況で、よくそこまで前向きに考えられるな」

「まあ、これくらいはいつものことだから。君もあまり気にしないで」

 その言葉に軽く返すと、ルベールは含みを持たせるように言った。

「それに、今は危急の事態でもないし。ですよね、ゲルマントさん」

「ああ。《使徒》……《墜星》の奴らの手が伸びる前に、さっさと済ませるぞ」

 その意図を明確に察していたゲルマントも、それに応えるように言った。

 こうして、聖堂学園内の王都自警団一行は、四派に分かれることになった。

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