第7章 学園都市メルキス編 第3話(2)
「旨いな……」
バゲットサンドにかぶりついたクランツのその一言で、昼食は和やかに幕を開けた。
「ま、そうね……王都のお店のにも見劣りはしないって感じだけど」
「おや、そうか。王都育ちの君達の口にも合ったようなら何よりだ」
セリナの言葉に嬉々と返したゲイツの傍らから、リヴが好奇の声をかけてきた。
「でもどうなの実際。あんた達って王都に住んでた訳でしょ。どうなの、暮らしの程度とか。その口ぶりだと、やっぱりここも田舎って感じ?」
「いや、あながちそうとも言えないだろう。王都は確かに王城の庇護の元にあるという意味で荘厳ではあるけれど、その一方で地方都市それぞれが持つ魅力を全て備えているとは言い難い。工業化や商業化の程度なら僕のいたエヴァンザやハーメスの方が高いし、農業都市であるローエンツやこの学都メルキスにも、他の地方都市にも敵わないものは多い」
そう言いながら、ルベールは手にしていたバゲットサンドを一口食べて、笑顔で言った。
「それに、実際ここのサンドイッチは美味しい。それは反証しようもない純然な価値だ」
「ふーん、そう。何かあんた、言うことが若干カルルと似てるわね」
「そうかい?」
リヴの言葉に返したルベールに水を向けられたカルルが、視線を向け返しながら答える。
「かもしれないね。僕から見る限り、君は理性を重視する人間だ。そういう意味では気性は似ているかもしれない。僕もよく言葉が遠回りしてはリヴにどやされているからね」
「あんたの言い方がまだるっこしいのが悪いんでしょ。男ならもっと何でもスパッと言いなさいっての」
リヴの苦言に参ったように笑うと、カルルは羨むような視線をルベールに向けた。
「けれど確かに君の言う通りかもしれない、ルベール。この聖王国には豊かな地方性がある。いくらここが王国の英知の集積場だとしても、ここに留まっている限りでは知れないものがある……そう思うと、任務とはいえ全国を自分の足で巡れる君達が羨ましいよ」
「何よ。あんただってジャックスさんに載せてもらって全国巡ってたんでしょ」
「ジャックス?」
「え、知らないの?」
聞き慣れない名を聞いたとばかりに首を傾げたリヴとセリナを前に、カルルが説明した。
「彼と合流したのは、まさに君達と会った時だったからね。あの時点では二人は知らないはずだ。それに、メルキスまで一緒に戻って来たわけじゃなかったからね」
「そうなの?」
「ああ。彼には別の用事があるとかで、途中で別れた。今はどこを走っているのやら。まあ、近い内にまた顔を合わせることになりそうな気はするけれどね」
そう回想するように言った後、それよりも、とカルルが水を向け変えるように言った。
「ここの学食を褒めてもらえるのは嬉しいけれど、他に話すことがあるんじゃないかな?」
「そうね。時間ももったいないし、少しずつ話を進めましょう」
その仕切り直す言葉を拾うように、さて、と紅茶のカップを置いたサリューが言った。
「これからの方針だけど……クララ、あなたとしてはどうするつもり?」
その言葉に全員の視線が向くのを感じながら、行軍の長たるクラウディアは答えた。
「今はとにかく情報が欲しい。アルが本当に《魔戒計画》そのものに何らかの形で関わっているのか、もしそうならなぜ私達に全国巡業を依頼したのか……そして、そもそも私達が止めるべきとしていた《魔戒》とはいったい何なのか。現時点では不明なことが多すぎる。私達がどこへ向かい、何を為すべきなのかを再検討するためにも、とにかく情報が欲しい。役に立ちそうなものなら、どんなに小さなものでも構わない」
「そうね。けど実際には、具体的にどんな情報を集めるの? いくら何でも良いなんて言っても、方針が一切ないまま闇雲に動いても埒が開かないわよ」
忠告するサリューと表情を引き締めるクラウディアの間に、ルベールが進言した。
「まずは現段階でわかっている情報を整理し直すのが良いと思います。新しい情報が入ってきて状況が刷新されたとはいえ、僕達は今まで一定の方針に従って行動してきました。まずはそこを基盤に据えた方が、道を見失う危険性も少なくなるかと思います」
「そうですねぇ、エメリアちゃんもルベールさんのご意見に賛成ですぅ。まずは今いる足元にあるものから探った方が楽ですし、もしかしたら何か見落としてたものに気が付いたりするかもしれませんしねぇ」
ルベールとエメリアの言葉に、全員の無言の首肯を受け、よし、とクラウディアは頷き、これまでの情報の整理を始めるべく口を開いた。
「これまで我々は王都の王国府に勤めていたアルベルト・ハインツヴァイスの命を受け、《魔戒計画》なる王国暗部の計画の阻止のため、全国の市長クラスの権力者の協力を取り付けるべく全国を回ることになった。ここまでは間違いないな」
「間違いはないが、既に引っ掛かる点が三つほどあるな」
その確認に即座に疑念を呈したゲルマントに、クラウディアは訊き返した。
「三つ?」
「ああ。一つ、お前もさっき言っていたが、《魔戒計画》の骨子とされている《魔戒》ってのがどういう代物なのか。二つ、その《魔戒計画》ってのを推進している《王国暗部》ってのは具体的にはどのあたりの奴らのことまでを指すのか。そして三つ、その《魔戒計画》を阻止する手段が、本当に全国の権力者の署名なんてもので可能なのか、だ」
ゲルマントの言葉を受け表情を険しくしたクラウディアに代わり、サリューが言った。
「順番に整理した方がよさそうね。まず《魔戒》がどういうものかについては今の所、クララがアルから聞いたこと以外に情報がないけれど」
「帝国との泥沼状態に終止符を打つ、魔女の魂で起動する最終決戦兵器、だったな。クララがゼクスの導きでその実物を見たり、それを阻止しようとしている俺達の巡業が度々妨害を受けていることからしても、それが実在するのは確かだろうが」
確認するゲルマントの言葉に、ルベールが話を進めるように言った。
「そうなると、それは二つ目の疑問にも絡んできそうですね……」
「《計画》を進めて、あたし達の邪魔をしてきてるのがどこの誰なのかってこと?」
「ですねぇ。今までは単純に《墜星》の使徒さん達しか目立ってませんでしたけど……」
セリナとエメリアの続けた疑問を掘り下げるように、ゲルマントが言った。
「この《計画》が額面通り王国府内部にいるアルが察知したものだとするなら、そいつの居所はハッキリしてる。言うまでもなく、そいつは王城内……国府の人間だ。それも、これまでに起こしてきたことの規模から考えても、相当大きなものを動かせる人間だな」
(《規模》……?)
クランツがその言葉に奇妙な引っ掛かりを覚える中、サリューが焦れるように言った。
「まだるっこしいわね。もう私達にもその人物の見当はついてるのに」
「曲がりなりにも王子様の御前だからな。下手に情報が流れるのもまずい」
ゲルマントに水を向けられたカルルは、どこか表情を硬くしながら言った。
「これだけ話してまだ信用されていないのは、少し不甲斐ないですね」
「何ならお前さんからその話をしてくれ。それなら俺達も納得がいく」
ゲルマントの言葉に、向けられる疑念を払うように、カルルは言った。
「ゲルマントさんと考えが一致しているかどうかはわかりませんが……僕にもその人物の見当はついています。国力増強と銘打って《魔戒計画》を先導するその人物は、確かに王国府の、それも中枢を占めることのできる位置にいる人間だ」
そして、周囲の気配を慎重に測った後、その場の面子に聞こえるように強く言った。
「王国府宰相ベリアル・クロイツ。ハーメスの地下展示場を主宰していた彼が、おそらくその下手人の一人です」
決然と口にしたカルルのその言葉に、クランツは思わず訊いていた。
「下手人の……一人?」
「ああ。今回のこの計画、少なくとも関与している勢力はベリアルの一派だけじゃない。でないと、これまで君達を妨害してきた《使徒》達の存在に説明がつかないだろう?」
カルルのその言葉の意味する所を、サリューが間を置かずに拾った。
「ベリアル宰相と《墜星》は、別の思惑を持っているということね」
「そう考えるのが自然だと思います。協力関係とはいえ、両者の目的とする所は大きく異なっている。魔女を犠牲に国力の増強を図ろうとするベリアルの思惑は、魔女の人権を取り戻そうとしている《墜星》の反逆行動とは真逆の立場にありますから」
カルルの言葉に考え込む一同の空気を動かすように、サリューが話を進めた。
「もう一つ、気になる話があったわね。《魔戒計画》が署名集めで阻止できるのかって話だったけど、それを言い出したら私達の旅業の意味が無くなりかねないわよ?」
「そう思うのもわかるが、それはないだろう。アルは決して無駄な手を打つ奴じゃない」
ゲルマントの言葉に、納得のいっていないセリナが反駁した。
「でも、もし署名を集めても計画を阻止できないのなら……アルベルトさんは何のためにあたし達に署名集めなんて行かせたのよ。何か他に理由があるってこと?」
「まあそうだろうな。俺達にあの時点では明かせない別の思惑があったってことだろう」
それに答えるように、考えてみろ、とゲルマントは言った。
「事が仮定通りベリアルの主導で進んでいるとしたら、奴は国府のトップだ。半端な抗議文書なんざ陛下の目に行く前に握りつぶされかねん。そう考えると、アルが俺達に任せた署名活動はどう考えても本筋の策じゃないように思える」
ゲルマントの分析に、サリューがやや気を損ねながら言った。
「じゃあ何、私達は体のいい囮だったってこと?」
「有り体に言っちまえばそうなるな。だがおそらくそれと同時にあいつの本命でもある」
「どういうこと?」
矛盾を孕むように聞こえるその話へ向けられる疑問に、ゲルマントは再び答えた。
「アルに魔戒計画を阻止しようとする意図があるのは確かだと見ていい。その上でその方法が俺達のやってきた署名に基づく直訴でないとしたら、何が考えられる?」
ゲルマントの投げ返した問いには、カルルが答えた。
「アルベルト公には、魔戒計画を阻止するために切ろうとしている隠し札がある……それも、相手に勘付かれないように進められる方法で」
「そういうことだ。そしてそれがおそらく俺達なんだろう」
カルルの正解を受け、ゲルマントは話を一旦まとめにかかった。
「俺達は表向きは全国を回っての署名活動なんて回りくどい無駄な真似をしている。そして、相手がそれを無意味だと知っているその裏で、本当の手段を進めていることになる」
「それを私達に教えなかったのは、その本当の手段が勘付かれてはいけないから?」
「そういうことだろう。俺達はようやくあいつのその思惑まで辿り着いたってことになる。まあ、ここまで遠回りさせるのもあいつの算段の内だったろうがな」
ゲルマントから全ての話を聞き終えた時、どこからともなく深い溜め息が聞こえた。
「まったくもう……ゼクスもゼクスだけどアルもアルね。まどろっこしいったらありゃしない。全部終わって帰ったら二人して説教ね」
「ああ……そうだな」
サリューの愚痴に答えたクラウディアがかつてない思案顔になっていたのを、クランツは見逃さなかった。意図的に隠された謎の本当の意図を、どうにか探り出そうとする眼。
(クラウディア……)
彼女のかつてない思案の表情を見たクランツは、その瞳の中にいる男性のことを思って、心に薪がくべられて燃え立つような、複雑な感情を覚えた。
そんな彼の内心の葛藤はいざ知らず、セリナが疑問を呈して話を進めていた。
「でもじゃあ、その《魔戒計画》を阻止するための本当の手段って何なのよ。あたし達、アルベルトさんから何にも知らされてないけど」
「そうね。まさかそれは私達が自分で調べろってことなのかしら?」
「まあ奴の思惑上、結局はそうなってるわけだが……あいつも鬼じゃない。何かヒントがあるはずだ。これまでの俺達が辿って来た道の中に、その真実を探るためのヒントがな」
現実的な希望を語るゲルマントの言葉に、ルベールが総括するように続いた。
「そしてそれを整理する場として僕らが辿り着いたのが、このメルキスだったというわけですか……もし全てアルベルトさんの思惑通りだったとしたら、少し恐ろしいですね」
「掌の上とでもいうつもりかしら。いいわ、そこまでのつもりならやってやろうじゃない。どんな思惑があったにせよ、私達にさんざん遠回りさせた貸しは高くつくんだから」
(《遠回り》……?)
息巻くサリューの言葉に、クランツは再び奇妙な感覚を覚えた。
さっきから、何か……時折引っ掛かる言葉がある。
まるで、見逃してはならない言葉に、自然と意識が反応しているような。
その感覚は、農村都市ローエンツの霊樹を通して女神と交信した時の感覚に近かった。
(何だ、これ……また僕に、何か起きてるのか?)
腰元の天意盤に意識を向けながら、クランツは正体の見えない不安に駆られた。
目には見えない、何かの予兆のような気配を感じ取っているような感覚を覚えていた。
クランツのそんな内心の動向はさておき、ゲルマントが改めて話を仕切り直した。
「まあ掌で転がされてるのが気に入らないのもわかるが、おそらくこれも含めてあいつの計略だ。あいつの話を受けた以上、俺達にはそれを達成する義務がある。奴の真の目的について変化がないのなら、俺達は引き続き任務を継続するべきだ」
ゲルマントの言葉には、セリナが再び疑問を投げかけ、ルベールがそれに答えた。
「真の目的っていうのは、《魔戒計画》を止めるってこと?」
「ここまで来ると、もう少し大きく捉えた方がいいかもしれないね。具体的には、《魔戒計画》が王国の内外にもたらす被害を食い止める、って所じゃないかな」
「何か、前よりハードル上がってる気がするんだけど……」
「結局は《魔戒計画》を阻止することにはなる。同じことだよ」
そんな会話を聞いていたクラウディアが、ようやく思案から醒めたように口を開いた。
「アルの真の思惑を探し出す……そのためにここが役に立つということか?」
「まあ、ここには王国の歴史のほとんどの情報が眠ってるといっても過言じゃないですから。ゲルマントさんが言っていたヒントを探すには、少しは役に立つと思います」
カルルの言葉に、セリナが途端に苦言を呈した。
「本探しってこと? うぇー……あたし苦手」
「まあ、皆で手分けすれば少しは捗るよ。セリナも久しぶりの勉強だと思って」
セリナとルベールの会話を横に、クラウディアが見通しを探るように言った。
「情報は確かに大量にある……しかし、その中からどのようなものを当たる? 手あたり次第だとしても、見当を付けなければきりがないぞ」
「そうね。ここはテーマを絞りましょう。『《魔戒》の正体について』でどうかしら。さっきまでの話を聞く限り、それが明らかになれば他の話も見えてきそうな気がしたけれど」
サリューの提案に、クラウディアは再び納得を探すような思案顔になった。
「《魔戒》の正体、か……確かに、まず我々が明らかにすべきはそこか」
「だろうな。戦う相手の素性もろくに知らないまま、ここまでよく来ちまったもんだ」
話が一旦収束を見たタイミングで、よし、とゲルマントはその場を締めにかかった。
「昼飯を済ませたら書庫に行くぞ。カール殿下、案内を頼む」
「その呼ばれ方は少し新鮮ですね。わかりました。僕らに任せてください」
「何、カルル。僕らって当然みたいにあたし達頭数に入れてるわよね?」
「細かいことは気にするな、リヴ。親友の晴れ舞台だ、手を貸してやろうじゃないか」
カルル達が雑談を交わす傍らで、クランツは頭を揺さぶるような違和感を覚えていた。
まるで、何か途方もなく大きなものが近づいてきているような感覚を。
(何なんだ、さっきから……)
得体の知れないものに意識を侵される感覚に襲われていたクランツは、転がる鈴のように綺麗に鳴る、心配そうな音色の声で我に返った。
「クランツさん、大丈夫ですか?」
「え?」
我に返ったクランツの目の前には、エメリアの、意外なほどに心配そうな眼があった。クランツは彼女のかつて見たことのない意外な表情に驚いたが、すぐに気勢を正した。
「あ……うん、大丈夫だよ。ちょっと、頭に疲れが溜まってたみたいで……」
心中の懊悩を誤魔化そうとしたクランツの言葉尻を、エメリアは見逃さなかった。
「ねえクランツさん。せっかくですから少しお散歩しません?」
「え?」
あえて周囲に聞こえるように目立つ声音で言ったエメリアの言葉に全員の目が向く中、座長たるクラウディアが即座に苦言を呈した。
「エメリア、話を聞いていなかったのか。これから書庫で探し物をすると」
「お嬢様には憚りながらのお言葉ですけど、皆で書庫に閉じこもっても息が詰まっちゃうと思うんですよねぇ。意外な所から大事なヒントが得られることもあるかもしれないですし、お部屋に閉じこもるよりお外を駆け回るのが得意な仔猫のエメリアちゃんにはそっちの方が合ってると思うんですぅ」
まるで書庫漁りを逃れようとするかのような物言いには、セリナが食ってかかった。
「ちょ、だったらあたしだって……!」
「セリナさんはどっちかって言うと地道に力がいるお仕事をこなすのがお得意でしょう? エメリアちゃんが言いたいのはやりたいやりたくないじゃなくて適性のお話なので、それにかこつけておサボりはダメですよぉ」
「く……この屁理屈ぶりっ子……!」
歯噛みするセリナを横目に、クラウディアは問い質すように訊いた。
「外で情報を集めるつもりか……どうするつもりだ?」
「お任せくださぁい。これでもエメリアちゃん、ちゃんと当てがありますのでぇ」
肝心な所を見せないエメリアに、クラウディアはさらに突っ込むように訊いた。
「当てというのは何だ。お前もここに土地勘があるわけでもないだろうに」
「さあ、それは言うまでもないんじゃないでしょうかねぇ。たぶんそれに気付いてる方がいらっしゃいますからねぇ。ね、クランツさん?」
「え……?」
エメリアに無茶振りされ当惑しかけたクランツは、一同を見回すその視界の中に見た。
一人、この面子の中で、明らかに他とは違う、意図のある目を向けている人間がいた。
自分に向けられていたその目に秘められたものを感じ取ったクランツは、次いでエメリアの蜂蜜色の目を見た。そしてエメリアが頷きを返した時、この先の展開を何となく予感することができたクランツは、普段にない機転が利くのを同時に感じていた。
「何で僕が一緒じゃなきゃいけないのさ。君なら一人でも大丈夫だろ」
「いいじゃないですかぁ。エメリアちゃんと二人っきりになるの、まだお嫌なんですかぁ? もう何度も同じ夜を過ごしてきたっていうのにぃ」
突っぱねるようなクランツの言葉に迫ってくるエメリアは、重ねて言った。
「それにクランツさんはエメリアちゃんと同じくらい嗅覚がいいですからねぇ。隠れてる何かを見つけ出すには相性最高なんですよぉ。か弱い仔猫のエメリアちゃんを助けると思って、お願いしますよぉ、ね?」
「全然大丈夫そうだけどね……」
クランツとエメリアのやり取りを見ていたサリューが、焦れたように言った。
「行かせてあげましょ、クララ。あの子の言う通り、書庫に全員が籠るのはちょっと効率が悪いわ。それに私達にも行きたい場所があるし。ここは役割を分担しましょ」
「む……それは、そうだが」
クラウディアがそう答えた途端、それを聞き漏らさないとばかりにエメリアが席を立ち、対岸にいたクランツの手をぐいと引っ張った。
「はぁい、サリューさんの言質頂きましたぁ。行きましょクランツさん、早く早く♡」
「わっ、ちょ、ちょっとエメリア、急だって……僕、まだお昼食べ終わってな……」
やけに上がり調子なエメリアにぐいぐいと手を引かれていくクランツの背を見送る中、セリナとルベールが呆れたように呟いた。
「はぁ……ホント何考えてんのあの子。あたしちょっと様子見てきます!」
「君まで抜けちゃうんじゃ身も蓋もないけどね。早く帰って来なよ、セリナも」
立て続いた二人の言葉を横に、ゲルマントが話を進めるように言った。
「放っておきゃすぐに戻って来るだろう。待つのも何だ、役割分担を決めるぞ」
ゲルマントの言葉に、その場に残った全員が頷き、肯定の意を示した。
こうして、クランツはエメリアと一緒に、目立った疑問を持たれることもなく、別行動を取り始められることに成功した。
それに勘付いていたただ一人の目だけを、引き付けるように。
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