4 夢咲楓の遺書
夢咲楓の遺書
夢咲楓は校内におけるいじめの影響で自殺した。
しかし、その証拠はどこにもない。
あるのは彼女の遺書に記された記述のみ。
誰がどんなことを行っていたのか、それすらも明らかにはならなかった。
そして驚くべきことに、彼女の母親は当初学校でいじめなど起きていなかったと主張している。
その理由は、娘は誰かによって恨まれて殺されたのであり、遺書に記されたような些細なトラブルで彼女が自殺するはずがないと考えたからだ。
もっとも、その母親は今ではいじめがあった可能性を肯定している。
学校に問いただすことはしなかったらしいが、事件の三年後に向田氏が調査したところその様に述べていたらしい。
さて、ここからは夢咲楓の遺書を紹介しよう。
ああ、筆者の創作した物語はあそこで終わりだ。
急に章が変わってしまって申し訳ない。
筆者は構成力というものが皆無らしい。
……いや、謝罪はもう止そう。
諸賢もいい加減鬱陶しく感じてしまっていたことだろう。
筆者に気を逸らされるよりは、早く次に進むべきだ。
では、以下がその遺書の全文である――。
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『たくさんの人々へ』
まずはご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。
私が学校で死ねば一体どれだけの人に迷惑か、私ごときではおよそ想像することすら出来ません。
ですが、私はただ自己満足のためだけに学校で死ぬことを選びました。
それが最も目立つ行為だと考えたからです。
浅はかで愚な(注:『愚かな』)私に対する怒りをどうか抑えて、ほんの少しだけこの書に目を通して頂きたく思います。
私は誰がどう考えても間違えた選択をしました。
しかし、そこに理由が無いはずはありません。
理由も無く人は間違えないからです。
私は、いじめにあっていました。
具体的に誰に何をされたかという話はしません。
語る程のことではないからです。
きっとそれを知れば皆さんは、『なぜその程度のことで自殺したのか』と質問をすることでしょう。
ですが、その時にはもう私はこの世にいません。
お答えすることが出来ない以上、その様な質問をする必要もないということをあらかじめお伝えしておきます。
さて、話は変わりますが、私には中学の頃に一人の仲が良い友人がいました。
しかしその友人とはケンカ別れをしてしまいます。
高校に入ってからはもう一言も話さなくなってしまいました。
ケンカの原因は下らないことです。
私が家のことで悩んでいた時に、友人からそれをないがしろにするような発言を受けたからです。
もちろん口論の際に感情的な状態でしたが一応の謝罪は受けています。
私自身もう気にしていません。
ですが、一度ほつれてしまった関係は元に戻せませんでした。
私がいじめにあっている間も、彼女は私に何も言ってくれなくなってしまいました。
いや、そもそも気付いていなかった。
私もそうですが、彼女は私に対して無関心になってしまった。
きっかけは、その彼女が私をいじめている人間と話をしているところを見た時でした。
勘違いしてほしくはないのですが、彼女の所為ではありません。
私が勝手に期待していただけなのです。
何故なら彼女は私がその人にいじめを受けていると知らなかったのだから。
彼女は何も悪くない。
悪くないのです。
私は勝手に絶望し、全てがどうでもよくなった。
死ぬことで何かが変わるわけではない。
でも、生きていても変わらない。
世の中にはそんなことはないとおっしゃる方もいるでしょうが、少なくとも私がここで死ねばそれは事実になります。
私は何も変わらず終わるのです。
どうして誰かに相談しなかったのか。
生きていればいいことがあるかもしれない。
きれいごとを言う人はそのまま言い続けてあげて下さい。
それはきっと無意味などではなく、それが響く人間も必ずこの広い世界にはいるからです。
ただ、私は残念ながら違った。
ただそれだけのことなのです。
私の所為で悩まないでください。
どうか人の命を大切に想う人は想い続けてあげて下さい。
なるべくたくさんの人を助けてあげて下さい。
少なくとも、私は生きている間にそのような言葉を無賞(注:『無償』の書き間違いと思われる)で頂いたことはありませんでしたから、そう言った言葉を欲する人に届けてあげて下さい。
次にお母さん。
お母さんから頂いた大切な命を奪って本当にごめんなさい。
お母さんは何も間違えてなんかいません。悪い所はありません。
私はただこうなることが決まっていただけなんです。
私が死ぬことでお母さんがどれだけ苦しむか、悲しむか、私なんかには決して理解できないでしょう。
親の気持ちを考えられないバカな娘でごめんなさい。
今まで育ててくれてありがとうございました。
謝っても許されないけれど、本当にごめんなさい。
ごめんなさい。
最後に、私が目立つ死に方をするのには理由があります。
それは、なるべくたくさんの人に知ってほしいからです。
自殺はみにくい行為だと。
死に恐れ、死をきらってほしいのです。
なるべくたくさん長く生きて下さい。
なるべくたくさんの人を生かしてください。
少しでも関心を持ってくれたら何かが変わるかもしれない。
私はそう考えて飛び降ります。
ただ、これは実は後付けです。
私は自分の自殺を肯定したいがためにこう言っているだけなのです。
私のやることには意味が無いかもしれない。
でも、決して私が自殺したことに意味が無いなどと言わないでください。
少しは誰かが自殺を嫌うようになったと、そう言ってください。
そうでないと私の人生は本当に虚無になってしまう。
死ぬことを選んだ事実を否定しないでください。
私の全てを否定しないでください。
本当にわがままでごめんなさい。
お母さん、先生、学校の皆さん、ごめんなさい。
それと私の友達だった人、こんな遺書に出してごめんなさい。
私をいじめてきた人、責任があるかのような言い方をしてごめんなさい。
私を殺すのは私です。
誰の所為でもなく、私が私を殺すのです。
誰の所為でも、環境の所為でも、他の全ての所為でもありません。
警察の人、病院の人、葬儀などに関わる人、ニュースなどで不快を抱く人、他にもたくさんの人々へ、本当にごめんなさい。
私の身勝手で迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ありません。
何度目かわかりませんが、改めて謝罪します。
本当に、申し訳ありませんでした。
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