⑬ 『関心』

 夕方 アパート・メイメン戸森




「夢咲楓の胸にハナミズキを刺したのは、瑠璃宮橘花だったってこと?」


 刹那は関吾のベッドにゴロゴロと横たわりながら尋ねた。

 机に向かっている関吾は頷いた。


「恐らく……そうだろうな。一橋清宗朗は学校に侵入して『儀式』を行う方法を思い付けなかった。仮に侵入できたとしても、生徒たちに見つかったら『儀式』を果たせない恐れがある」

「だから夢咲楓とどこかで相談して、夢咲楓が自ら親友に頼むことに決定した。元々は自分が背負うはずの罪だったからこそ、一橋清宗朗は嘘を吐いた……ということかしら?」

「僕はそうだと思う」


 刹那は大きく溜息を吐いた。


「……だとすればダイレクトメッセージの内容は非公開の部分があるってことでしょ? 一橋清宗朗と夢咲楓は自殺の前に一度接触しているんだから」

「まあ、そうなるな」

「それじゃあ初会話のやり取りも『Witter』上にあったけど公開してないだけの可能性がある。あのチャットルームでのやり取りは偶然二人と同じハンドルネームの人物が行っていた可能性もあり得るってことじゃない」

「……それは初めからそうだった。でも、僕はそんな偶然はあり得ないと個人的に思っているよ」

「何とでも言えちゃうよ。結局真実はわからないままじゃない……」


 橘花は確かに楓から『儀式』を頼まれたかのような発言をした。

 だが、ハッキリとは言わなかったのでまた別の事柄の可能性もある。

 可能性は挙げだしたらキリが無い。


「……明日、上沼昌平かみぬましょうへいに会うよ」

「三人目の容疑者だった人?」

「ああ。けれど、一番初めに容疑者から外れた人物でもある。彼にはアリバイがあったから」

「問題は何故自首したのか。第三の事件の犯人は一橋清宗朗以外あり得ないのに……」

「もしかしたら彼も何かを知っていたのかもしれない。チャットルームに関しても……」

「『当たって砕けろ』って感じ?」

「ああ。当たることに意味がある……そんな気がするよ」


 関吾は両手を組んで軽く伸びをした。

 刹那は彼の言葉を聞いて安堵する様に微笑を溢す。


「らしくないんじゃない? 最近のカンちゃん。凄く自分を出して調べてる気がする」

「駄目かな?」


 刹那はとても嬉しそうに首を横に振った。


「そんなことない。できれば前に私がサークルの後輩に告白されたって話を聞いた時も……自分の意見を言ってほしかったよ」


 関吾は以前彼女と言い争いをした日のことを思い出した。

 二人が喧嘩することは滅多に無いが、その日の刹那は何故か関吾の客観的な目線のアドバイスに苛立ちを露わにしていた。


「ああ……そういうことか。だったら初めからそう言ってくれたら良かったのに」

「……わからずやが」

「?」


 刹那は一転してまた不機嫌な態度を取る。

 関吾とは反対側を向いて寝転がってしまった。


「……主観的に動くのは、ルポライターとしてはあまりよろしくない傾向だけどね」


 関吾が溜息を吐くようにそう言うと、刹那はピクリと反応してみせる。


「……そう? 仕事と趣味は分けていいと思うけど」

「趣味って……僕一応仕事で調べてるんだけど」

「そうじゃなくて。仕事の分の調査とただ自分が関心を持ったことに対しての調査は並行してできるでしょ? 方向は同じなんだから」


 関吾は納得して天井を見つめる。


「……関心を持ったこと……か」

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