③ 『調査』
翌日
関吾は刹那と共に事故の現場に訪れていた。
ここは一週間前に自殺者が出た駅だ。
ホームは閑散としていて、いかにも各駅停車の電車が止まる駅といった様子。
二人はハナミズキの花が発見されたというベンチの前に来た。
「流石に一週間前じゃもう事故が遭った痕跡の一つも無いな」
「そりゃそうでしょ。来た意味ある?」
刹那は呆れるようにそう言った。
「意味のあるなしはわからない。僕はただ事実を記録するだけだから」
「記録するべき事実はここにある?」
「ある。現場の風景も何もかも、記録しておいて損はない。というか、これが僕の仕事なんだから」
「……そ」
どこか退屈そうに刹那は線路側の方に目を向ける。
関吾はまだベンチの方を見ていた。
「……一つわからないことがある」
「何?」
「犯人はどうしてハナミズキの花を持っていたんだ? 偶然か? 偶然ハナミズキの花を持っていて、偶然目の前で飛び込み自殺が起きた? そんなことがあり得るか? あり得ないよな?」
刹那は面倒臭そうに眉をひそめる。
口も若干への字だ。
「……私は考え事するのが苦手なの。記憶力には自信あるけど。そういうの、カンちゃんの仕事じゃないの?」
関吾は首を横に振った。
「いや、僕の仕事は事実を記録することだけだ。お前が情報をインプットする役目なら、僕はアウトプットする役目。その情報を見てアクションを起こすのは第三者の役目さ」
「……じゃあ疑問に思ったことに答えは出さないの?」
関吾は少しだけ唸った。
そして頭を掻きながら答える。
「……『出さない』というよりは『出せない』かな……。僕にその能力は無い。そりゃ自分なりに考えはするしそれで答えが出るのならそれが一番だけど……僕には答えがわからないんだよね……」
悔しそうな顔をする関吾を見て刹那は自分なりに頭を働かせた。
彼女の場合は本来考えることが苦手なのではなく面倒に思ってしまうだけだ。
それを苦手意識と言えばそうなるのだろうが、能力が低いというわけではない。
多少思考すれば相応の結果は出すことが出来る。
「……でも、さっきの疑問の答えはわかり切ってるかも。答えは『偶然じゃない』。そんなことはあり得ない。ここで自殺が起きると予め知っていたからハナミズキを用意できた。これはカンちゃんもわかってるでしょ?」
関吾は渋い表情で頷いた。
ただ、ここから先が彼には全く思いつかなかった。
「それはそうだ。そうなんだよ。問題はどうやって自殺がここで起きると予測したのかだ。一橋清宗朗と同じ様に自殺者と予め接触していたのか? だとしたら……それはどこで?」
「それも同じようにSNS上じゃない? リアルでそういった話は出来ないだろうし……。だとしたらどういったサービスを利用したかは気になるけれど」
「ああ。でもこれ以上は僕等にはわかりようがない。……写真だけ撮って次に行こうか」
関吾はホームの様子を収めてからこの場を離れることにした。
他にも事故現場はいくつかある。
そのほとんどは地方だが、関吾は妥協せずに全ての場所に足を運ぶ。
今日は近場なので刹那を連れたが、彼女の大学もあるので基本は一人行動だ。
情報整理を彼女に任せ、とにかく関吾は取材を進めていくのだった。
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