3 向田関吾の記録(※物語形式)
冒頭文
彼は大学を出てから出版社に就職。
そこから三年後にフリーランスとして自立すると、主に古巣の依頼に応じて様々な取材、記事の執筆を生業にしていた。
容姿とコミュニケーション能力に優れ、同業者からの信頼も厚い。
若くして非常に多くの評価を受けた記事を作成してきた。
ただ、彼の客観性を求めすぎる姿勢からは、賛美と同時に若干の否定意見も生まれてしまっている。
彼からすれば的外れもいい所だろうが、中には彼という人間の人格に口を挟む者もいる。
曰く、『向田は自分が無い』だとか、『向田の仕事には中身が無い』といったものだ。
ルポライターとして客観性を求めるのは当然であり、彼は職務を大いに全うしている。
しかし、若くして優秀な彼を妬む者の存在は消すことが出来ない。
彼は身勝手な他者の批評を浴びながら、それでも淡々と取材を続けていた。
彼を語る上で一人、重要な人物がいる。
それは彼の取材の協力者でありパートナー。
向田
彼女はまだ大学生で、関吾の取材にはアルバイトという形で協力をしている。
身長と見た目の所為かよく幼女と間違われるが、れっきとした成人女性だ。
彼女は高校生の頃から暇を見つけて関吾のサポートをしてきた優秀な人物で、どういうわけか関吾への協力に労を惜しまない。
孤独な職業柄、関吾は彼女の存在にとても救われていると語っている。
彼が優秀な結果を残し続けているのは彼女の存在が効率面、精神面で役立っているからにほかならない。
さて……賢明な読者諸賢ならばもう気付いているかもしれない。
今述べた『向田刹那』という女性。
彼女は――空想の人物だ。
筆者は彼の物語を作成するにあたり、あろうことか関吾の協力者という存在しない人物を勝手に創り上げた。
筆者の他作品を読んでいる方々ならば予想も出来てしまっただろう。
どういうわけか筆者は物語を作るにあたって女性の『ヒロイン』を必ずと言っていいほど出現させてしまう傾向にある。
というか幼女の見た目の成人女性が現実にいてたまるか。我ながら煩悩に塗れすぎている。
ただ、筆者はどうも彼の取材記録を諸賢に飲み込みやすくするには『彩り』が少々足りないと感じてしまったのだ。
決して筆者が少女愛趣味を持っているわけではない。決して。
……どうやら『足りない』のは筆者の頭の方かもしれない。見逃して頂きたい。
では、ここから先はそんなとんちきな筆者による野暮天な物語を晒していくとしよう。
諸賢の目に入るにはいささか汚らわしい内容だろうが、申し訳ない。
……何度も謝罪と自虐を繰り返す悪癖も抑えるべきかもしれない。
諸賢も疑問に思ってしまっていることだろう。
そこまで自身のことを卑下しながら何故この書を記したのだ、と。
理由は一つだ。
筆者は自らの痴態をさらけ出してでもこの『花水木事件』について諸賢に『関心』を持ってもらいたいと考えているからだ。
ただそれだけ。
それに比べれば筆者の痴態など三千世界に剥き出しにしても構わない。
……いや、それは言い過ぎかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます