第201話
花の“大きさ”は、天守閣の上部を覆うほどに巨大だった。
屋根はすっぽりと覆われ、氷の皮膜が城の外壁を縫うようにその冷気を伸ばしている。
青い瓦は白く凍りつき、切り妻の屋根の端に組み上げられた立派な「破風」も、氷の粒子に被われる形で元の姿を失っていた。
名古屋城はもはやその原型を留めてはいなかった。
氷の花が、天守閣の「色」をも変えていたためだ。
花の形は「蓮華」に似ていた。
まるで大量の氷が、城の中から無造作に吐き出されているようにも見えた。
「派手にやったね」
夜月は額に手を翳して、遠くからその様子を眺めていた。
驚いた顔でその「魔力量」に感心していた様子だったが、深雪は少しばかり怪訝な表情を浮かべていた。
「調査隊の人たちが黙ってないね」
「え?」
「ほら見て、あそこ」
彼女たちは西側の隅櫓(日本の城の敷地内において、曲輪(くるわ)の石塁や土塁の隅角に建てられる櫓のこと)の上にいたが、深雪は西門を通っていく調査隊の隊員を発見していた。
クリーチャーとの派手な戦闘は周囲にもその余波を広げていた。
騒ぎを聞きつけた調査隊の隊員が動き出すのも無理はなかった。
本来、魔族との戦闘に特別な「認可」は必要ない。
街中での戦闘は、人々の安全を守るために“即時行動許可”の特設ルールが設けられている。
ただし街中での戦闘は、周囲の人々にも影響が及ぶため、魔力の“制限”が常時設定されている。
今回のように隔離フィールドが展開され、魔力使用量の制限が解除されれば、魔力の使用に関してもより緩和された環境内で戦闘を開始することができる。
とはいえ、今回の“案件”に関して言えば、調査隊の隊員たちとも事前に連絡を取り合う必要があった。
夜月たちがここにたどり着いた時もそうだ。
本丸へ至る正門には調査隊の隊員が数名配置されていたが、この場所に今回の「合同チーム」が到着することは、魔法省を通じて共有されていた。
今回の任務はあくまで調査隊との合同によってとり行われている。
亀裂が発生した原因についての「調査」がまず優先事項にあり、戦闘は二の次であった。
クリーチャーが出現したとは言え、ここはすでに人々の安全が確保されている場所だ。
クリーチャーを捕縛し、その生態を調査機関に回せば、今回の事象に対して有力な情報が得られるかもしれない。
その可能性が排除されない限りは、勝手な戦闘は基本的に禁止されていた。
まずは調査隊の指示を待っての行動が正しい手順となっていた。
深雪はその事情を鑑み、小さなため息をついた。
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