第200話



 着弾と同時に氷が砕ける。


 1発目の矢が形成した氷の花は、亀裂に蓋をするようにふくよかな花びらを伸ばす。


 花の中央に2発目が着弾するや否や、氷の層と層が細やかな繊維の中に絡みつく。


 水と水が混ざり合うように、あるいは、火と火とが絡みつき、一つの巨大な炎へと成長するように、「線」が太く、より”濃く”なっていく。


 魔力は、その形質上水のような融和性を持ち、また、「溶媒」としてあらゆる物質やエネルギーを溶かすことができる媒体でもある。


 2発目の「雪月花」は、最初の雪月花によって形成された氷の花の表面に接触するや否や、魔力で構成された氷の“層”を溶かしつつ、新たなエネルギーの変換に向かって流動した。


 キョウカが矢を2発放ったのは、一撃目の「雪月花」の強度を高めるためだった。


 亀裂の内側から持ちがってくる自らの魔力を掬い取るように、エネルギーの中心点に向かって、鋭い鏃を向ける。


 狙いすまされた確かな放物線と、ベクトル。


 接触した2つの「雪月花」は、高い所から白い布を垂らしたように直下する水の流れが、緩やかな斜面の上を“跳ねた”かに見えた。

 

 一見すると、水雫が勢いよく持ち上がったようにも見えた。


 高い崖から落ちてくる「滝」が、無数の水雫を散らして暴れるように、氷の粒子が真っ白に泡立ちながら騒ぎ、水煙を巻き上げた。



 壮観だった。



 「雪月花」は攻撃魔法に分類されるが、その名前に“花”がつくように、その形状はおおらかで柔らかく、美しい。


 ふんわりとした輪郭が花冠の先に伸び、幾重にも重なった螺旋配列の花弁が、規則正しい“並び”の上に整っていた。


 全て氷でできたとは思えないほどに細やかな模様が、花びらひとつひとつの曲線をはっきりと浮き上がらせていた。


 触ればほどけてしまいそうなほどに繊細な質感、——その大輪が、天守閣の中央に咲き誇り。

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