第199話
2発目の「雪月花」が着弾したのは、1発目の矢が亀裂の内部で雪の結晶を形成した“後”だった。
雪の結晶は瞬く間に亀裂の内側を覆い、白く濁った氷の層が絵の具を溢したように広がっていく。
液体から固体へ。
目まぐるしい変化とうねりの底で、激しい突風を伴う冷気が回転する。
空間は泥を混ぜたように濁り、紙を引き裂くように細切れになりながら、「白」が暴れている。
氷の「花」が咲いた。
氷でできた半透明な花の弁がいくつもの層を作り、隙間もないほどに押し込められた無数の粒子が、青白い線を紡ぎながら柔らかい曲線を描いていく。
花びらは、矢の中心から伸び上がるように低い軌道を辿っていった。
水面の上で、いく重にも輪を描いて広がる波の模様を描くように、緩やかな「相」が、空間の表面を泳いでいった。
2発目は、その「花」の中央に着弾した。
亀裂の内部で表面化する氷の膜が、外側からでも目視できるほどに成長していた。
その成長速度は、空気中に漂う滑らかな“質感”を押し曲げるほどに速かった。
まるで、空間そのものが“膨らんで”いくようだった。
空気全体が球面上に伸長し、風の切れ目を縫いながら青く蠢く。
冷気を巻き上げながら回転する音は、鑿岩機が、岩を砕いている時のような音だった。
氷の層が膨張していくにつれ、「青」が千切れていく。
それは空気の周りを泳ぐ水蒸気が、気体から固体へと変化する際の、目まぐるしい状態変化の渦中に渦巻く“気流”だった。
逆立つ粒子が、そこにはあった。
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