オレと城下街
城下街、【サクラ】。
城郭都市であり、どでかい壁と巨大結界で街そのものを囲っている。
入るには東西南北それぞれに設置された4つの内どれかの大きな門をくぐり抜ける必要がある。
街のド真ん中には大きな丘が存在しており、そこに洋風な王城が建っている。
上から見れば中央だけが盛り上がっており、更に壁で街を丸く囲っているのでまるでドーナツのよう。
そしてこの国一番の特徴は、やはり名前の由来ともなった[桜]である。
遥か昔に、かの偉大なる勇者がまだ小さかったこの国に東洋から持ってきたという珍しい植物。
勇者は、この桜という花は『和風』で『趣がある』という言葉を添えてその頃の王に渡したそうな。
桜は代々種を引き継ぎ続け、今でも“四年に一度の春”に満開となり、この街を美しく彩る。
そして桜の咲く特別な年に、【満開桜大祭り】を催される。
祭りを中心とした街おこしで城下街は発展し、今のようになった。
故に当代の王は勇者からの贈り物に感謝を込めて、この街の名を【サクラ】にしたのだ。
・・・・・といっても勇者云々が本当の話なのか、当時桜の事を綺麗に語る為に作られた話なのかは、分かっていないのだが。
少なくとも半分御伽話だ、勇者の存在自体が不透明だし、東洋の国なんてものも実際に調査してみた結果それらしき国は無かった。
まぁ今の城下街に住む人達にとって勇者の真偽はどうでもいい。
ただこの街にしかない桜が花開く時を、皆純粋に楽しみにしているだけだ。
そして遂に来年がその花開く時なのだ。
今は八月、祭りは四月・・・・まだ半年前だが、既にこの街は祭りの準備期間に入っていた。
元より交易が盛んで騒がしいが、それはそれとしていつもより人々が色めきだってるのはこれが理由だ。
それだけ、この祭りは特別なのだ。
そんな楽しそうな空気の中、完全に目が死んでいる男が一人で真昼間に歩いていた。
彼は今さっきこの街に入った男、クズルゴだ。
クロイ達との戦いの際に身につけていた宝石まみれな鎧は着ておらず、今は黒いインナーに赤紫のカーディガンという特に面白みのない服をしている。
城下街は国の主要都市であるが、入るのに面倒な手続きを必要としない。
実際クズルゴは冒険者の身分証明書であるギルドカードを見せれば簡単に入れたのだ。
ここまで連れてきてくれた馬車のおじさんには、上辺だけの感謝を伝えて早々に別れた。
そうして今、街中をハイライトのない目のまま早足で進み続けるクズルゴが誕生した。
(早く金、金、金・・・・・)
クズルゴは金の事を考えつつも、視線を下に向ける。
下に向いた目に映るのは、自らの手で握られたくしゃくしゃの紙が数枚。
紙は3枚、それぞれに書かれているのは・・・・・
[急募・被検体募集・時給15万エヌ とても安全です。すごく安全です。 万に1つも有り得ませんがどんな失敗してもこちらは一切責任を負いません。 内容はこちらに来てから説明致します。なおこちらに来て説明を聞いた後に拒否は出来ません。 いつでも募集しています 場所はサクラの裏エリアBにある紫色の建物]
[城下街にてとある御方の護衛 成功報酬80万エヌ 選抜あり 失敗した場合、責任をとっていただきますので自身の能力に自信がある方のみ応募してください 日時は8月30日の18時まで エリアDにある喫茶店アッセンブルの前で現地集合]
[誕生日パーティの余興 蠱毒喰と一緒の檻に入って1時間生き残れば30万エヌ 9月2日の20時にエリアGのイスキ館]
ゴールドギルドのクエスト内容を紙にした[依頼書]だ。
最近ではクエストディスプレイで画面越しにクエストを受注するのが殆どだ、紙媒体の依頼書は珍しい。
この紙はクズルゴにとっての憎き三人のウチの一人、クロイという男に渡されたもの。
よってこの皺くちゃな紙を見る度に憎悪の対象である彼らが脳裏にチラつき、破きたくなるのだが・・・・まずは100万エヌだ、金を得れそうなキッカケは大事にしておかねば。
ちなみに現時刻は13時、今日は8月23日だ。
この依頼書を受ける受けないにしろ、まだ始まってすらいないので一回後回しだ。
ちなみに『いつでも募集』と書いてあるが被検体のは論外だ、余りにも怪しすぎる。
蠱毒喰もだ、流石に危険がすぎる。
クズルゴが受けようと思っているのは『御方の護衛』と書かれた依頼書だ。
理由は単純、報酬が城下街である事を加味しても破格の80万エヌであるし・・・・
(あの触手女、テクルが汚い金で誤魔化せないように対策で『その金の出処を証明できるものを用意しろよ?』って条件を加えやがったからな・・・・)
クエストを受けた事の証明書の発行・・・・試した事も、実際に発行された事があるかは知らないが、少なくとも並のクエストでは一々発行して貰えないと踏んだからだ。
お偉いさんの護衛なら上手くやって証明書、或いはそれに値する物が得られるかもしれない。
(・・・・・それにしても、『御方』ねぇ。 ヤケに仰々しく書かれてるな。 あからさまに正体を隠してる偉い奴だ。 商会のトップとか学会の管理人とかか? でも・・・・そんな奴らが冒険者に依頼するか? ああいう権力者クラスになると専属で護衛を雇ってるもんじゃないのか? わかんねぇな)
一瞬、本当に一瞬だが『御方』といういかにもな書き方のイメージに引っ張られて、クズルゴの頭の中には世間でも噂でしか出てこない“王の娘”という線を思いついたが・・・・・
(それこそ荒唐無稽な話だな。 王家だったらそれこそ各地に派遣された治安維持組織【兵士団】の上・・・・【騎士団】がボディーガードする筈だ。 王の子供を冒険者に任せるのはありえねぇ。 金を積まれた冒険者が護衛依頼で依頼者を裏切った事件が実際にあったしな。 この街には大図書館、様々な商会、裏エリアのギャング、兵士団本部と騎士団・・・・とにかく沢山のデカい組織が存在してる。 なんならゴールドギルドだってその中に含まれる。 組織の数だけお偉いさんの数、正体隠した偉い人=王族は発想が飛躍しすぎたな)
クズルゴはあり得ないとその考えをバッサリ捨て、再び金の事に思考を切り替える。
(護衛依頼の時が来るまで後一週間だな。 それまでは普通のクエスト・・・・といってもゴールドギルドじゃ普通でも猛者しか出来ないレベルなんだろうが・・・・それを受けて稼ぐしかねぇや)
クズルゴは早足を駆け足にして【イズリラ】とは比べものにならない程規模が大きなゴールドギルドへと、時たま見かける道案内の看板を見て向かった。
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