第二.五章 オレと借金返済

オレとあの日

 『私ね、大きくなったら冒険者になるんだ!』


 『私も〜、なりたい〜!』


 どこかの屋敷のベッドルームの中、まだ齢が5もいっていない可愛らしい二人の女の子が目の前に絵本を広げて夢を語っていた。

 片方は赤髪、もう片方は青髪だ。

 前にある絵本のタイトルは、『せかいのすごいぼうけんしゃたち』

 子供向けに編集された、かつて名を轟かせた一流の冒険者達の事にちょっとしたエピソードを添えつつ紹介する児童向けの本だ。


 『そうか、頑張れよ』


 そしてその二人の夢を聞かされているのは、冷めた返事をした一人の男の子。

 髪色は黒、しかし生まれつき前髪の先端が赤紫になっているので完全な黒ではない。

 女の子に比べると若干歳は上に見える。


 『私はこの、ビキニアーマー?っていう鎧着て戦うんだ! これとっても涼しそう!』


 『それなんか恥ずかしくない〜? 私はこのとっても大きなローブ服がいい〜!』


 『そうか、頑張れよ』


 『『・・・・・・・・・・』』


 雑な返事しかしない男の子に、女の子は若干苛立った様子。

 無言となり、男の子の顔を二人がかりで覗き込んでいる。


 『な、なんだよ』


 『『“お兄ちゃん”、二人の妹が夢のお話してるんだからもっと興味持って(〜)!!』』


 『あーーー、うん。 分かったから離れろや・・・・』


 『『ならよし(〜)』』


 女の子達・・・・正確に言えば、男の子の妹達。

 幼き二人の妹は、返事を聞いて嬉しそうにキャッキャと笑いながら指示通り離れていく。


 『ていうかビキニアーマーって・・・・鎧としての役割色々放棄してるだろ。 それにブカブカのローブか・・・・わざわざサイズが合わない服を着る意味は?』


 『ビキニアーマーは身軽さが特徴なんだよ!』


 『ブカブカは可愛いでしょ〜?』


 『そ、そうか・・・・まぁいいんじゃねぇか?』


 まだ子供であるが、まるで大人のような語彙で饒舌に喋るおませな男の子。

 妹達にとって、兄の大人っぽい話し方はいつもの事なのだろう。

 特にそこに言及することも無く、絵本を見せつけて描かれている絵の可愛らしさを見せつけていく。


 『えっとね、この絵本の冒険者さん、よく見ると小さなリボンがあるの。 そこも可愛いでしょ!』


 『こっちのページの冒険者さんは大きなリボン〜』


 『オマエらがリボン大好きなのは分かったから・・・・もう寝る時間だぞ。 絵本を仕舞って早く寝るぞ。 明日は兄貴が帰ってくるしな』


 『『は〜〜〜〜い!!』』


 機嫌がいいのか、妹達は反発する事なく素直に兄に従う。

 そして既に用意されている3つのベッドの中へといそいそと潜っていく。

 この3つのベッドは川の字になっており、妹達はそれぞれの両端を選んだ。


 『お兄ちゃんは真ん中ね!』


 『真ん中真ん中〜!』


 『えぇ・・・・いつもはオレ右端だろ? ・・・・・まぁいいか。 それじゃ照明消すぞ・・・・』


 兄である男の子は少し苦笑しつつも、妹達の我儘を聞いてやる事にして真ん中のベッドに入る。


 『『うん、お兄ちゃんおやすみ(〜)!!』』


 『あぁ・・・・[ベリル]、[ラズリ]。 ・・・・・おやすみ』


 ちょっぴり騒がしいが愛しい妹達の名前を呼び、そのまま目を瞑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 「・・・・・はっ!?」


 意識が、覚醒した。

 

 (・・・・・・成程、オレは眠りこけてたわけか)


 さっきまで夢を見ていた事を、馬車の荷台中の男はすぐに察した。


 「お、目覚めたかい? ぐっすりだったねぇ。 丁度よくそろそろ着くぜ・・・・我らが王のお膝元、城下街【サクラ】だ!!」


 男が目覚めたのに気付き、この馬車を運転している快活なおじさんは声をかけてきて、高らかに今向かっている場所の名を言った。


 (知ってるに決まってるのに、なんでこいつはわざわざ大声で街の名前を言ったんだ? そこに向かう為に乗ったオレが名前を知らないとでも思ったのか? 馬鹿なのか?)


 陽気なおじさんに対して、男の心中はとても穏やかとは言えなかった。

 罵詈雑言を心中で撒き散らす男・・・・今はとても機嫌が悪いのだ。

 

 なにせ城下街に行く理由は、1年以内に100万稼がねばならないからだ。

 城下街は流通が盛んで物価が高いが・・・・ギルドでのクエスト達成報酬もそんじょそこらの田舎ギルドとは文字通り桁違いだ。


 それでも100万を一年以内は鬼畜だ・・・・だから金をケチり最近では滅多に見ないヒッチハイクをし、揺れが不愉快極まりない城下街行きの馬車に乗り込んだのだ。

 一つ誤算だったのは、タダで乗せてくれたこのおじさんがかなりのお喋り好きでメッチャ話しかけてきたことぐらいだろう。

 物凄く煩かったので途中から寝たふりをしてやったが・・・・どうやら自分は途中から本当に寝てしまい、あの日の夢を見ていたようだ。


 随分と“嫌な夢”だったのは、この不快な揺れのせいか?


 (・・・・・・まぁいい。 さっさと金を稼いでアイツらから撮影石を買わねぇと・・・平穏な、平坦な日常を送る為にも。 あの中身を世間にリークされる前に!!)


 もう目前まで迫っている城下街への大門を前に、男は・・・・[クズルゴ]という名の先端が赤紫色の黒髪をした冒険者は、決意を新たにした。

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