第112話 僕:これから

 「・・・・・これが僕が皆さんを巻き込むという凶行に至った経緯っす」


 僕はその時その時に何故その行動をしたのかという心情を混ぜ込みながら、全ての事実を包み隠さず話したっす。

 

 僕は『元』となる人間を弄られて生まれ直された、異常な存在である事。

 『魔人の回収』という命令を受けていた事。

 博士に叛逆する為に、【絶対命令刻印】の強制力を掻い潜る唯一の方法として、とてつもなく遠回しに皆さんを誘導した事。


 その他諸々全てを伝えた後、僕は『元』から引き継いだ知識の中で常識的範囲内で一番の謝罪の意を示せる行為、土下座をしたっす。


 「皆さんを自分の、博士に復讐したいという私情の為に利用して、本当にすみませんでしたっす!! 一生をかけて償わせて頂きたいっす!! 目障りだったら僕はすぐにでも此処から離れ、これからは毎日皆さんが泊まってる宿部屋の前にクエストなどで稼いだお金を置いていき、視界に入らない方法で贖うっす!! 僕を殴らなければ気が済まないなら、好きなだけボコボコにしてくださいっす!! 僕のような大迷惑野郎は、皆さまの望むがままの方法で罪滅ぼしするっす!!」


 「いや重いな!?」


 ???

 お、重い?

 クロイは何を言ってるんすか?

 ありのままに、自分ながらも清々しいと思えてしまう程赤裸々に意志を伝えただけなのに・・・・重い?


 重いってなにがすか?


 「シクスさん、そこまで卑屈に己を蔑むように言わなくとも・・・・」


 「卑屈に関してラスイは人の事言えないと思うな、私」


 「テクルの意見には俺も同意する。 シクス・・・・まるでラスイと同じ自己評価最下位人間にお前がなるとはな。 でもよ、確かに俺達を巻き込んだのは事実だが流石にそこまで自分を卑下する事はないだろ。 お前の覚悟重すぎだろ、なに自分が全ての元凶です、全責任は自分が負いますみたいな深刻な顔してるんだ!! お前はラスイ誘拐の実行犯であると同時に、博士の逆らえない命令に従うしかなかった被害者でもあるだろ!? むしろ博士に一泡吹かせる為にお前は凄く頑張って工夫したよ!! ・・・・・・・いやなんで俺がシクスのフォローに回ってるんだ!?」


 何故かクロイが僕を褒めてるっす。


 「僕は大罪人っす・・・・僕の生きる理由は皆さんに償う事っす・・・・だからこんな僕に褒めるとこなんて無いっすよ・・・・」


 「激しい見解の相違だ!! 俺博士との戦いで命の危機を感じた時は八つ当たり気味にお前の愚痴言いまくったけども!! まだまだ残り長い人生を全ベットする程の罪ではないだろ!! テクルも何か言ってくれ!!」


 「え、償いたいって本人が言ってるんだし好きにさせればいいじゃないか。 思う存分私達の為に罪滅ぼしするといい」


 「あれぇ!? お前そんな薄情なキャラだったか!?」


 「ラスイは誘拐された本人でありながらも持ち前の聖母の如き優しさで心からシクスを笑って許すだろう。 でも私は違うぞ。 私から一時でも強引にラスイを引き離した時点で絶対に許さない、絶対にだ。 例えどれ程の悲しい過去、背景があってもな」


 「マジかお前」


 「テ、テクルちゃん・・・・!?」


 そう、テクルさんの言う通りっす。

 僕は哀れにも人工的に創られた存在のナンバー6ではなく、シクスという1人の罪人。

 許さないというテクルさんの言葉が、逆になんだか心地よく感じるっす。


 「シクスお前、私の言葉通りに罪を償うんだよな?」


 「はいっす! 例えどんなものでも従うっす!」


 「なら、この言葉を胸に刻めよ。 私が考えた、お前の罪の償い方だ。 ・・・・・・お前、一生私達の荷物持ちな」


 「はいっす!」


 荷物持ち・・・・・思ってたより軽い、とは思わないっす。

 テクルさんはどんな大型の魔物だろうと基本的にワンパンするっす・・・・それを運ぶのはきっととても苦労するっす

 魔物以外でも、きっと持つだけで苦痛になるものもこの世にはあると思うっす。


 これからは僕が皆さんの“荷物持ち”として全ての負担となる物品を運搬する・・・・それはきっととても大変で・・・・・大変で・・・・・たい、へんで・・・・・・?


 物を、運ぶ?


 「勿論わざと手抜きし素の腕力で持つんじゃないぞ。 お前の身に宿ってる能力を存分に活用するんだ」


 「え、そ、それって」


 つまりテクルさんは、〈クラック・ブランク〉で運べと言っているっす。

 それじゃ、何の苦にもならないじゃないっすか。


 「あぁ、そういう事か」


 「テクルちゃん・・・・・!!」


 クロイが何か納得したような、ラスイさんが感動したような面持ちでテクルさんを見ているっす。

 僕もテクルさんの方を見て・・・・テクルさんも僕の方を、僕の目を覗き込むように見てきたっす。


 「大事な物含めて荷物をお前が基本全部持つ都合上、勝手に自分から危険なとこに突っ込むとかも無しだからな。 それこそ迷惑だ、償いどころの話じゃなくなる。 同じ理由で、私が進んでお前をぞんざいに扱ったりもしない」


 「え」


 「それにパーティは沢山いる方が受けれるクエストが増える、仲間は多いに越した事はない。 だからお前はパーティメンバーのままだ、絶対に外したりしない」


 「え」


 「お前は、一生私達パーティの荷物持ち・・・・だけど他の事でも勿論役に立って貰うぞ、例えば武器を出して戦って貰うとかな。 あ、さっきも言ったが迷惑だから命を捨てるような戦い方はするなよ?」


 「え」


 「そして仲間内での円滑なコミニュケーションをするために無駄なお喋りも沢山するぞ。 お前だけ省いたりはしないぞ、協力する仲間だからな」


 「え」


 「じゃ、これから私の言う通りのやり方で償うんだな・・・・・これからもよろしく、シクス」


 「俺からもよろしく」


 「よ、よろしくお願いします・・・・・!!」


 「え、え・・・・・え?」


 「どうしたシクス? 私の言葉に何か不満が?」


 そんなの、そんなのって。

 テクルさんが言ったのは、つまり。


 「そんなの、今までと何も変わらないじゃ無いすか・・・・!!」


 そしてテクルさんが言ったこれからは、まんま今までの僕が行ってた〈クラック・ブランク〉によるもの運びと同じっす。

 何一つ、苦しいと思えるものがないっす。


 このパーティに入ってからの日常。

 楽しくて、満たされる日々。

 最後まで厚かましくも手放したくないと願ってしまっていた、時に騒がしく時に平和な心地よい毎日。


 そんな素晴らしいものを罪人の僕が、なんの咎も受けずに?

 

 そんなの、あまりに虫も都合もよすぎるっす。

 僕はこれ以上の恥知らずになってしまうっす。


 「うん、そうだが? 何か問題でも?」


 テクルさんは微笑みながら、僕に疑問を投げかけるっす。

 

 「だって、今までと変わらない、楽しい毎日を享受するのなんて・・・・そんなの、償いにならないっす!!」


 僕の返答を聞いたテクルさんは・・・・笑みを消して、目を細めたっす。


 「お前は何を言っている?」


 途端に膨れ上がるプレッシャー。


 「!!」


 「償い方を決めるのは私達だ。 お前もそれで納得してる筈だ。 それなら不満なんて無いだろ」


 あ、テクルさん、キレてるっす!!

 僕が起きた時に謎にワタワタしてたり、穏やかに語りかけるような話し方のせいで、てっきり怒ってはいてもそこまで激しくはないと誤解してたっす。


 でも違ったっす、他二人は口ぶりから分かる通り本当にあまり怒ってないみたいっすけど、テクルさんだけ別格レベルでガチギレしてるっすぅ!!!

 ただ怒り方が静かだから一見気付けなかっただけっすぅ!!!


 「口にせずとも見れば解るぞ、お前は不満なのだろう。 大罪ラスイ誘拐を犯した自覚を持つのに、下されるべき極刑の裁きが下されない。 ましてやこのまま不変の日々を送るなど論外だと、そう言いたいのであろう?」   


 あれ!?

 テクルさんの語り口おかしくなってないすか!?

 言葉が複雑になって威圧感が強くなってるっす!!


 ん?

 クロイとラスイさんが何やらコソコソと話してるのが聞こえるっす・・・・


 「で、出た・・・・!! テクルちゃんのバチギレモードだ・・・・!!」


 「バチギレモード? なんだそれ?」


 「え、えっと。 テクルちゃんの怒りって基本3パターンあってですね。 過去に私のストーカーさんを撃退する時になった、敵だけを見据えて殺意ましまし、殆ど喋らなくなって他の事は何も考えられない理性がトんでる『ブチギレモード』。 博士さんを倒した時の、冷静だし普通に喋れるけど、確実に相手を長く苦しませる為の行動をとる『ガンギレモード』。 そして今の、口調が豹変し難しい言葉を使うようになって主に言葉責めする『バチギレモード』・・・・・テクルちゃんは時と場合によって、無意識に3つの怒りを使い分けてるんです」


 「無意識下とはいえ、選択式の怒り方とか斬新だな。 あ。 あの時シクス追跡時のも『バチギレモード』だったんだな・・・・・ そういやその3つの怒りのネーミングってラスイが考えたのか?」


 「私なんかが名付けるなんて烏滸がましいですよ・・・・!! 全部おじいちゃんが考えた名前です」


 「そっかおじいちゃんか・・・・自分の子の怒感情にモードってつけるとか中々の性格してるな」


 凄い呑気にお喋りに興じてたっす!!


 「よいかシクス」


 「は、はいっす!!」


 威厳を感じる語りかけに、意識をテクルさん方面に戻すっす。

 自分でも何が『はい』なのかは分からないけど、思わず返事してしまうほどの凄みっす。


 「償いたい贖いたい罪滅ぼしがしたい。 こう想っている時点でお前には良心の呵責という苦しみが発生している。 勿論良心が痛んでいるからといって罰は緩まない。 ・・・・だが」


 「だが?」


 「・・・・・とある男が、自身の暴力性に嫌気がさして肝心なところで弱気になっていたとある女に言った『無意識に制限をかける程しっかりと罪悪感を感じてる分お前は十分良い奴だ』という言葉がある。 お前が罪の意識を感じている時点で、業を背負ってはいながらも良い奴であるのは間違いない事柄だと私は思うのだよ。 だからこそ、だからこそだ」


 「だからこそ?」


 「だからこそ、逆にこれからもお前を対等な仲間として扱うのだ。 お前は厳しく苛烈な裁きを“望んでいる”。 罪人の望みを罰とするのはおかしいだろう? さすればこれは良い奴であるからこそ正当な罰を願うお前への一番の刑罰に成りうるのだ」


 強く強く咎めてほしいと僕が考えていたからこそ、テクルさんが与えたのは実質的なお咎めなし。

 むしろこれからの幸せでもある。


 ・・・・・あぁ、成程。

 だからこそ、これは確かに僕に効くっす。


 僕はこれからもきっと、皆の後を辿って一緒に歩んでいくっす。

 深く暗い後悔を抱えながら、引き摺りながら、僕はついていくっす。


 厳しいだけの安易な罰ではない、これからを罪悪感を持ちながらも共にしていくという、包み込むように突き刺さるキツい罰っす。


 ・・・・・テクルさんって、意地悪っすね。

 簡単に体で支払えてしまうような苦しいだけの罰ではなく、心で精算していく罰。

 本当に、とっても、意地悪っす。


 でも。

 口ではああ言ってるけど。

 これは、テクルさんなりの優しさである気がするのは。

 刻印の命令を誤魔化す為に身についた、都合のいい解釈する癖のせいっすかね?


 「さて、話は終わったし先生を呼びに行くか! 私達は仲直り出来たってな!」


 「あ、元に戻った」


 「ん? 戻るって何がだ?」


 「いやこっちの話だ・・・・ていうか仲直りて。 一気にワードセンスが稚拙になったな」


 「なんだと!?」


 「テ、テクルちゃん落ち着いて!!」


  この場にオトマトペがあれば、『わーわーがやがや』と出てきそうな程騒がしく言葉を交わす3人。


 僕はこの少しおかしな、どこか外れてるこの三人と共に生きていくっす。


 罪滅ぼしであるはずなのに、これからを考えれば心躍ってしまうのは。

 自己を戒める事が簡単に出来ない、テクルさん考案の罰だからっすかね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガタガタと僅かながらも揺れ続ける、とある馬車。

 その馬車の荷台に乗っている、人物がいた。


 「いやぁ、馬車に乗せてほしいだなんて久々に聞いたよ! 最近はお値段が張る代わりに一瞬で移動できる便利な『転移大魔法陣サービス』とか、移動する際の景色も楽しみたい観光目的の人の為の『遊覧車』とかでの移動でめっきりだからね! それを差し引いても快適に目的地に向かえる上に格安のマジカルタクシーがあるからね! ヒッチハイクされるなんて本当に久々だ!」


 「・・・・・・」


 馬車を引く馬型魔物の手綱を握る元気そうな無精髭のおじさんが、快活に後ろに乗ってる彼へと語りかける。

 

 「揺れが不快な事で定評のある馬車を頼るって事は、金が無いとかかい? でもお兄さん達の装備は立派だから、そういうわけでもなさそうだし・・・・乗せてあげてるお礼といっちゃなんだが、ここは一つ答え合わせしてくれないかい?」


 「・・・・・・・・・」


 「・・・・・無視は流石におじさん傷つくなぁ。 あ、もしかして寝てる!? 安全一番で後ろが向けなくて気づけなかったよ!! こいつぁ失敗だ、はっはははははは!!!」


 一切返事をしないのを、寝ているからと結論づけておじさんが馬の制御に集中し始める。


 ・・・・・だが、荷台にいる人物は。


 (・・・・・やっと、喧しいのが収まったか。 しっかし馬鹿な奴だ、こんな気持ち悪い揺れの中で寝れるわけないだろ)


 バリバリ起きており寝てるフリをしているだけだった。


 (デリカシーってもんが不足してるのかこいつ。 金がヤバい以外に理由ないだろ、何が『ここは一つ答え合わせしてくれないかい?』だ。 正解してんだよ!!)


 なんなら自分を乗せてくれたおじさんに、心の中で悪態をつきまくっていた。


 (あぁ、クソ。 なんでゴールドギルドに向かわなきゃならないんだよ、巫山戯るなよあの3人が・・・・!!)


 しかもヤケに苛立っていた。


 (許さねぇ・・・・・絶対にいつか復讐してやる。 この“オレ”が、絶対に!!)


 荷台の彼は、口は開かずともとびきりの怒りをこめて、心の中で吐き捨てた。


  

《To be continued》

第二.五章物語の外れ道 オレと借金返済

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