第110話 圧迫は意識を取り戻す

 シクスの頭部に巻かれた包帯を少しずらし、銃弾をくらった箇所に一滴分しか残ってない〔異常級回復薬〕をかける。


 さて、どうなるか・・・・・・・


 成功を祈る俺達4人。


 だが薬をかけて10数秒・・・・何も起きず。


 「やっぱり量が足りなかったのかぁ?」


 「そもそもどれくらい即効性があるのかも分からないからな」


 「結界に入ったシクスの足跡の踏み込み具合から考えて、そんなに効果発動が遅いとは思えないけどな」


 すぐには変化が起きず、焦ったく思いながらも固唾を飲んで見守る。


 「触角によると、生命反応は未だに微弱なままです。 これといって何も変わってません・・・・・」


 失敗か?

 そう思った時。


 ビクン!!!


 シクスが体を跳ね上げさせ、大きく震わせた。


 「え、これは・・・・」


 ビクンビクン!!!


 のたうち回るように体を震わせ続けるシクス。

 以前目は瞑ったままだが、どことなく苦しそうに見える。


 「成功なのかぁ? 失敗なのかぁ!?」


 様子を見ただけじゃ上手くいってるか分からない!!

 さっきまで動いてなかった中、反応が出た時点で何か作用したのは判るが・・・・


 ビクッ・・・・ビクッ・・・・ビクッッ!!


 「これ痙攣してませんかぁ!?」


 「なんか動きが死にそうだぞ!?」


 まるで高圧電流でもくらったのかってぐらい体をビクビクと小刻みに震わせており、見てて凄く心配になる。

 心なしかどんどん震えが酷くなってるようにも見えるし。


 「薬は失敗か!? ラスイ、お前生系魔法の〈微清〉あったよな!? 薬の成分だけ浄化で消してくれ!!」


 「は、はい!!」


 ちょっとした浄化が出来るラスイの最下級魔法〈微清〉。

 謎蛇の金化毒を治す方法の一つとしてしれっと挙げていたのを俺は忘れていないぞ。

 出力が尋常じゃない程弱い最下級魔法でも、薬一滴程度の量なら綺麗に消せるんじゃないか!?


 ビクゥッ、ビクゥッ、ビクビクビクゥッッッ!!!


 「落ち着け!! ・・・・いや気絶してる相手に落ち着けはおかしいか?」


 ラスイの魔法の狙いを精密に定める為に、最早暴れてる域に達したシクスの震えをテクルが触手で体をぐるぐる巻きにして封じる。

 先生と俺も抑えるのに加勢しようとしたが、テクルの力の前ではシクスの動きは完璧に止まりこれ以上は過剰になると判断して引っ込んだ。

 代わりにテクルが触手を使ってシクスを抑える際に邪魔だから投げ捨てた気絶中博士の拘束をしておく。


 正確に魔法を行使するためか、薬をかけたシクスの銃による“穴”が出来てるであろう部位を直接覗き込むラスイ。

 指先に小さな空色の魔法陣を瞬時に構築し、シクスの頭にかざして・・・・


「行きます!! 〈微せ・・・・い?」


 霧散した。

 魔法陣は特に発動した証である光を発することもなく、空気中に粒子となり散らばっていった。

 この現象が意味するのはつまり、ラスイが魔法行使をキャンセルしたということだ。


 「ど、どうしたラスイ」


 「え、あの・・・・あ、穴がなくなってるんです。 血が溢れてた銃による穴が、綺麗さっぱり消えてるんです」


 「ん? つまりそれって治ったって事か?」


 「多分・・・・そうです。 あ、生命反応が徐々に大きくなって来てます。 治ってます、回復してます!!」


 「ビクビク痙攣してたのは副作用みたいなものだったて事かぁ!?」


 ややこしい!!

 どうみても失敗にしか見えなかったぞ!!

 あれで〔異常級回復薬〕は一応ちゃんと作用してたのかよ!!


 「治ったなら、もう起こせるか?」


 「こういうのって治してもしばらく安静にさせるものでは? あとガッチリホールドは少し弱めてもいいと思うぞ俺は」


 「分かった」


 いつの間に何故か腕十字固めに移行しようとしてるテクルを落ち着かせ、経過観察する。


 「なぁラスイ、生命の反応って具体的にどれくらいなんだ?」


 「普段のシクスさんの生命反応が10だとすると、今は7ぐらいです。 さっきまでは2でした・・・・」


 ・・・・・聞いてみた俺が思うのもなんだが、そもそも生命の反応っていうのがラスイの触角でしか分からない曖昧な概念だから説明されても『凄く回復したんだなぁ』ぐらいの事しか分からんな。


 「それは多少無理に起こしてもいい状態なのかぁ?」


 「あ、はい! さっきのちょっとやそっとで死ぬ可能性があった状態と変わって、今ならテクルちゃんが少し絞めても平気なぐらい治ってます!」


 テクルが力を加えても大丈夫って事はかなり治ってるな、つまり起こし方が多少雑な方法でも命には関わらなくなってるって事か。

 それなら早く目覚めさせよう。


 「だそうだテクル。 少し荒っぽくてもいいから起こしてくれ」


 「了解だ。 ふん!!」


 テクルはシクスの拘束をやめ一瞬で姿勢を変える。

 仰向けのシクスの胸に手を添える・・・・所謂、心臓マッサージ時の体勢だ。

 そのポーズ通り、掛け声と共に胸骨圧迫を行った。


 「ぐぎゃっ!!」


 圧迫されたシクスの口から悲鳴みたいなものが漏れた。


 「最後のトドメさしにいったようにしか見えない」


 触手の封じ込めから解放された瞬間に胸部を圧せられて、シクスの震えは完全に停止した。


 「うごぉ・・・・・」


 シクスの口からなんとも苦しそうな呻き声が・・・・・


 「2回目だ。 ほら起きろ」


 「ぐげぇ!!」

 

 テクル、追加の胸骨圧迫!!

 再放送のようにまた悲鳴をあげるシクス!!


 「今度はどうだ?」


 そしてまた経過観察。


 「・・・・・・・」


 起きそうにもない。


 「もう一回やれば起きるか? 3回目!!」


 テクル、も一つ追加で胸骨圧迫!!


 「ごえっ!!」


 これをテクルはしばらく繰り返す。


 「テクル、お前もしかして起こそうとしてるのは本当だけど、それはそれとしてラスイを攫った恨みここで晴らそうとしてる?」


 「ははは、4回目!!」


 「ぎゃべっ!!」

 

 笑って誤魔化しやがった!!


 ・・・・・数分後。


 「う、ん? こ、ここは?」


 「目を覚ましたぁ!」


 「おはようございます!」


 計17回の丁寧な胸骨圧迫の後に、ようやくシクスの意識は覚醒した。


 「頭が痛いっす・・・・ ん? これはどういう状きょ」


 目を開けたシクスが驚いたように周囲を見回して・・・・・


 「はい18回目ぇ!!」


 「ふごぉ!?」


 見回してるシクスにテクルは流れ作業のように律儀に回数を言いながら胸骨圧迫をした。


 「おい何故起きたのに追い討ちしたんだテクルゥ!!」

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