第108話 使用は物議を醸す

 時刻は太陽が落ちかけている夕暮れ、特に問題なく孤児院に到着。

 孤児院の扉には二人の男の子が座ってお喋りをしていた。

 

 「あーーーーーー!! きたよ! きたよ! 先生よばなきゃ!!」


 「うん、呼ばなきゃ!」


 扉の前に座っていた子供2人が俺達の姿を視認した途端、ドタドタという擬音が似合う走り方をして孤児院の中へと入っていった。


 子供達が引っ込んだ次の瞬間、すぐに先生が出てきた。


 「帰ってきたかぁ!! 無事でよかったぁ!! とりあえず中に入ってくれ!!」


 先生は俺達が戻ってきた事を嬉しそうにして、扉を開けて孤児院への立入を促す。

 

 「テ、テクルちゃんは今どこに・・・・」


 「色々あった保健室だ。 シクスさんも一緒にいるぅ」


 「そうだ、シクスは今どうなってる!?」


 「・・・・見てもらえりゃ、分かる」


 先生がそう言ったタイミングで保険に着いた。

 ドアに手をかけ、開ける。


 「お、来たか。 先生曰く、シクスは一応生きてるってさ。 ・・・・今のところは、だけど」


 一人で椅子に座っている、何事もないような軽い感じで生命の安否を語るテクルの姿がそこにはあった。

 隣には逃走時に一度荒らされたが、あの後綺麗に直したのだろうベッドに再び寝かされているシクスがいる。

 目を開いてないシクスの頭には包帯がぐるぐる巻きにされており、完全安静の状態にされているようだった。


 「テクルさんから話は聞いた。 シクスさん、自分の頭に弾ぁぶちこんだらしいなぁ。 足を切り落とした事といい、覚悟ガンギマリ過ぎだろぉ。 弾は頭蓋骨で止まったみたいだぁ・・・・脳まで行ってなくてよかった。 だが出血が酷かったので大急ぎで簡単な処置をした。 意識はいつ戻るのか分からない、最悪の場合このまま死ぬ可能性も・・・・・いや、それはまだ早計だな。 モノホンの鉛玉じゃあなくて、威力が少し低くてしばらくしたら無害な魔力に戻り空気中に霧散する魔力弾だったから体ん中に残るなんて事は起きなかったのは不幸中の幸いだな」


 ・・・・先生が言い渋ったけど、シクスはこのまま死するかもしてないのか?


 「シ、シクスさん・・・・」


 心配そうにするラスイ。

 その様子を見たテクルが、先生の方に向き直り少し苦しそうに言葉を紡いだ。


 「もし、もしもだ。 最悪の結果、シクスが死んだら先生の蘇生に頼」


 「それはダメだ!!」


 テクルの念の為から来た発言を否定したのは、意外にも他でもない蘇生魔法の持ち主である先生だった。


 「せ、先生?」


 「あ、いや・・・・詳しくは言えないがおれの独自魔法〈reverse〉は、人に使うのはとてつもなく非推奨だぁ。 絶対に後悔するぅ・・・・死んだ後蘇生するのでなく、生かす方法を考えた方が建設的だ」


 非推奨って事は、出来ないわけじゃないのか。

 ならここまで嫌そうにするのはなんでだ?

 聖人である先生がここまで拒否するという事は、ちゃんと相応の理由があるのは分かるが。


 「・・・・確かに死んだから『ハイ蘇生で復活! これでOK!』っていうのは倫理観的にダメだな。 そうだよな、シクスはまだ死んでない・・・・いくらなんでも弱気になり過ぎた。 蘇生魔法が身近にあるからって、命の価値を安くするとこだった。 悪かったな先生」


 ガラスケース内の時のように、自分から命を軽んじてしまった事を自覚して深く詫びるテクル。

 ・・・・・そんなに命大事にする割には、しれっとした顔をしながらも触手で今にも目玉が飛び出そうなくらいも力加減で博士を締め付けるんだな。

 子供達がいないのって、怪我人の近くで騒がせないだけじゃなくてこの一歩間違えればグロ映像一直線の博士の姿を見せない為か。


 「・・・・ちなみにぃ。 その博士とやら、指名手配犯だなぁ。 前に手配書で見た事ある・・・・確か[スクラプ]なんて名前だったか。 なにやらヤバい研究して捕まったが、数年後に監獄を脱走した脱獄囚だな」


 「え、指名手配犯だったの?」

 「知らなかった・・・・」

 「私達、本当に大変な相手と戦ったんですね」


 「・・・・そうかぁ、知らなかったのかぁ」


 本当に、俺達は何も分かってないまま戦った。

 早くシクスに事情を聞き出さねばならない。

 その為には起きてもらわないと。


 「シクスさんを確実に治す方法・・・・・ありませんよね、あったらとっくに先生がやってくださります・・・・」


 「あぁ、最低限の事はしたつもりだ。 身体に備わった治癒能力を高める[回復包帯]を頭に巻いたが、効果はそこまで高くないぃ。 かなり減ってる血を補充する為の輸血もしたかったが、血液型を知らないので駄目だ。 そもそもおれは医療関係者じゃないから簡単な処置しか出来ないぃ・・・・これは言い訳になってしまうか」


 申し訳なさそうに項垂れる先生。

 そこまでしてくれるだけでありがたいんだがな。

 それに、方法ならば・・・・


 「・・・・・あるぞ。 一か八かの賭けになるが、シクスをすぐさま治す方法」


 「!! それは本当か!?」

 「治せるのかぁ!?」

 「すぐさまですか!?」


 俺の爆弾発言に一同が同じように驚いた表情でこちらの真偽を確かめてくる。


 「なにかの証拠とかとして使えると思って、研究室に入る穴から離れる時に回収しといた“アレ”・・・・ある意味ではこれが正式な使用方法か。 この、僅かに中身が残ってる〔異常級回復薬〕の」


 俺の手には、見ようによっては毒々しいとも言える青紫色の液体が入った瓶が握られている。


 「それって・・・・ヤバい薬じゃなかったか?」


 唯一その存在を俺と一緒に確認していたテクルが顔を顰めた。

 

 「その通り。 博士を見て確信したがコイツは確実に不正に作られた違法品、どんな副作用があるか分からない。 だが、少なくとも片足を生やすほどの効能があるのは確かだ・・・・このままシクスを死なせるのは嫌だろ? 残り僅かしかないが、足丸々治せるなら小さな弾で開いた穴程度だったら足りるかもしれない。 治すなら、コレに賭けるしかない」


 「・・・・・そうだな。 確かに直接見たわけではないが、シクスの足を治したのは確実にそれだろうしな」


 「き、危険性はどれ程あるのでしょうか・・・・」


 「そんな危ないもん使うならば、先に作用と副作用を色々検証して確認したいとこだがぁ・・・・少しでも検証の為に使ったら尽きる程元の量が少なすぎるから、それも無理かぁ」


 とても危険な事は理解していても、確かにシクスを治せる実績を持った薬。

 俺達は悩みに悩んで・・・・


 「・・・・使うか」


 「あぁ、早くシクスを起こして色々聞きたいしな」


 「何か起きた時のために警戒しておこうぅ」


 「・・・・・」

 

 俺。テクル、先生がこれしかないと納得して使用に賛成していると・・・・意外にもラスイは賛成も否定も、どちらの意も示さなかった。

 これは珍しい、いつもだったら皆に追従していた。


 「ラスイ、何か心配事があるのか? あるなら私に気兼ねなく言ってくれ」


 「えっと、その・・・・・・・その、〔異常級回復薬〕って飲み薬なのか塗り薬なのかが気になってまして・・・・・」


 「「「あ」」」


 ・・・・・確かに、薬ってのは適切な摂取方法でなければ真価を発揮できない。

 すっかり失念していたが、この薬の服用方法を俺達は把握してなかった!

 跡から考えて使ったのは確実だと分かっただけで、使い方は分かってない!

 

 出鼻を挫かれた気分だ・・・・・


 ・・・・・数分後に、効果からの推測や似た性質の薬品、〔異常級回復薬〕を減らさない様々な方法での確認をしてこれが負傷部位に塗る・・・・というかサラサラな完全な液体なので、直接ぶっかけるタイプの薬だと分かった。


 格好良く決めることが出来ね〜

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