第107話 監視は常駐を心がける
「着地!!」
「いでっ!!」
研究室への進入、ガラスケースへの強制入場、この2つに続くガラスケースからの落下・・・・これで今日落ちるのは3回目。
だがいくら何度も落ちようが、別に着地が上手くなるわけじゃない・・・・俺は背中から落ちて思い切り地面にぶつかった。
ガラスとテクルのサンドイッチにされた痛みが引き切る前に追加の痛みが来やがった。
ボトボト!!
「いっった!?」
ワンテンポ遅れて、博士がガラスケース中にばら撒くように投げ捨てていたボタンも大量に落ちてきて頭に何個か当たった。
ガラスケースの床丸ごと穴になったから全部落ちてきたんだ!!
踏んだり蹴ったりだ!!
そんな俺に比べて、テクルは片手の状態にも関わらずすまし顔で綺麗に着地しており、落ちてきたボタンは着地後すぐさま華麗なステップを踏み回避していた。
さっきと同じで衝撃をモロに受けるはずの直立不動の両足着地・・・・もしかして気合いで衝撃を我慢してたりする?
ちなみにラスイは落下途中で回収されたのだろう、これまた2回目の落下同様いつの間にかテクルに抱えられている。
気絶中の博士も一緒に落ちてきたが、受け身の体勢や着地、誰かが抱えてくれるなどしてくれないのでそのまま床に激突した。
頭からいってたように見えたけど・・・・・死んでないよな?
・・・・・・死んでないと思っておこう。
俺は気を取り直して、背中が痛いながらも立ち上がり周囲を見渡す。
さて、今度はどこに落ちた・・・・?
・・・・・
・・・・・・・?
「・・・・・・ここ、ガラスケースに落とされる前にいた研究室ですよね? も、戻ってきてるって事ですか?」
え? ウソだろ?
俺より先に周りを見ていたラスイの言葉通り、培養槽や奥に見えるガラスケース、試験管や、危なそうな実験器具っぽいもの・・・・そして、ぶっ倒れてるシクス。
ある物から考えてここは間違いなく、一番最初に立ち入った研究室だ。
因果関係がおかしいな・・・・
研究室からの落下→ガラスケースに落ちた→ガラスケースからの落下→研究室に落ちた・・・・うん、おかしいな。
俺達は確かに真下へ向かって落ちていく感覚があったぞ、下へ下へと落ちたはずなのになんで一周して同じ場所に戻ってきてるんだ?
そもそも“奥”の・・・・同じ高さにある筈のガラスケースに研究室から垂直に落下した事で入れたのも不思議現象だ。
これもボタンによる魔法の1つか・・・・・改めて考えると、押すだけで誰でもどんな魔法でも放てるとか、このボタンってヤバい代物?
そもそもちゃんと考えるならば、博士という人物でさえよく分かってない・・・・
さっき愚痴でも言ったが、俺達は本当に巻き込まれただけだ。
シクスの命を賭けたお願いでもあったし、明らかに頭おかしい奴だったし、危害を加えてくる感じまんまんだったから、いきなりでありながらも博士と躊躇いなく戦闘開始出来たわけで・・・・結局のところ、細かい事情は必死の思いで倒せた今でも全く分かってない。
[ナンバー6]といういかにもな名前とか博士の言動とかでシクスが人工的に創り出された存在だと考えたのだって、どこまでいっても推測に過ぎない。
当事者のシクスに聞かなきゃ、本当に何も解らない。
・・・・とりあえず、そういう考察は一度後回しにして大急ぎでシクスを連れて帰ろう。
油断せず、置いておくとかもせずに、ちゃんと博士も一緒に連行だ。
「・・・・あ、あの。 ちなみにこの研究室からはどうやって出るんでしょうか? 私入ってきた時の記憶がなくて・・・」
ラスイに入場時の記憶が無いなんて当然だ、その時クラック・ブランクで収納されてたんだから。
確認の為に天井を見れば、今さっきガラスケースから出る際に生まれた穴は消失しているが、ちゃんと俺達が入ってきた最初の穴はあるままだ。
「俺達はな、テクルの触手をフックみたいに使って一気に入り口であるあの穴を落ちてきたんだ。 だから今度は上に向かって触手を飛ばして・・・・・触手を・・・・飛ば、して・・・・」
触手?
テクルの方を見る。
触手がなかった。
「触手ないじゃん、どうやって帰ろう!?」
「私体力大分回復したからもう新しい触手生やせるぞ。 心配しないでいい」
「早いね体力回復!!」
いくら何でも早すぎない?
まぁ、少し焦ったが・・・・心配する必要はなかったな。
すぐさま言葉通り、テクルが触手を再生させた。
これでここからもおさらば出来る。
俺とラスイはテクルの体にしがみつき、博士とシクスはテクルが片腕でまとめて抱えている。
そして、テクルが入り口・・・・いや、出口の穴に向かって触手を一気に伸ばした。
穴の外まで触手を伸ばして、近くの地面に突き刺して引っ掛ける。
こうして外に引っ掛けた事で、触手の先端が固定された。
あとはテクルがピョコッとジャンプして地に足つかない状態になってから触手を縮める・・・・・固定により基準点となった触手の先端までテクルの体が急速に引き寄せられていく。
勿論くっついてる俺達も一緒に。
これで全員が外まで引き上げられた。
はい、脱出完了。
何度でも言うが、テクルの触手便利すぎないか。
「さて、分担だ。 シクスは頭から血がドバドバ出てて一刻を争う程の重体だ。 一番身体能力が高いテクルがそのままシクスを抱えて孤児院に一足先に行ってくれ。 あ、やっぱりシクスだけじゃなくて博士もお願い。 警備兵に突き出すまでは俺達が監視するわけだが、取り押さえられるのはテクルぐらいだろうし。 博士の監視はテクルが常に近くにいないと。 だから博士とシクスを連れて急いで孤児院まで行ってくれ!!」
外に出てすぐにテクルから離れて、指示を出す。
「え、ふ、二人を置いていくのか?」
俺の指示を聞き少し狼狽するテクル・・・・だがこれが一番速いはずなので、しっかり根拠も説明する。
「俺達を置いてテクルが一人で気兼ねなく走った方が速いだろうからな、当然の采配だ」
「テクルちゃん、お願い!」
「・・・・・・・ラスイ、また攫われたりするなよ!! クロイ、いきなり裏切ってラスイを攫ったりするなよ!!」
俺の言葉に納得はした様子のテクルだが、心象的にかなり複雑そうな顔をしながらダッシュで孤児院の方角へと向かっていった。
まぁ、目を離した隙に誘拐された友人から目をまた離す事になったのだから仕方ない。
心配されないように、テクルに比べれば遅いだろうが早く孤児院に着こう。
おっと、その前に・・・・・“これ”を一応回収しておくか。
「よし、ラスイ! 俺達も急ぎで行くぞ!!」
「・・・・・?」
回収もしっかり終えて、ラスイに一緒に早足で向かうのを促すが・・・・ラスイが何故か首を傾げて返事をしてこない。
いつものラスイなら何が何でも返事をしてくるのに。
「ラスイ?」
「あ、いえ!! そうですね、急ぎます!!」
少し遅れたがラスイが何故か返事をする・・・・でも、今さっきのラスイは何か違和感だ。
「ラスイ、気になるものでもあったのか? ヤケに不思議そうに首を傾げてたが・・・・」
「えっと、その、何かに見られてる気がしたのですが・・・・人工物まみれの研究室から出て万全の状態になった触角には特に不審な反応がなかったので、気のせいです!! 私のせいで遅れてすいません!! 急がせて頂きます!!」
一度俺の言葉をスルーしてしまった事に罪悪感を感じでもしているのか、ラスイは大急ぎの猛ダッシュで孤児院へと駆けて行った。
「俺を置いてくなよ!!」
そして俺は遅れてついて行った。
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クロイ達が離れたすぐ後、研究室に入る際に通る穴にとあるものが接近していた。
それは・・・・“生命の感知には決して引っかからない”魔機械であるオレンジ色のドローンだ。
『おいおイ、冗談キツいぞスクラプ博士。 まさカ、一介の冒険者如きに敗北するとハ・・・・ アタシが与えた物をしっかりト活用すれば、魔人二人を相手にしてモ余裕で勝てタハズなのに、何故負けタ。 常駐ドローンで監視してスグに敗北を察知出来た事が不幸中の幸いカ。 しカしマズイな、急いで回収をセねば・・・・・』
ドローンに備えられた高性能マイクから、愚痴のような声が発せられる。
『本体のアタシがワザワザ出ばらなきゃ回収出来ないノに・・・・本当に面倒クサイ。 アノ冒険者達が戻ってくル前に、先にワタシが回収しないト!!』
ドローン越しに独り言が漏れている事に本人は気づいているのだろうか。
とにかく、ドローンを操っている者は酷く焦っているようであった。
『回収セネバ、回収セネバ』
次の瞬間。
ドローンの元に、“空から”一人の人物が接近した。
背丈や体型からして、18歳程のギリ少女にカウントされる女性だ。
その少女はドローンと同じのオレンジ色の髪をしている。
顔はメカチックな仮面で覆われており、窺い知ることが出来ない。
基本的な服装はレトロさを感じるスチームパンクなもので、ゴーグル付きの帽子や全体的に茶色っぽい感じの色合いをしている。
しかしスチームパンクなのは上半身の衣服までであり、下半身のスカートからは所謂サイバーパンクな未来感溢れるもの。
夜になったら光りそうなオレンジのラインが黒地のスカート中を駆け巡って、ところどころに三角や丸の鮮やかでカラフルなマークが太く描かれてるのも、“らしさ”を演出している。
上と下で系統が全然違うアンバランスで奇抜なファッションをした少女は、ドローンに手を触れる。
するとドローンは役目を終えたかのように、機能を停止した。
「本当に、面倒クサイ。 イライラする。 早く回収セネバ・・・・」
先程までのドローン越しの声の主と同じ・・・・機械を通した時と全く同じの非生物的な無機質な声。
その声は機能オフになったドローンからではなく、奇妙な服をしたこの少女のものだ。
さて、この変な格好の少女には他にももっと変なところがある。
それは・・・・体中のところどころに、大小様々な立方体の“凹み”がある事。
少女の体に存在する無数の凹みは、まるでそこだけ綺麗にくり抜かれたかのような・・・・・そんな凹みだ。
だが確かにくり抜かれたような凹みではあるが、別にそこから血が出ているわけでもない。
その凹みから覗けるのは生々しい体内ではなく、普通の人間には絶対にない電子回路だ。
この凹み・・・・・これも正に、1つの“異形”。
異形の少女は、ドローンを拾い上げて呟いた。
「[ゴーレム]の魔人であるこのアタシの体に、急いでボタンを戻さネバ」
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