第103話 醜く踊れ、愚か者共

 ・・・・・私は天才だ。

 間違いなく、天才なのだ。

 だが、世間はそれを認めずに私を否定し拒絶した。

 私の研究成果を、やれ非人道的だとか、やれ冒涜的だとか、やれ反社会的だとか。

 私のレポートを学会の奴らは【検閲済み】という文字で黒塗りにしやがった。


 何がいけない?

 余命が1年の老人に毎日絶大なストレスを与え続けた場合、どれほど死までの日数が減少するか実験した事か?

 極度の閉所恐怖症を抱えた子供を敢えて薄暗く狭い密室に放置した場合、何時間で完全に発狂するか試した事か?

 人がどれ程の負荷で自らの精神を防衛する為の解離性同一性障害を発症するのか、実際に研究した事か?

 私はただ、人の限界を、底を・・・・そしてその“更に先”を見たいのだ。


 全てその為の研究なのに・・・誰も彼も賛同しない。

 この私、[スクラプ]博士の研究だぞ?

 何故喜びに打ち震えながら享受する事が出来ないのだ。

 私以外は全て愚か者なのだから、本来なら貴様らは媚びへつらって尻尾を振るべきだろう。


 結局私は『異常者』扱いされて学会から追い出され、挙げ句の果てには『人道に反する罪』とやらで捕まり檻の中にぶち込まれた。

 真の天才とはいつの世も理解されぬ、賢者は愚者共に殺されるのだ。

 だが、私は普通の天才ではなく、抜きん出た神の如き才覚を持つ超級の天才。

 言葉巧みにそこらの罪人の行動を誘導し大きな問題を起こさせ、更に刑務官を騙くらかし鍵を拝借。

 何年もかけて牢獄の構造を理解した私にとってそこからはイージーゲーム、簡単に脱獄出来た。


 そして誰からも見つからぬようにとある廃墟を拠点とし、早速研究を再開した。

 幸いにも近くにある街ではいなくなっても誰も探さないような浮浪者が多い。

 実験材料には困らないだろう。


 そして時には隠れ家を変えて、人の底を超える研究をして3年・・・・・行き詰まり、無駄に材料を浪費するようになっていた私に転機が訪れた。

 私が街で大きな材料の調達を済ませて拠点に戻った時・・・・そこには1機のドローンがあった。

 丸いボディーの上にプロペラが4つついてるオレンジ色のドローン。

 そのドローンは、私が行動を起こすより前に音声を発した。


 『・・・・・スクラプ博士。 余りにも倫理観が欠落し過ぎてる言わレ、学会から追い出された哀れな天才。 だガ、アタシタチはそんナあなたをずっと探してイタ・・・・ “人の限界のその先”。 コレを自身の研究テーマとし、その上恐れる事なく社会が定めたルールを踏み越エ研究の為にハ如何なる犠牲も厭わなイ。 そんな勇気ある天才のキミに、“オ願い”があるんダ』


 ドローンにより遠隔で伝えられた、機械で加工された人間味のない声。

 だが聞く価値はあった。

 このドローンの主は少なくとも私の理念を理解している、マシな方の愚か者だからだ。

 そして実際に提案されたものを聞き・・・・受けてやる事にした。


 なにせ提案された『とある研究』は・・・・元より興味こそあったものの、いかんせん設備や費用、材料が揃わず手を出し損ねていたものだったからだ。

 このドローンは全て出資してくれるという。

 ならば受けてやってもいいだろう。

 私が受諾すると、ドローンの主は様々な裏のルートで小分けにして〔魔法のボタン〕や〔再生ガラス〕、〔コタエモトメル石ノ板〕、〔絶対命令刻印〕の刻み方、諸々の資材、追加で快適な狭さかつ設備が充実した『研究室』を言葉通り渡して来た。


 最初は失敗続きだったが『とある研究』で試行錯誤してはや二年、私は耳の部分を人耳に置き換えた狼である[ナンバー1]の誕生に成功させた。

 完全な成功にはまだ程遠いが、少なくとも1歩は近づいた・・・・・まぁ、[ナンバー1]はすぐに死んだが。


 そしてついに最近一番理想に近い[ナンバー6]を生み出したが・・・・・なんと土壇場で裏切りやがった。

 絶対命令刻印をどうやって掻い潜ったかは知らないが、その裏切りのせいで今私の眼前には2人の魔人とオマケの男・・・・計3人がウロチョロと魔法を回避している。

 魔人との戦闘データが欲しかったので一緒にガラスケースに落ちてみたが、まさかここまでしぶとく避け続けられるとは。

 

 ・・・・・・しかし、別にどれ程避けようが私の勝利に変わりはない。

 だって私には独自魔法〈超反射障壁〉がある。

 ダメージ許容オーバーという滅多な事でも起きない限り、幾ら私が油断して慢心しても絶対に攻撃は通らない。

 1つにつき6回までの回数制限がある〔魔法ボタン〕だって、確実に仕留める為の量は足りてる。

 周囲は〔再生ガラス〕・・・修復しきれない程壊して脱出しようものなら、その隙に攻撃できる。

 向こうの攻撃は効かない、一方的な攻撃が可能、相手は逃げる事も出来ない。


 勝ったな(確信)。


 だがずっと待って勝敗が決まるのはつまらない、とっとと終わらせたい。

 私は同じ状況が続いているのは嫌いだ、だからかつての[ナンバー6]と[ナンバー4]との戦闘実験だって途中で爆弾を投じた。

 そして今は私はボタンを押し続け相手はそれをいなし続ける・・・・停滞は嫌いだ、決着を早めたい。


 だからこそ敢えて“誘導”する。

 私は先程、怒りの余り自分でも何を口走ったか気づいてないフリをして・・・・・『“どんなものにだって限界があり、障壁だって例外ではないのだぞ”!!』と叫んでやった。

 これを聞いた相手は、余程のバカでもない限り『〈超反射障壁〉にも限界がある』という結論に至る。

 そして私は少し経ったらワザと大きな隙を晒すつもりだ。

 きっと愚か者共のアイツらはその隙をついて自分らが今出来る特大のダメージを与えようとするだろう。


 ・・・・・・それを反射して、私の勝ちだ。

 

 これならアッチから回避を捨てて向かって来て、早々に終われる。

 

 だがこの作戦の欠点として、相手が〈超反射結界〉の限界を超えれるダメージソースを持ってた場合、ただ隙を晒してやられるだけになる・・・・・というものがあるが問題はない。


 私にはもう一つの独自魔法〈最高BEST瞬間DPS火力測定QUANTIFY〉がある。

 その名の通り、見ればその者が一秒に出せる最高の火力ダメージを数値化出来る。

 つまるところ、私の前では相手がどれ程の攻撃力を持っているのかが丸わかりなのだ。


 要注意の触手が生えた魔人の数値は、『983』

 先程から指示を出している触角の魔人は『11』

 付属品の男は最高瞬間火力・・・たったの『5』か・・・ゴミめ・・・


 〈超反射障壁〉のダメージ許容量は、〈最高瞬間火力測定〉に合わせて数値化すればピッタリ1000!!

 検証に検証を重ねたので間違いない・・・・つまり、この3人がいくら協力して最良の攻撃を叩き込んでも絶対に障壁は崩れず、確定で攻撃を弾き返せる。

 負けの要素など万が一もないのだ。

 

 さて、そろそろ向こうも最高火力を叩き込む計画を考え付き実行しようとする頃だろう。

 わざとらしくなり過ぎないように、隙を晒してあげようか。


 愚か者共が釣られて攻撃した時が、決定的な終わりの瞬間。


 さっさと終わらせて、研究の材料にでも加工してやろう。


 私は、怒り狂った演技の下に“勝利の顔”を隠し込む。


 さぁ来い、愚か者共。

 私の芝居に騙されて、攻撃しに近づいて来い。

 もう敗北が確定しているのに気づかないまま、私の掌で醜く踊ってくれ。

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