第102話 突破口は違和感を挟む
「上、右、あっち、あっち、そっち、左、右、上」
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
カチッ、カチッ、カチッ
『バキューン!!』 『グシャアッ!』 『キュゥイイイイン!!』
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!!! とっとと当たれぇぇぇぇええぇぇえぇぇ!!! 勿体無いだろうがぁぁぁあぁぁぁああああぁぁぁぁあ!!!!」
さて、テクルにおぶってもらい回避してもらって数分。
博士がこのガラスケースの中央に立って、白衣から取り出してはボタンを押し続けて、それによって生じる魔法に当たらぬようテクルが縦横無尽に駆け回り跳び回る。
シクスの追跡で少なくとも精神面ではかなり疲労してた筈のテクルだが、今のところはまだ体力に余裕がありそうだ。
ラスイと出会えた事による高揚で回復でもしたのかもしれない。
だが俺とラスイを背負ったり抱えたりしながら激しく動き続けるのは、怪力のテクルでも確実に負担になっている。
早く反射の突破法、攻略法を考えねば!!
博士について今判明している事をまずまとめよう。
独自魔法であり、博士を打ち倒す一番の問題点である〈超反射障壁〉は博士本人は勿論、来ている服や所有物であるボタン全てに張られている。
つまりボタンを押しているのを中断させれない、ボタン1つでさえ奪おうとしたり破壊しようとすればダメージが戻ってくるのだ。
捨てられたボタンは博士本人から離れたからか障壁が消えているようだが、テクルは触手は回避に手はラスイを抱えることに使い、ラスイは触角に全集中、俺はおぶられているので、床に落ちたボタンを誰も拾えず利用出来ず、せいぜい回避のついでに踏み潰して再使用出来ないように壊す事しか出来ない。
つまり障壁は、博士と博士に付随するものに張られるが博士から離れると障壁は消失する・・・・障壁の消える条件が博士の体そのものと離れる事だ。
これでは肝心の博士本体を倒せない。
他にも博士の『温存』や『勿体無い』という発言からして、ボタンには回数制限がある模様。
あのボタン自体そもそも俺が知らない謎の物体だが、押せばそのボタンに対応する魔法が発動するのは見れば分かる。
間接的に魔法を発動しているので博士自身には魔力消費がないようだが、回数制限があるならばいつかこのボタン連打の魔法連撃は打ち止め・・・・・いや、少なくとも白衣から取り出されたボタンそのものの数が3桁に突入している。
〈雷鋸〉のボタンを、触手切断に、俺の頭上に、俺達3人の首目掛けて・・・・少なくとも5回以上は使用しているので1つのボタンは1回までしか使えないというカツカツなものでもない。
ボタンそのものと押せる回数があれ程多い以上、確実に回数切れがくる前にこちらの体力切れがきてしまう、耐久戦では負ける。
そして今俺達を閉じ込めているガラスケースだが・・・・・
「ガラスを壊しても意味などないぞ愚か者共!! そのガラスは事前に〈再生障壁〉と同化する特殊加工を施してある〔再生ガラス〕、亀裂が入ろうが粉々になろうが瞬時に自動修復するのだっ!! ・・・・・だがっ、だからといって念の為につけておいた保護障壁すらそんな安易と貫通してやたらめったら壊すんじゃない!! “どんなものにだって限界があり、障壁だって例外ではないのだぞ”!! 壊れ過ぎて再生しなくなったらどうするつもりだ!!」
知るかそんな事!!
・・・・・・だが、良いヒントをくれた。
博士は頭に血が昇りすぎて自分からとんでもない事を口走ったのに気付いてないな。
どうやらこのガラスケースは〈再生障壁〉で壊れない・・・・・正確に言えば瞬時に修復されてしまう。
だが博士曰くそれにも限界が存在している。
つまり、それって・・・・・〈超反射障壁〉にだって反射出来る限界があるって事じゃないか?
だが既にパーティで一番の攻撃力を持つテクルの触手突きは普通に跳ね返されてしまった。
何発も当てればダメージが蓄積して破壊できるかもしれないが・・・・〈超反射障壁〉にももしかすると自動再生が備わっている可能性がある上、そんな何度も攻撃しようとすれば回避に専念出来なくなり魔法にやられてしまう。
ということは〈超反射障壁〉の限界を超える大きなダメージを、たった一撃でぶつけなければならない。
・・・・・・最大火力のテクルの触手突が効かなかったのに、そんなダメージソースがあるのか?
割った鋭利なガラスを再生で元に戻る前に投擲・・・・・どう考えても跳ね返される未来しか見えない。
博士が捨てたボタンは・・・・先述の通りそもそも拾って利用する暇がないし、発生してる魔法がテクルの触手で簡単に掻き消せる時点で威力のたかが知れてる。
ラスイは・・・・うん、最下級魔法しか使えないしなんなら今〈触角予測〉で忙しいね、自分ながら何でダメージソースの候補に入れたんだ?
俺・・・・・・無理です、デバフだけ男です。
・・・・・・・ふむ。
一度情報を簡潔にまとめよう。
博士→絶賛キレ散らかして集中力がなくなっているが、それでもこっちのダメージが通らず向こうは一方的に攻撃出来るので超危険。
俺達→持久戦はこっちが不利ってレベルじゃない、早々に決着をつけねば負ける。
超反射障壁→博士自身が障壁には限界があると漏らしているので勿論これにも限界があると思われる、しかし自分自身を守っている特別な独自魔法なので確実にその限界も段違い、工夫せずにただ殴っても絶対突破出来ない。
ボタン→既に100個以上博士は使用している、回数制限があるようだが回数切れする頃にはこっちの限界がくる、落ちたのを拾う隙がなく利用不可。
ガラスケース→再生するらしいがこれも限界があるとの事、しかしこれを壊して脱出しようとするには回避を捨てて殴り続けなければならない為飛んでくる魔法をまず何とかしなければ無理。
こっちの手札→ラスイは〈触角予測〉に全神経を尖らせているので他の行動は出来ない、テクルは今のところかなり余裕を持った回避なので少しだけなら回避以外の行動をとれる、俺はデバフが何かの役に立つなら活躍出来る、ただ〈超反射障壁〉が反射するのは『危害』らしいので相手に負荷をかけるデバフも含まれているだろう、呆気なく返されるのがオチ。
・・・・・・・・・・ま、まだ詰んでない、まだ詰んでないぞ。
考えついた勝ち筋としては、テクルが先程与えたダメージを超えるダメージを与える・・・・・どうやって?
どう考えてもテクル以上の攻撃力を出せる気がしない、別のアプローチを・・・・・いや待て。
採集祭でラスイが言ってた『テクルちゃんの触手って細く伸ばした分力が弱くなるんです』・・・・・逆に言えば触手を縮めれば攻撃威力が上がるのでは?
普段の長さより伸ばすのは可能でも縮めるの無理というのはないだろう、テクルの触手は伸“縮”自在だからな。
限界まで短くした極太の触手の一撃なら〈超反射障壁〉の限界を超えれるかもしれない。
だが触手を縮めれば縮める程、威力が上がってもリーチが短くなり至近距離での攻撃になる。
つまり、もし攻撃を当てれも限界を突破出来ず反射されたら・・・・・超火力が俺達をゼロ距離で襲い、確実に痛みで動けなくなり、負ける。
・・・・・・一発勝負、だな。
打ち勝てればこちらの一撃必殺、打ち負ければこっちが鎧袖一触。
しかしこのまま何もしない停滞状態では敗北は必須。
ここは打って出るしかあるまい。
これが決まるか決まらないかで、勝負が決まる。
いつも決まらない俺だが、ここは決まって欲しいぞ。
魔法を回避しながら博士の懐に接近、そして限界まで近づいて極太にした触手を打ち込む・・・・後はテクルの火力と〈超反射障壁〉の耐久力との勝負。
早速テクルにこの作戦を伝える、優れた五感を持つテクルなら回避しながら聞けるだろう。
・・・・・・・・待てよ。
・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??
なんで俺は、ここで毎度の如き“違和感”を感じてるんだ?
まだ何かあるのか?
まだ何か、見落としてるのか?
・・・・・・・・・・激しい胸騒ぎがする。
本当に、この作戦でいいのだろうか。
ふと、敵の、博士の顔を見た。
相変わらず怒っているようだが・・・・・何故だろう。
・・・・・“笑いを抑え込む”為に無理矢理怒った演技をしているように見える。
なんだか、そんな気がする。
この突破口には、まだ何か、違和感が挟まっている。
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