第101話 予測は回避先を知らせる

 カチッ

 『ギュイィィィィィィイン!!!』


 カチッ

 『ボォオオッッッ!!』


 カチッ

 『ヒュウゥゥゥゥ!!』


 カチッ

 『ドババッッ!』


 カチッ

 『ドカァァァァァン!!!』


 四方八方に出現する魔法陣から飛んでくる、回転する電気の刃、炎の槍、冷気が伴う突風、毒ガスを撒き散らす球体、どこぞで見た衝撃を受ければ起爆する爆弾。

 博士が白衣に手を突っ込んで取り出してくる様々な色のボタンを押すたびに、何種類もの魔法が発動して俺達を殺そうと迫ってくる。

 その白衣の中にどれだけのボタンを隠し持ってるんだ?


 一方的に飛び交ってくる魔法をテクルが触手で薙ぎ払って打ち消したり、自慢の身体能力で高速移動し悉く回避している。

 そして俺はそのテクルにおぶってもらう事で全ての魔法を回避している。

 ちなみにラスイはテクルの右手にお米様抱っこで抱えられている・・・・・蛇から逃げる時の事を思い出す。


 何故俺とラスイがテクルにおぶったり抱えて貰ったりしてるかって?

 逆に考えてみろ、テクルに担いでもらって一緒に躱してでもしてくれない限り俺達単体の運動能力では確実に数秒後に回避しきれず死ぬぞ。

 だからここでテクルに引っ付く必要があったんですね。


 「ちぃっ!! ちょこまかと!! なるべく温存しておきたかったが・・・・・このボタンを使ってやろう!!」


 カチッ

 『シュウン!!』


 博士が何かを惜しむような声と共に紫色のボタンを押す。

 もう何度目か分からない新しい魔法陣が展開されて、そこから独特な音を鳴らしながら輪っかを潜り抜けるように何かが出てきた。


 「ハハハハハ!! 今押したのは『死霊』のボタン!! このボタンを押せば{死霊術師}という存在のようにゴーストを召喚し、使役出来る! 知っているか? ゴーストという存在は『非実体化』という技を使う事であらゆる干渉を無効化する。 愚か者共はいつ実体化して襲ってくるか分からないゴーストに警戒しながら魔法を捌かねばならなくなるのだ!!」


 あ、二人称が愚か者共なのね。

 博士に呼び出された赤いゴーストが半透明な、『非実体化』の姿になり俺達の周囲を回り始めた。

 成程、確かにこれからはこのゴーストに注意を払いながら魔法を回避しなければなくなる、取っ払おうにも非実体化してるからそれもままならないと・・・・・敵ながらいい案だ。

 でも。


 「私、ゴースト嫌いだ!! おらっ消えろ!!」


 ドゴッ


 テクルがそういう干渉無効化をメタれるタイプの魔人であるという事を除けば、だがな。

 蝿を追っ払うようなノリで振るった触手が無警戒に回り続けていた赤ゴーストに命中、浮遊する力を失ったのか地面に墜落、ダメージがデカ過ぎたのかそのまま呆気なく消滅した。

 赤いゴーストなら、非実体化して俺達の隙を狙うんじゃなくて直接念力で襲って来た方が脅威だったな。

 

 「・・・・・ハハハハハ、干渉不可を無効にするのか。 それで外の結界を突破したのか。 貴重なゴーストをよくもそんなあっさりと・・・・ そうだな、毎度の事だが魔人というものはそういう理不尽な存在だったなぁ、しかし何度もこう想像を超えられると・・・・・非常に苛立つ」


 理不尽はそっちだろうと思っている俺達に怒りの感情を向けて、博士は紫色のボタンを投げ捨てまた新しいボタンを取り出し。


 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ


 「「「!!??」」」


 新しいボタンを押したかと思えばすぐに適当な場所へと放り投げ、すぐさま新たなボタンを取り出して押す、また捨てて取り出して押す・・・・博士は先程までずっとこの繰り返しだったが、流石にこんなに間髪入れずにやるとか鬼畜すぎる!!


 『!!!!!!』


 大量の魔法陣から大量の魔法が顕現し、その全てが俺達に牙をむく。

 全ての魔法が全く別の音をやかましく出し合うせいでどこまでが単体の音なのか判別出来ず、どこにどんな魔法が出てきてるのかを聴覚頼りに判別する事が出来ない!!

 オマケに魔法は360度あらゆる方向から地面を踏み締めるテクルを狙っている。

 やたらめったらで計画性もない魔法の乱発だからか、量の割には掻い潜れそうな隙間が多い・・・・・だが、実際に掻い潜る事が可能かは別問題!!

 テクルは全方位に目があるわけでないから全ての魔法を把握して躱すとかキツすぎるし、抱えられた俺達がテクルの目になったとしても見たものを口頭で伝えなければならない時点で視覚した情報とタイムラグが発生する。

 よって、回避が・・・・・・出来るんだよなぁ、これがなぁ!!


 「右、左、上、あっち、下、後、上、上、そっち、左、上、上、左、右、こっち、そっち、後、上、下、あっち」


 まるで呪文のように、ラスイがひたすら方向を呟く。

 多量の魔法であまりにもうるさい中、ラスイの声だけがやけに響いてハッキリと聴こえる・・・・よく見ればラスイの口元にはとても小さな魔法陣がある、音系の最下級である〈微響〉の魔法だな。

 魔法によって響くように聞こえるこの言葉は、ラスイがテクルに次どちらに動けば回避出来るのかを伝えているのだ。

 ・・・・・時たま『あっち』とか『こっち』とか、どっち?みたいな曖昧すぎる指示が紛れているが、テクルがちゃんと動けているので幼馴染兼姉妹の絆パワーで意味は伝わっているものだと思われる。


 「ふっ、ほっ、はっ!!」


 テクルがラスイの言葉に従い、俺達目掛けて飛ぶ魔法を悉く全て綺麗に回避している。

 ラスイの言葉を聞いてから動く流れがあまりにもスムーズ、幼馴染のコンビネーションは伊達ではないって事か。

 このように、先程から魔法を回避できたのは当然テクル自身のフィジカルもそうだが、ラスイの回避ナビゲートが的確かつスピーディなのも大きい。

 お米様抱っこされて後ろしか見えないが、それでもここまで完璧に魔法を避けれる方向を言い当てれるのは秘密がある。


 俺は以前直接ラスイに聞いた事があるのだ。

 ・・・・ラスイの触角の、普段の〈触角探索〉以外の使い方を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『ラスイ、確かお前の触角って人工物が近くにあればある程索敵範囲が小さくなるっていう弱点あるらしいけど、それってつまり人工物に囲まれたら触角って完全に使い物にならなくなるって事か?』


 『クロイさん、質問して頂きありがとうございます。 お答えさせて頂くと、基本的に人工物に囲まれても触角の生命探知範囲が小さくなるだけで消失するわけではありません。 人工物だけでは狭まる限界がありまして、何か他の要因がなければ完全に私の触角は封じられません。 なのでいつも街でフードを被っている時は人工物である服を触角に密着させて覆っているので探知能力は死んだも同然状態になっていますが、それでも完全に死んだわけではないのです』


 『生命を探れる範囲が極狭になるだけって事か・・・・それって結局使い物にならなくなってないか?』

 

 『はい、生命探知の能力としては範囲が大きく狭まった時点で終わってます。 限界まで狭まれば察知出来る生命が私と密着している対象にしか及ばなくなるのです。 それならば直接視覚や触覚で捉えた方が早いです。 ・・・・・なので、人工物に囲まれた時は別の方法で触角を運用します』


 『別?』


 『はい、それは・・・・・』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 広範囲に存在する生きとし生けるものを感じ取る、それがいつもの〈触角探索〉だ。

 弱点として、人の手が加えられて作られた人工物が周囲にあれば著しく弱体化するというものがある・・・・・しかし。


 ラスイの触角には、別の運用法がある。


 それは、普段“範囲”で大量に捉えている生命を、一体の“個”を対象として使用するというもの。

 広範囲に存在する何体もの生命を把握するのではなく、今知覚しているたった一つの生命にまで触角の対象を自ら極々狭く絞る。

 生命を探知する・・・・魔人でない俺には原理や実際にどういう感覚なのか分からないが、本来絶好調の時なら森1つぐらいなら全域を覆える程幅広く命を感じ取れる能力。

 それをたった1人相手だけを目標にして全集中させるとどうなるのか。


 ラスイが言った言葉から引用すると、『1つの生命の動きや、それによって付随する現象をまるで未来予知のような精度で理解ができる』との事だ。

 探る生命を敢えて限界まで絞れば、脳から下されている電気信号や心臓の鼓動、体内の魔力の流れまでも認識出来るほどの把握が可能。

 それによって、これからしようとしている動作、そしてその動作によって起きる事象までもがラスイには手に取るように解るのだ。

 博士がボタンを押して発動してる魔法はどう見ても自分自身の魔法ではないのが明白だが、そんな間接的に起こした事象でも、それの実行元が対象の生命ならラスイには予測出来る。


 生命探知の強みである超広範囲を捨て、自分から対象をギリギリまで切り詰める事によってその対象の事を未来予知レベルで把握出来る。

 いつもの生命探知が〈触角探索〉ならば、この生命1人に限定して発動出来る予知のようなものは・・・・・〈触角予測〉、だな。


 この〈触角予測〉によってこれから出てくる魔法が解っているラスイがラグなしで事前にどこに躱せばいいかを伝え、テクルが圧倒的身体でそれを実行し実際に回避していく。

 もし躱しきれないなら、それすら予測したラスイの指示に従って最低限の体力消費で触手で破壊。

 これによって、今のところテクルの触手を除けば損害なし・・・・いや、触手はいつでも再生出来る上に痛覚がないので実質完璧に無傷と同義かも。


 「あぁぁぁぁぁあっっ!!! クソがぁっ!!! 愚か者共が私の神経を苛立たせるなっ!! さっさと当たってしまえ!!」


 博士が自分の魔法を全ていなされて怒り狂っている・・・・・ワンチャン煽りまくれば怒り過ぎて血管が切れて自滅とかさせれないか?

 流石に無理があるか。


 さて、ラスイとテクルが協力して魔法攻撃を避けている中、背中に引っ付いてる俺が何をしていると思う?

 そうだね、何もしてないね。


 ・・・・・いや、何もしていないというのは語弊がある。

 俺が行なっているのは観察、そして考察だ。

 今現在博士が、俺達は無傷だが・・・・このままでは負けるのは俺達。


 だって肝心の博士の体に纏われている攻撃反射する障壁を突破して倒す方法が分かってないのだ。

 テクルにも体力の限界はあるし、ラスイの〈触角予測〉だってあくまで未来予知“レベル”なだけで本当に予知してるわけではない。

 何かの拍子で予見失敗とか起きるかもしれない。

 このギリギリな膠着状態が続けば、敗北は確実。


 だからラスイとテクルには今は魔法回避に専念して貰い・・・・・俺は博士の言動、挙動、全てを観察して突破口を探し出す!!

 母は言っていた『魔法は全能じゃない、どこまで突き詰めても、どんな魔法でも、最後は万能止まり。 だから一見無敵の魔法でも、分かりさえすれば意外と簡単に突破できるような攻略法が割とある』


 余裕を持って躱し切れている内に、攻略法を見つけ出す!!

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