第96話 組み合わせは答えを引き寄せる

 『正解……先に進む事を認める……』


 進行を許可する内容の機械的な音声が流れる。

 石板が一際強く輝いたかと思うと蓋のようにパカッと開き、穴に入り先に進む事が可能となった。

 どうやら俺が押したのは、ちゃんと正解のボタンだったようだ。


  『部下』   『玩具』

 




  『奴隷』   『下僕』


 この4角それぞれに配置された白いボタン達から俺が選んだ正解、それは・・・・・


 ・・・・・“全部同時に押す”、だ。


 何故分かったのか、それは主にこの紙のおかげ。


 石板と同じ正方形の紙、ボタンと同じような位置に描かれたくろまる

 ただ石板の存在を表しているに過ぎず、一見答え自体には繋がらないように見える。


 しかし、シクスはこれで何かを伝えたかったのだ。

 きっとシクス自身が課せられてる何らかの制限を回避する為に、とても分かり難い答えをこの紙に潜ませていた。

 そう・・・・石板に配置された4つの“白いボタン”を、石板のボタンを模すだけならばただシンプルにまるを書いて表現すれば良かったのに、わざわざ無駄に塗りつぶすようにくろまるとして描くことで。


 これがただの気まぐれで本来白かった丸を黒い丸にしたとは思えない、シクスは多くのヒントを残している。

 この色が違うだけというこじつけのような違和感も、間違いなくヒントの1つなのだ。

 

 簡単に鉛筆で普通に丸く描けば出来る○ではなく、塗り潰す●でボタンを表現・・・・これは4つのボタン全てに同じアクションを起こせという意味に俺は見えた。

 だが、それだけでは全部押せという意味に繋げるのは無理矢理感が否めない。

 しかし、これまたシクスは見過ごしてしまいそうなヒントを残している。


 少し大きな石板の4角にあるボタンを押すには何が必要だ?

 特にシクスのように1人で解答しなければならない場合。

 ・・・・・・そう、両手両足だ。


 全部同時に押すには、ツイスターゲームで指定されたサークルに手足を伸ばすように、体を全方位に広げなければならない。

 そして、シクスは途中まで移動速度を遅くするために片足のまま逃走してたが、〔異常級回復薬〕で足を生やしたのは結界を通った直後・・・・石板を前にしたタイミングで両足を揃えたのだ。

 このタイミングでの〔異常級回復薬〕使用は、両手両足全て五体満足で揃っていなければ解答出来なかったからでは?

 俺はそう思ったのだ。


 白いボタンをそのままの○ではなく、●で表現した事。

 このヒントだけでもそれぞれのボタン全て押せという意味にも捉える事は出来るかもしれないが、これだけでは不安に思える。


 片足を再生させたタイミング。

 このヒント単体では、もう到着したから使用した以上の意味が見出せない。


 だが、これらを組み合わせると両手両足必要なアクション・・・・“全て同時押し”の答えが明瞭に見えて来るのだ。

 そして、それはしっかりと正解だった。


 それにしても・・・・・随分と悪趣味な問題と答えだ。

 自分が部下であり玩具であり下僕であり奴隷であるとわざわざ答えさせる・・・・質問者の性格の悪さが滲み出てる。


 早く、シクスの元に向かわなければ。


 「テクルよ、さぁ侵入だ!」


 「結局最終的には答え導き出してる・・・・やっぱりお前頭いいよなぁ!!」


 俺達は意気揚々と、通れるようになった穴へと入り込む・・・・・


 前に。


 「待てやっぱり止まれテクル。 ここまで入るのに厳重なロックをする程相手は警戒心が強いんだ。 入るだけで何らかの罠が作動するかもしれない。 まず触手だけ伸ばして先行させてくれ」


 「・・・・・やっぱりお前締まらないよなぁ」


 テクルは「まぁ正しい判断ってのは分かるけど・・・・もっとカッコよく決められないか?」みたいな事を言いたそうな顔をしながらも、触手を伸ばして先行させる。

 すると、触手が俺の拳より気持ち多めかな?・・・・それぐらいまで細くなった時点で伸びるのが止まった。


 「どうだ?」


 「うん、平気だ・・・・・床らしき所に接触したが特に触手にダメージなし。 ・・・・・このまま一気に行くぞ!」


 「え? 一気てのはどういう」


 テクルは右手で俺をガシッと掴み、勢いよく担いだ。

 その次の瞬間。


 「今、私は触手の先端を思い切り床にぶつける事で杭のように打ち込んでいる状態だ。 そう、つまり触手をこの穴の先の地面に固定してるんだ。 私の触手は伸縮自在、普段触手を伸ばした後は地に足つけた私を基準として本来の太さ長さまで触手を戻している。 基本的に触手を縮める場合、私の体か伸ばした触手の先端か・・・・・“固定されてる方が基準となり、固定されてない方を引き寄せる”。 さぁ答えが分かったかつ安全確認出来たなら急ぐぞ! 一気にダイブだ!!」


 「え、おいまさかあああいおおおおおいうううううう!?」


 テクルは俺を担いだままピョンと軽くジャンプしたかと思うと、触手が急速に縮み始めた。

 穴の先で固定され、基準となった触手の先端に引き寄せられる。

 結果俺はテクルと共に穴に向かって高速落下する事になった。

 

 「舌噛むなよ!!」


 「さきにいえぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」


 バンジーとかで自分の上に命綱つけるのは当然だが、自分の下に向かってロープ(伸ばした触手)があるのは・・・・流石に斬新が過ぎる。

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