第95話 6は。

 石板の提示した『ナンバー6とは博士にとっての何ぞや』という問い。

 ナンバー6はシクスを表しているのはほぼ確実。

 名前も性格も容姿も不明だが、何か関わっているのは間違いない博士。

 『玩具』『下僕』『部下』『奴隷』、全て下位の存在を表す文字が書かれた4つの白い解答ボタン。

 先程まで張ってあった関係者以外の接触だけでなき認識すら拒む〈結界〉。

 結界の破壊で見えるようになった、結界を通った直後からいきなり正常な左右対称になっていた足跡。

 そしてその原因と思われる、恐らく片足を生やせる程の即効回復効果がある〔異常級回復薬〕と書かれてる空っぽの瓶。


 ・・・・・他にも周囲を探したが、辺りにもうめぼしい物がない。

 ヒントはここで打ち止め、後は推理を・・・・いや待て。


 ここにはもう落ちてないが・・・・・・さっき俺達がいた所に落ちてたヒントがあったな。

 俺は孤児院から出る前に子供達が見つけて持ってきてくれた物を取り出す。


 俺のポッケに無造作に突っ込まれくしゃくしゃになっている、“紙”。

 紙の4角それぞれ、雑に塗りつぶすように書かれた⚫︎黒い丸がある。

 入手した際は何を意味するか分からなかった。


 だがこれは・・・・・今見れば分かるぞ!!

 間違いなくこの石板を表している!

 四角い紙そのものが石板を表して、書かれた4個の●はボタンを表している!


 ・・・・・・・だから何になるんだよぉ!? 

 紙=石板・・・それが分かっても、だから?で終わる。

 答えに繋がる物でなく、あくまで石板そのものを表してるだけなのだから!


 シクスは何故わざわざこんなメモ・・・・・丸を4つ書いただけでメモと言えるのか?

 ・・・・メモのような物を書いたんだ?


 わざわざ書くまでの物か、コレ?

 書き残して覚えたいなら普通答えも一緒に書くだろ?

 なんなら●だけじゃなくて答え単体で書くだろ、石板の解答に必要な答えをいつでも見れるようにしたいだけなら。

 謎だ、謎すぎるぞ。


 シクスゥ・・・・どうせ逃げる時にうっかり落とすなら、もっと答えの核心に迫る大ヒントを落としていって欲しかったぞ。

 まぁ、無茶な注文か・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 んんん??


 まただ。

 まただぞ。


 近頃何度目か分からない違和感が再びだ。


 俺は何に違和感を感じて・・・・・あ。


 ・・・・・・ああ!


 あああぁ!!!


 そうだよ、少し考えればすぐに分かるじゃないか!!

 この紙、勝手に意味のない物かと思ってたけど・・・・・この紙こそ他のヒントを差し置いても答えに辿り着ける大ヒントだった!!


 そして同時に分かった。


 「シクスは敵じゃない!! むしろ、多分だが・・・・・被害者のような者だ!!」


 急に叫んだ俺にテクルが驚いた表情を見せる。


 「いきなりどうした!? ・・・・・まさか、答えが分かったのか!!」


 「あぁ、そうだよ! そう、最初からおかしかったんだ!」


 シクスが落としたのであろう孤児院に残っていたこの石板を表す紙。

 片足が欠損した状態で真夜中な大雨の中逃げ始めたシクス。

 接敵する度に武器をフル活用して戦っているのが跡から分かるシクス。

 結界を通ってから〔異常級回復薬〕を使用して右足を元通りにしたシクス。

 

 おかしさのオンパレードだ!!


 「まず、シクスがうっかり物を落とすなんてあり得ないんだよ。 だって・・・・アイツには質量も容量も気にせず好きなだけ物を詰め込んで異空間に収納できる〈クラック・ブランク〉があるんだから!!」


 確かにシクスは【贋金まみれ洞窟】で蛇に対抗する為の爆弾を出して貰った際に、余計な唐揚げ入りタッパーを出してしまっていた。

 だが、あれはシクス自身が疲労して一気に最近の物を全部出してしまっただけだし、収納と排出は別物だ。

 排出時に余計な物を同時に出してしまう事もあれど、ラスイを収納する際に事前に収納してある他の物が漏れる事はない、少なくとも暫く一緒にいた時はそんなヘマなんて見た事ない。

 そしてあの場ですぐに隣の窓から逃げれるシクスが、何か排出する必要があったとは考えられない。

 そう・・・・・わざわざ取り出して自分から落としておこうとでもしない限り!!


 「それに逃げたタイミングもやけに逃げる側に不利で時間がかかりすぎる」


 「まぁ、絶対に進みにくかっただろうな」

 

 雨の中で? 片足だけで? ただでさえ視界不良で魔物が活性化してる真夜中で?

 実際何度も魔物と戦闘になって余計な時間を食ってるし、ちょくちょく休憩する為に木に寄りかかって止まってる跡がある。


 もしかしたら時間制限とかあって無理にでも今日決行しなければならなかった・・・・というのもあるかもしれない。

 だけどそれでもおかしい。


 今日じゃなきゃ駄目だった・・・・・じゃあ。


 「何で結界を通ってから〔異常級回復薬〕を使用した?」


 足跡から分かる通り、シクスが片足を再生したのは結界に入った直後。

 逆に言えばそこまでは使用して足を戻さず、片方だけでここまで来ている。

 

 欠損部位治せる程のアイテムあるんだったら普通、足を戻してから歩き始めるだろ?

 だって進むスピードも消費する体力も片足と両足じゃ段違いだし、魔物との戦闘だって両方揃ってた方がずっと楽になっていた筈だ。

 片足だけで進むのは時間かかり過ぎだ、特に普通に進むのさえ厄介な大雨プラス真夜中プラス大量の魔物がいるこの森では特に。

 “あえて遅く進もうとでもしない限り”、アンバランスな足で逃げようとする人はいない。


 ・・・・・だが、そもそも最初からシクスが〔異常級回復薬〕を持っている前提で俺は話してるけど、最初から結界の所に設置してあっただけかもしれない。

 ふと浮かび上がる俺の推論を否定する考え・・・・成程、俺は根拠もないのにシクスが常に〔異常級回復薬〕を所持している前提で考えていた。

 確かに結界の内部に到着時の補給する目的で設置してあっただけで、シクスは〔異常級回復薬〕を常備しておらず、逃げる際には持ってなかったかもだが・・・・その可能性は低い。


 多様な武器、衝撃を受けると起爆する爆弾等の様々な物をシクスは持っていた。

 あの見知らぬアイテム達は恐らく売っていた物ではなく、シクスが最初から持っていた・・・・いや、きっと“持たされた”物だ。

 そこまで持たされていて、回復手段だけ別途で置いておく?

 それこそおかしいだろう、他の生産元不明アイテム達と一緒に持ち歩いてた方が自然だ。

 なにせ例えどんなに危険で他人に見られたら通報されてしまうような違法な物を持っていても、シクスは〈クラック・ブランク〉で簡単に隠し持ててしまえるんだから。


 「わざと落としたヒント、わざと遅らせた逃走・・・・・更にご丁寧に残したくっきりはっきりとした足跡。 その上途中途中で使用した武器を収納せず置いていき足跡以外にも追跡出来る導を残してあった。 結界を通過したのだって今まで痕跡を残していたのに急に消えたという違和感をこちらに覚えさせてる。 間違いない、シクスは自分の意思でラスイを攫ったんじゃない。 きっと誰かの絶対的な命令に逆らえずに嫌々渋々実行しているだけだ・・・・多分、博士とやらがその命令してる奴だ」


 「そう言われれば、シクスの行動がただ逃げるには余計な事をし過ぎでこちらに有利な情報を残しすぎだな・・・・でもわざわざこんな遠回りな方法で? 普通に『命令されてラスイ攫わなきゃいけない! でもやりたくない!』とか言ってくれれば・・・・」


 「多分魔法か何かで強制的にやらせてる上に直接助けを求めれないようにしてるんだろう。 言葉を制限する〈口封〉の魔法とか、相手の行動を操作する〈絡繰〉とか・・・・魔法や良くも悪くも万能で、便利だからな」


 シクスはきっとラスイを攫う事なんてしたく無かった。

 それは俺が一方的にそうであって欲しいと都合よく解釈した幻想などでなく、シクスの行動から読み取れる。

 直接的な表現が出来なくて避けたのだと思われるが、少なくともわざわざ紙に一見ヒントに見えない大ヒントを書き残す程には俺達に伝えたかったんだろう。

 このヒントのような、分かり辛く遠回しなSOSを。


 この4角の●が書かれた紙の大ヒント、追加で〔異常級回復薬〕の事も考えれば答えはもう簡単。


 『玩具』『下僕』『部下』『奴隷』・・・・・正解の、ボタンは。

 

 俺は石版へと歩み、シクスのヒント通りに迷いなくボタンを押し込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ・・・・・・・クロイ。

 僕のヒント気づいてくれたっすかねぇ?

 結界はテクルさんの触手でぶっ壊して突破できる筈っすけど、石板はクロイさんが僕が残してきたヒントから答えを推察してもらわないと。

 

 絶対に僕の元に・・・・・今僕の目の前にいる博士クソ野郎の元に辿りついて、命令に逆らえない僕の代わりに殴り飛ばしてお縄にしてくださいっす。

 魔物も人間も見境なく自らの残酷な研究遊びの材料にするコイツは野放しにしてはいけないっす。

 だから、クロイ達には追いついて貰わなきゃっす。

 ・・・・・直接連れて行くことも、伝えることも出来ない僕が解釈を捻じ曲げる事によって残せた物達・・・・自力で気づいて貰わなきゃっす。

 

 さっきここに着いたばかりなので、今は博士に得た情報の報告・・・・という名の時間稼ぎをしてるっす。

 早く来てくださいっす、クロイ達。

 このままじゃ僕はラスイさんを博士キチガイサイコパスに渡してしまうっす。


 それだけは、絶対に嫌だ。


 早く、早く。


 博士頭パッパラパーが僕の報告に飽きて、『早く魔人を渡せ』と命令する前に。


 ・・・・・・『正解……先に進む事を認める……』


 !!!


 博士バカは気づいていないっすね。

 僅かにっすけど、正解のボタンを押して石板を突破した際の音声が聞こえたっす。


 クロイ・・・・・普段は頼りないけどやる時はやる、頭は妙に回る奴っすからね。


 ・・・・・命令だとしてもラスイを攫った僕が烏滸がましいっすけど・・・・・信頼してたっす。


 後は、この博士バーーーーかを捕まえて貰って。


 そして、博士ゴミを作る存在から生み出されたナンバー6はーーーーーーーー

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