第94話 捜索は謎を増やす

 「テクル。 お前の腕力・・・・もとい触手のパワーならこの石板を赤子の手を捻る感覚で破壊出来るだろう、それはもう軽く粉砕出来ちゃうだろう。 だがこれは先程の、本来なら関係者以外には絶対的な秘匿性を持っていた干渉そのものを拒む〈結界〉と違う。 この石板は機械音声曰く自ら正解のアクションを要求している、つまり干渉される事が前提なんだ。 干渉前提という事は、正規でない方法で突破した場合何か発動するように仕込まれてる可能性が大きい・・・・実際“処分”がどうとか言ってたしな。 ここは力技ではなく、石板の説明通りに正解を考えるんだ。 それでも結局正解分からなかったらぶっ壊してもらうけど、あくまで最終手段ね」


 「・・・・・あ、一応分からなかったら破壊していいのね。 そんなに長々言うもんだから答え分かるまで絶対手出しするなって意味かと思った」


 石板を前にして言葉を交わしている俺とテクル。


 「あぁ、普通にヒントが無さすぎる。 分からなかったら何かが起きるのを覚悟してお前の脳筋パワーでなんとかしてもらう、お願いします」


 「・・・・・ここで、『何としてでも早急に正解を割り出して見せる!』とか言ったら格好いいんだけどなぁ。 まぁ、こういう時に絶妙に決まらないところがクロイらしいけど」


 それはどういう意味で言ってるんだ。

 決まらないのが俺らしさって事なのか・・・・?


 「とにかくまずはいつも通りに今ある情報から推理だ。 最初は、機械音声の問題で出てきたナンバー6・・・・そいつはそもそも誰なのか、ここからだな。 ・・・・といっても、もう殆ど分かっちゃったんだけどな」


 「え! 誰だよ!」


 え、マジかよ。

 これに関しては名前含めてヒントしかなかったのに気づいてないの?


 「・・・・お前、強敵との戦闘とかの切羽詰まった時以外じゃ察しがめっちゃ悪いな、知ってたけど。 所謂戦闘IQだけが抜きん出て高いタイプだな。 ・・・・まぁ、誰かって言ったら1人しかいないだろ。 ここまで来て足跡が途切れた、つまり関係者以外を拒む〈結界〉に普通に入れた彼。 ・・・・ほぼ確実にシクスの事、だろうな」


 「い、言われてみれば確かにシクス以外思い当たらない。 じゃあ、ナンバー6って名前が本名なのか? 確かに6シックスと[シクス]って似てるけど・・・・安直すぎないか? そもそもナンバー6って名前と言える物なのか?」


 それはそうだ。


 「ナンバー6がマジの本名だとしたら流石に親のネーミングセンスを疑う。 名前、というよりまるで研究のモルモットに使う個体識別番号みたいだ。 少なくとも愛情がこもってるとはあまり思えない名付けだな」


 「だよなぁ。 シクスって本当に何者だ・・・・・?」


 「闇を感じるよな。 ・・・・・さて、ナンバー6=シクスと分かった。 つまり石板の問題はシクスがどれなのかをボタンを押して答えるという事だ」


 石板の角に配置されたそれぞれ違う文字が書かれた4つの白いボタン。

 どれを押せばいいんだ・・・・・?


 「『玩具』『下僕』『部下』『奴隷』・・・・どのボタンも何だか嫌な感じだ」


 「あぁ、どれを押しても自分が相手より偉さが“下”の存在という事になるな。 ・・・・次は、その相手について考察だ」


 「相手?」 


 首を傾げるテクル。


 「石板の機械音声の中に、ノイズで名前は聞こえなかったが、『ーーーー博士』とやらがいるらしい。 そして機械音声からして、シクスはその博士の部下とか下僕とかの、下に位置する何かなんだろうな」


 「・・・・・ナンバー・・・・下の存在・・・・博士・・・・・・・・・もしかして、シクスって・・・・・」


 テクルは何か考え込みながらぶつぶつ呟いている。


 「博士本人の人物像とかは情報が少なすぎるから、博士についての考察はここまでだな。 次は周りをよく見よう。 物理的に何かヒントが落ちてるかも」


 「・・・そうだな」


 石板の辺りを覆い隠していた結界を壊した事で、認識出来るようになった新しい痕跡があるかもしてない。

 俺とテクルは石板の周りや近くの草むらの中、様々な所に目を向けて何かないか軽い捜索をし始める。


 俺が少しだけ周りを歩き回れば、俺の足元に結界破壊前は無かった物が転がっていた。

 それは空っぽの瓶、文字がプリントされたラベルが貼ってある。

 そのラベルに書かれていたのは、〔異常級回復薬〕と書かれており、よく見れば僅かにだが瓶内には青紫色の液体が残っていた。


 「なんだコレ? 〔異常級回復薬〕、見た事がないな。 ・・・・・・ラベルに書かれてるのは名前だけで、正規で販売するのに必要な効果や原材料、使用した魔法、開発元の説明が書いてない。 違法の品か?」


 ここで使用したシクスが今まで落ちてた武器同様捨てたのか。

 名前から考えて、ここで補給して体力を回復したという事だろう。

 ・・・・・ただそれだけと言い切るには、最近よく感じる違和感がこの瓶にも働き過ぎているが。


 「・・・・クロイ、おかしいぞ」


 「ん? 何がだ?」


 「足跡が・・・・・・おかしいんだよ!」


 テクルの視線の先に目を向ける。

 そこには〈結界〉の崩壊に伴い視認可能になった、先ほどまでは途切れていたように見えた足跡の続きが石板まで続いているだけだ。

 この足跡からしてシクスはやはり石板に乗って回答して正解して進んだに違いない。


 ・・・・その足跡がどうかしたのか?

 普通に右足左足揃った正常で変哲のない足跡・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・!?


 み、右も左も揃った正常な足跡ォ!?


 さっきまで存在してた結界の境目から、片足だけだった足跡が両足の跡に変わっている!!

 失われていた右足が、結界通った直後にいきなり生えでもしたのか!?


 いや?

 俺の手元にある、〔異常級回復薬〕と書かれた瓶に目を向ける。

 ・・・・・これの効果か?


 まさか欠損した部位を再生する程の回復を促せるのかこの薬は!?

 それはもはや回復薬ではなく再生薬では!?

 シクスはどうやってこんな物を入手したんだ!?

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