第90話 彼奴は何を為す
孤児院を出て、夜の通り雨でぬかるんだ地面に残された片方だけの足跡を辿り始める。
足跡を少し辿った先にあるのは・・・・何度も何度も来たことがある【赤みがかった森】だった。
足跡は、【赤みがかった森】の奥へと続いている。
「・・・・森? 本当にシクスは何を目的にして移動してるんだ?」
「その理由は実に不透明で不明だ。 しかし不明瞭だからこそ今追っているのではなかろうか、今はそれについて論ずる意義も暇もないのだよ。 故に今この場で要するのは、追い、辿り、探り、暴く事だ」
テクルはキャラが変わった状態のままどんどん先行していく。
俺も周囲に警戒しつつ足跡を追うテクルの後を追った。
そして森に入って数歩。
俺たちの目の前には、とんでもないものが横たわっていた。
「・・・・・死んでるな」
森に入って数歩。
そこにあったのは、驚くべき事に・・・・[ポイズンベア]の死骸があった。
見るも無惨な事に大量の武器がブッ刺さっており穴だらけ。
肉が抉れている箇所もちらほら。
しかし別にそれはいい。
魔物を殺すのは冒険者なら当然の行為だ、今更多少殺し方が酷かった程度で激しく狼狽するようなものではない。
問題なのは、その地に突っ伏すポイズンベアの背中に無数に突き刺さっている武器・・・・槍、弓矢、ブーメラン、よく見回せばそこらの地面にも散乱している使用したと思われる鋭利な武器達。
これらが、どれもこれも見覚えがあるという事。
「このポイズンベアを殺すのに使われた武器・・・・覚えてるぞ。 全部、シクスがダンジョンで〈クラック・ブランク〉から出されてたやつだ」
「ほう」
シクスは【贋金まみれ洞窟】で、どこで用意したのか分からない大量の武器を放出していた。
その一部に、今現在ポイズンベアにブッ刺さっている尖った武器達があったのだ。
「・・・・ポイズンベアは夜であれば雨だろうが気にせず行動する魔物だ。 だから真夜中の森で普通にシクスとエンカウントして戦闘したんだろう」
まぁ、勝敗はご覧の通りだろうが。
「ふむ・・・・片足を失っているという絶対的不利で魔物と邂逅したが、
「お、おう。 多分そうだろうな」
テクルが賢くなってる気がする。
「先に進むぞ、時間も
「・・・・・俺、いつものテクルに戻って欲しいなぁ」
テクルは俺の呟きを無視して、雨水に塗れたポイズンベアの亡骸を横切り再び進み始めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから歩いて数十分が経過した。
化け物魚の件以降、テクルと俺はクエスト中にも関わらず割と普通にお喋りしたりするようになっていた。
もちろん油断している訳ではなく、ずっと気を張り詰めると疲弊が激しくなるからという理由がある。
だが、今日のテクルは歩いている途中一切喋らない。
時折、情報伝達の為に口を開き放つ言葉も理解不能ではないが、なんだか微妙に難解になってる。
・・・・・いや親友が行方知れずの状態で楽しくお喋りしようとは流石に俺も思ってないけど、それでも今のテクルが纏うピリピリとした空気が純粋に怖い。
別に気を張り詰めて引き締めるのは当然なのだけど。
だって森の奥にシクスが進めば進む程、それに伴い収納されてるラスイが遠くに連れ去られてるという事なのだから。
それにこの数十分の道のりで夜行性の危険な魔物達の死骸が六匹分あった。
六匹の魔物の死骸全てシクスが持っていた何らかの武器で殺されている。
剣で斬り殺されてたり、メリケンサックで殴り殺されてたり、ハンマーで叩き殺されてたり。
そして相当激しく使ったのだろう、その魔物を殺すのに使われた武器達が死骸の近くに壊れた状態で散乱していた。
血は、雨で殆ど洗い流されている。
この森の夜行性の魔物達は、テクルという超パワー系魔人がいるからウチのパーティが大丈夫だっただけであって、本来そんじょそこらの冒険者が手軽に倒せる魔物ではない。
なので通る道で遭遇した魔物全て単独で撃破したシクスの異質さがハッキリとし、余計テクルの心配を煽っている。
本当にシクスはなんなんだ?
・・・・・なんていくら考えようが、テクルの言う通り本人を問いただしでもしなければ答えなんて分からないんだけど。
だがそれでも考えてしまうのが人のさが。
何故ウチのパーティに入った?
何処を目指している?
そもそも一体何者?
だが、一番気になったのは。
どうして、先生の為に足を削ったんだ?
あのまま何もせず、ただ先生を見てるだけで彼は良かったはずだ。
だが彼は自分の意思で自らの足を先生に渡した。
もしかして献身的なところをアピールして信用を勝ち取り、容易に逃げ出す為だろうか。
パーティに入ったのも、何らかの理由に基づいたラスイを攫う計画だったとしたらこの信用される為の行動も納得出来る。
・・・・・・だが、そんなワケない。
本当に最初からラスイ誘拐を企てて行動するなら、逃げる為の足を自分で潰すなどありえない。
そんな事したらそもそも逃走が上手く出来なくなるはずだ。
実際シクスの足跡はかなりフラフラしているし、時々休憩の為か木に寄りかかる為にわざわざ近づいているのが足跡から見て取れる。
移動の要である足を失うのは、信用を勝ち取れるというメリットと確実に釣り合ってない。
それに大雨、しかも魔物が危険な赤みがかった森の夜。
足の片方がないのも加味すれば、逃げるのに適していない状況過ぎる。
確かにラスイを攫うとか、多少の無理が必要だったのかも知れない。
だがそれにしても、このタイミングで逃げるのは愚の骨頂だ。
・・・・シクスは実際にラスイを誘拐している、これは悪い事、犯罪だ。
そこに同情の余地はない。
ないのだが、何か・・・・言葉に出来ないが・・・・シクスはラスイを攫ったのとは別に、何かしようとしている気がする。
ただ攫うだけにしては余りにも不自然過ぎるのだ。
・・・・・・ん?
テクルが突然立ち止まった。
「おいテクルどうした?」
「・・・・・頂を見上げるのは大事だが、時には見下ろさなければ気付けない事もある」
テクルの言う通り、下を見る。
「おっと・・・・・マジか」
下、つまり地面には。
ずっと続いてた道標・・・・シクスの足跡が綺麗にプッツリ途絶えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます