第89話 激情は怒りを飛び越す
「この足跡・・・・窓から外に出たようだな」
「・・・・・足跡は左足の分だけで、右足の跡は無しぃ。 これはつまりぃ・・・・」
そう、片足だけの足跡。
何も知らない人が見たら、誰かがけんけんで遊びながら進んだと思うかもしれない。
だが、俺達は今片足だけになってしまっている奴を知っている。
「・・・・・窓から出たのは、確実にシクスだ」
そして窓から見れる辺りにある足跡は、シクスのものと思われる片足だけのしかない。
つまりラスイの足跡がないのだ。
「まだまだ出会ったばかりの俺が言うのもなんだが、ラスイさんが何も言わずテクルさんを置いていく薄情な人とは思えねぇ。 聞いた話じゃ2人は長年の親友、それを通り越してもはや殆ど家族なんだろぉ・・・・・だったらその2人の片方が片方を置いていくなんてありえねぇ。 昔から積み上げてきた絆は、そんな脆くも安くも薄っぺらくもねぇはずだ。 それに加えて足跡はシクスさんの分だけ。 そしてシクスさんの独自魔法の効果。 どんな理由があるかは知らないが、ここから導き出される答えは一つ・・・・・」
「・・・・シクスのクラック・ブランクは人も収納出来る。 その上収納されている間、当人の意識は朧げに、半分無意識状態になって抵抗出来なくなる。 それはダンジョンからの脱出時に先生と俺が身をもって味わった」
「あははは。 それってつまり? つまりつまり? ・・・・・・シクス。 アイツがラスイを収納して、ここから、逃げ出したって事か?」
さっきまでの不安定さはどこへやら、急に据わった目になるテクル。
何処となく荒々しい雰囲気になっている・・・・クズルゴや化け物魚等の、“敵”を相手にしていた時の雰囲気と似ている。
「・・・・・そうなる、な」
「ほぉん・・・・ふぅん? へぇ・・・・・ シクス、アイツが・・・・・」
纏う空気は一触即発。
大切なラスイを攫った相手、それが明白に分かってしまい、怒りの矛先が明確に定まったのだ。
「テ、テクル。 一回落ち着けよ? 周りに子供達いるの忘れんなよ?」
「・・・・・・・・・そうだな。 怒りで我を忘れたら、それこそ意味もなく時間を無駄にしてしまう。 先ほど私が情緒不安定になったのもいけなかった。 大幅なタイムロスだ。 今から速攻で片をつけよう。 シクス・・・・アイツがなぜ私の天使、ラスイを誘拐し逃走したのか。 何としても追いついて、暴いてやろう。 何故この孤児院という場所で、何故大雨降る真夜中という時間で、何故片足を失っているタイミングで・・・・・何故ラスイを。 ・・・・・・・・全部全部全部、アイツの頭の中を暴いてやろう。 シクス自身が直接吐くのか、もしかしたら私がしびれを切らして思わず頭の中を直接見る羽目になるかもしれない。 あぁ、シクスよ。 お前はいかなる理由でラスイを攫って逃走したのだ? 理由次第ではきっと私は・・・・いや、どんな理由でも、責任は取らせねば。 あぁ、あぁ、無情かな。 昨日の友は今日の敵か、或いは・・・・」
テクルはおかしくなった!!
さっきとは別ベクトルのおかしさだ。
何かキャラが違う気がするぞ。
「結局・・・・何をするつもりなんだ?」
「足跡を辿る。 今より辿るのだ。 幸いにも雨でぬかるみ完全な固でなくなった大地、それを彼奴は御丁寧に踏み進んで行ったのだ。 片方だけの足で強く踏み締め、結果足跡は多少の時流では消えない導となっている。 これ程瞭然な跡、これは追えと言っているのと同義。 ならば追わせてもらうしかあるまい?」
テクルの声が重く響く。
普段のテクルは確かに女性の中でも割と低めに入る部類の声質だが、ここまで重苦しい低音じゃなかった。
ブチ切れ過ぎて声色までぶっ壊れちゃったのか?
「テクルさん、完全にキレるとこうなるのかぁ・・・・・怖ぁ」
「わ、分かった。 シクスがどんな意図でパーティに入り、どんな意思でラスイを連れていったのか分からない。 テクルの言う通り、追って暴くしかないな!! 先生、俺達ちょっと行ってくる!」
「あ、あぁ。 あ、いや。 俺も恩返しの為に着いて行くってのは・・・・」
「先生、昨日まで俺ののど飴以外ダンジョンで飲まず食わず、追加で気絶を除けば寝ずの数日間を過ごしていたのを忘れたか? 多分今の先生は自分で思っている以上に疲労疲弊している。 ここで休んだ方が絶対にいい」
「・・・・・分かった。 確かに途中でぶっ倒れでもしたら逆に迷惑になっちまう。 ・・・・ただ、何かあったら孤児院に戻ってきてくれ。 出来る限りの協力はする」
「うんうん!」
「なんの話かよくわからなかったけどーーー!!!」
「たいへんってことは分かった!」
「なにかあったらぼくたちもお手伝いしますよ」
先生も子供達も良い人だなぁ・・・・
「それだけで十分! ありがとな! 行ってくる!」
「謝意」
うん、テクル絶対にキャラ変わってる。
俺の知ってるテクルは少なくともお礼の言葉に『謝意』をチョイスしない。
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