第86話      は行方を眩ませる

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!!」


 現在、朝6時!!

 少し前から子供達は起きており、この孤児院では本来朝食を食べている時間帯。

 

 だが今この孤児院で響いたのは、決して食事を摂る音などなどではない。

 今響いたのは、テクルの絶叫である。

 

 少し前から、早起きな子供達の声や生活音が聞こえて若干目覚めかけていたのだが、叫びに驚き夢うつつだった俺は飛び起きてしまった。

 もう少し寝てたかったが、こんな早朝にテクルが叫んだ理由が気になったのでベッドから抜け出して、その声の発生源に耳を頼りにして向かう。

 

 到着した、その場所は。


 昨日シクスが寝かされてた保健室だった。

 しかしその部屋には昨日と比べて無くなってるもの・・・・・いや、居なくなっている者がいる。


 そのせいだろう、テクルが頭を抱えてうずくまっていた。


 「あぁぁぁぁぁああぁぁぁ・・・・・ 何で何で何で何で何でぇ・・・・・!? いないないないないないないないないないないないいないない」


 うずくまるポーズのまま、先程叫んだ声とは打って変わり小声でぶつぶつ呟き始めたテクルがめっちゃ怖い。

 そんなヤバい挙動してるテクルを落ち着かせる為にか、子供達がテクルの周りに群がり撫でまくっている。

 多分ここの子供達は撫でる行為そのものが万能なコミュニュケーションツールだと思ってるな。

 

 だが撫での結果は芳しくなく、効果がないようだ。

 そもそも撫でられている当の本人は意に介していない、というかもしかしたら気付いていないのかもしれない・・・・・それぐらい錯乱している様子だ。

 

 しゃがんで顔を下に向けてるテクル、それより視線を上に向ければそこにはベッドが・・・・正確に言えば、誰もいないもぬけの殻の、空っぽのベッドがあった。

 昨日寝かされてたシクスはおらず・・・・雑に抜け出したのだろうか、布団がずり落ちてシーツをくしゃくしゃだ。


 そして、テクルがここまで動揺している要因も見れば一瞬で理解出来た。

 今何故かいないシクスに付き添う形で一緒にいた彼女・・・・テクルの親友にして、姉妹にして、心の拠り所である、ラスイもいなくなっていたのだ。


 己が抱える暴力性への恐怖から勘違いしてたあの頃のテクルが遠ざける為にラスイとのパーティ、というかコンビを解散していた時期でさえ我慢出来なかったのか、ラスイに自分から突っ込んでしまうという結局一緒にいたいのか遠ざけたいのか分からない矛盾した行動をしてしまう程、テクルはラスイに対して強く重い感情を持っている。

 思えばその我慢出来ずラスイに突っ込んできたのが、俺とテクルの初の邂逅だったな。


 最終的に何をラスイに言われたのか、化け物魚を倒しトラウマを克服して、ラスイと一緒にいても平気、むしろ一緒にいなければ嫌だと思って泊まる宿部屋だって一緒にしていたテクル。

 だがトラウマを完全ではないといえ克服した事で一層ラスイへの感情は磨かれ、足を削ったシクスが懇願する事でかなり渋々ラスイと一緒にいる事を許可するぐらいラスイを大切にしている。

 そのラスイがいきなり居なくなったのだ、ラスイと常日頃一緒にいた事でかなり安定していた情緒が再び滅茶苦茶になっている。

 

 「いないいないないいないないないないないないないないいないないいないないないないないないないいないいないないいないないないないないないないいないいないないいないないないないないないないないいないないいないないないないないないないいないいないないいないないないないないないない・・・・・いないいいいいいいっっっ!!!」


 また急に叫んだ、怖い!!

 子供達もビクウッッ!!となって散ってしまった。

 それでも尋常じゃない様子のテクルを遠巻きに見て心配し、また近くに集まり始める子供達・・・・・何だこの子達優しすぎるぞ。


 そんなカオスな状況の中、いきなり扉が開く。


 「急に叫んでどうし・・・・・本当にどうしたぁっ!? なんだこの状態はぁっ!?」


 叫びを聞きつけ、少し遅れて先生が入ってきたが。

 うずくまり呟きまくりのテクルに、子供がワラワラ撫で撫でしていて、その上本来この部屋に居たはずのシクスもラスイも見たらない!

 朝一に飛び込んでくる情報にしては難解過ぎる、俺も昨日の疲れが取れきってない事も相まって頭痛がしてくる。


 「ううううううぅぅぅぃぃぃぃああああぁぁぁぁうううううぅいいいいいい!!!」


 とりあえず、今は早急に発狂してるテクルのフォローをせねば!

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