第85話 は を収納する
トトに撫でられ続けて数分。
割と長い時間撫でられ続けて小っ恥ずかしさ超えて困惑し始めてきた俺。
思った数倍の時間だったせいか何故か数日以上経過している様な錯覚すら覚える、そんぐらい長い。
「こ、この撫でっていつまで・・・・」
「はい・・・・トトは、よしよししながら、撫でます。 このよしよしは、深い感謝を、表現してます。 トトの感謝はまだまだ表現し切れていません」
そうかぁ。
これ、深い感謝を表してるのかぁ。
・・・・なら仕方ないな!!
「・・・・えっと、クロイさん。 悪いがこの状態のままシクスさんの所までついてきてくれねぇか?」
「え」
え。
「そろそろシクスさんの様子とか確認してぇし、なにより恩人をここでずっと立たせる訳にもいかねぇし・・・・トトは撫でるのを止めそうにねぇからこの状態のまま・・・・・だ、駄目か?」
こ、この状態のままか・・・・それはつまりシクステクルラスイ3人の前で子供に撫でられまくるって事。
・・・・普通にメッチャ恥ずかしい気がする。
いやでも、先生は子供であり魔人でもあるトト独自の考え方をしっかり尊重した上で俺に聞いてきている・・・・流石は先生だ。
そんな先生が頼んでるのだ、俺も先生が尊重するトトの考えを尊重しよう。
「・・・・分かった。 このまま向かう」
そして先生がトトを抱え、そのトトに先生の隣を歩いてる俺が撫でられている状態で、シクスを休ませているこの孤児院の保健室に行くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
保健室・・・・普段から他の場所より特段清潔に保とうと言う努力が垣間見えるその部屋の、2つある小さめの白いベッドの内1つにシクスが横たわっていた。
その周りには、孤児院に来た時に案内してくれた子、酒場に依頼しに来た子などの見覚えがある子、全く知らない子達、全部で15人がいた。
その子達に混じってテクルとラスイもいる、皆心配そうにシクスを見守っていた。
布団で覆われて見えないが、今シクスの右足部分を止血含め諸々の処置をされ包帯で巻かれてる状態だ。
処置は終えたとしても皆シクスの事を案じているんだな・・・・知らない子供達まで集まってるとは、全体的に優しい孤児院だ。
「・・・・クロイ、お前髪の毛が凄い事になってるぞ」
そんな少なくとも明るくはない空気の中、入室時撫でられで髪の毛ぐしゃぐしゃになってる俺と目が合ったテクルはそう言った。
「あ・・・・!!」
「トトだ!」
「トトーーー!」
当然入室する際の扉の開閉音でテクルだけでなく他の子供達もこちらを見るが、どうやら子供達は皆トトに目が行ったようだ。
トトを抱えた先生の足元に群がる子供達・・・・未だに俺の頭から手をどかそうとしないトト。
その様子を見てトトの行動を中止させて群がる子供達の所へ降ろすべきか悩んでいる先生。
そして隣にいる先生の足元に半ば駆け込んできた子供達が大量集結したせいで、悪意は無いんだろうけどその子供達の一部に足を踏まれてる俺。
「トトが! げんきなってる!」
「わーーーーい!」
「トトちゃんのふっかつだ!」
「よみがえった!」
「トトちゃんしんでない!」
他の子達からめっちゃ大人気だなぁトトちゃん、皆のアイドルかな?
「皆、トトの事今まで心配してくれて、こうやって治ったのを喜んでもらえて嬉しいけど、よこたわってる人がいる保健室で、騒いじゃ、めっ! なんだよ」
「た、たしかにーー!(小声)」
「しょーげきのしんじじつだ(小声)」
「さわいだらめーわく、それもそうだった(小声)」
トトの説教に感化され、すぐに声を小さくし騒ぐのをやめた子供達。
聞き分けが良すぎる・・・・・!!
トトちゃん、アイドルというより皆の姉貴なのかも。
「トトは、今このクロイさんに感謝撫でをしてるから、皆は他の恩人さんに感謝撫でを、お願い」
「わかった!!(大声)」
「しずかに!(小声)」
「わかった(小声)」
「よし(小声)」
微笑ましいな、おい。
トトの言った通り子供達は5人ずつの3グループに分かれ、テクルとラスイそしてベッドのシクスを撫で始めた。
「え、私は別に撫でなくて大丈・・・・って待って割とくすぐったい! こそばゆい! あ、頭下げるからぁ、5人がかりで足だけを撫でないでぇ!」
テクルは立っているせいで頭に手が届かないから、子供達はスカートの中の足を撫でている。
「そ、そんな感謝されるような事は・・・・で、でも断るのも失礼ですよね。 よ、よろしくお願いします」
感謝されているのに相変わらず超下手に出るラスイは、子供達が撫でやすいように頭を下げる。
そのポーズは所謂お辞儀であり、撫でやすくする為に角度がめっちゃ深いのでなんか悪い事した人みたいになってる。
「僕は本当に撫でなくて大丈夫っすよ・・・・え、ダメ? 撫でるのは絶対? マジっすかぁ・・・・」
そしてベッドで安静にされてるから、物凄く優しく撫でられるシクス・・・・ん?
「お前起きてたのかよ!」
てっきりベッドで横たわって目瞑ってるから寝てるもんかと思ったわ!
「起きてたっすよ。 単に体起こすのが怠くて面倒くさかっただけっす・・・・流石にクロイが撫でられながら入室して来た時は気怠い身ながら驚いたっすけどね」
「てっきり右足部分の金化が治って痛覚が復活した事で痛みで失神したかと・・・・いやまぁいい。 そうだ、後で報酬とは別に唐揚げ奢ってやる」
「え、いきなりっすね。 割り勘でも結構嫌がるクロイがどういう風の吹き回しっすか?」
「だってお前凄いから。 あの状況で自分の右足削って先生助けるなんて発想俺には出来ないし、思いついても俺は怖くて絶対無理だ。 だから普通に尊敬した、真似はしないけどな。 その感動のお礼・・・・っていうのは何か違うけど、まぁそんな感じだ」
「曖昧な回答っすね。 ・・・・僕が勝手にやったから別に大丈夫なんすけど・・・・まぁ喜んで奢らせて貰いたいっすね」
「・・・・・その、俺の財布にも限度があるから程々で頼む」
「それなら大丈夫っす。 ・・・・・だって、どうせ僕は今日・・・・」
・・・・・?
「・・・・・今日? それはどういう」
「!! いや、今日はここでゆっくり休ませて貰おうって事っす! さ、僕は寝るので皆さん他の所に行って貰って大丈夫っす!」
話を遮るようにいきなり大声で話したシクスの言葉に、皆が少し驚いた。
「いや流石に怪我人を1人にするのは」
「それなら! ・・・・・手当の心得があって生命を感じ取れるラスイさんだけここで残ってもらっていいすか?」
「分かりました!」
「即答っすね」
「ラスイが残るなら私も・・・・」
「そんなにここに残られたら僕がなんか申し訳なくなって困っちゃうっす。 だから側にいてもらうのはなるべく1人で・・・・・ 皆はもっと良い部屋で眠ってくださいっす」
悩むテクル。
「・・・・・う、うぅぅぅぅ。 ま、まぁ、今回の功労人だし・・・・今夜だけラスイと2人きりを許可してやる。 ・・・・・今夜だけだぞ!!」
「ありがとうっす!」
「ありがとうラテクルちゃん」
「・・・・それじゃあ、クロイさんテクルさんの2人を客室まで送る。 そろそろ夜の8時。 ガキ共も部屋に戻れ」
「「「「「はーーーーーーーーーーい!!!」」」」
いつの間にか撫でるのを止めていた子供達が一斉に保健室から出ていく。
なんと全員律儀に保健室に出る際にしっかりお辞儀をしていた、礼儀が凄い。
そしてこれまたいつの間にか俺だけでなく先生も撫でていたトトも、ようやく表現を終えたのか撫でるのを止め先生に降ろして貰っていた。
「先生、クロイさん、テクルさん、シクスさん。 ありがとうございました。 また明日、お会いしましょう。 お休みなさい」
そうしてトトはさっきの子供達同様保健室から出る時にお辞儀をしてトテトテと去って行った。
その後シクスとラスイにしっかり休むように改めてお互いに言い、俺は先生に案内されて客室へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深夜、皆が寝静まった時間。
「・・・・・・・・」
場所は保健室。
シクスに何かあった時の為ベッドの隣に椅子を置き、そこに座ったままラスイは寝てしまっている。
だが寝てしまうのも仕方ない、何せシクスの体調は2人きりになった後も体調の急変などの問題も起きなかったし、なによりシクス自身がずっと付き合わせるのも悪いので寝て欲しいっすと強く言った。
・・・・・・何より、現在時刻が深夜3時半。
ダンジョンであれだけの事があり疲れてるなら、起きてる方がおかしいのだ。
なのでラスイはおかしくない。
おかしいのは・・・・・
「あぁ、もう・・・・・“タイムリミット”っすね」
こんな真夜中に、誰よりもダメージを受けた癖に起きて・・・・・手を、ラスイの頭にかざしているこのシクスという男だ。
シクスは・・・・いや、[ナンバー6]は。
「『魔人の回収』・・・・・命令、遂行っす」
掌にクラック・ブランクを発動させ、一瞬でラスイを空白の隙間内に“収納”したのだった。
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