6:大嘘
「・・・・・僕を、御三方のパーティに入れて欲しいっす!!」
今、僕は『魔人の回収』という命令を遂行する為にその魔人達のパーティに入ろうとしているっす。
僕のパワーでは魔人を誘拐して無理矢理連れ帰る事は出来ず、むしろ返り討ちにあう・・・・ならばと、僕はまず仲間としてパーティにしてもらう事にしたっす。
内側に入り込んで上手くやれば信頼を勝ち取って、騙す事で研究室に連れて行けるかもしれない・・・・その為にコイツらのパーティに入れて貰おうと考えたっす。
幸いにも、エルガントさんに明確な理由は勿論ぼかして『あの人達のパーティに入れてもらいたいんすけど、どうすればいいすかね?』と相談すると、丁度最近会ったらしくて仲介して貰えたっす。
そうして仲介し終えたエルガントさんが離れて後に、パーティに入りたいという旨を3人組に伝えたら酷く驚かれたっす。
で、パーティに入る前に色々質問されて、その3人組の内の1人である水色髪のフード被った内気な感じの女性、ラスイが僕に『・・・魔人について、どう思いますか?』と聞いてきたっす。
僕はこの質問を・・・利用する事にしたっす。
「魔人・・・素晴らしいと思うっす。 存在が感動モノっす」
「魔人は人間のワンステージ上にいる偉大なる存在っす。 神が暇つぶしで創ったのが人間だとすると、神が本職で創ったのが魔人っす」
「魔人の力と人間の魔法では雲泥の差があるっす。 魔人は人間のーーー」
「そもそも魔人を人間と比べることがーーー」
「魔人の能力は魔物としての性質から来る為、魔法と違い魔力を消費しないっす。 更に魔人は基本的な全ての魔物に共通する膨大な魔力量があるっす。 やっぱ魔人って凄いっすよね!」
嘘、うそ、ウソ、嘯、噓。
これらの言葉は全てあの博士がよく僕に言ってくる言葉を流用しただけ。
あの博士はよく分からないっすけど魔人にかなりご執心、だからか一方的に僕に魔人を褒めまくる話をしてくるっす・・・・・僕はどうでもいいんすけど。
だけど、『魔人の回収』をする為に。
良い印象をこの3人組に持ってもらう為に。
油断させる為に。
僕は思ってもいない魔人の存在を褒め称える言葉をペラペラと喋るっす。
その言葉全てあの博士が言った物を完全にそのままで言うだけっすから、自分でも驚く程饒舌に言えたっす。
案の定、世間から拒絶・・・・とまではいかなくとも目を逸らされてきた魔人達に僕の
その後、僕が[独自魔法]という体で披露した『空白の隙間』、いや・・・・〈クラック・ブランク〉と名付けた能力を見せて、仲間入りを果たせたっす。
独自魔法と言う事にした理由は、僕は魔人でも無いのによく分からん実験で能力を持っているっすけど、あくまで表向きには僕はこのパーティに入りたいと思った唯の一般冒険者っすからね。
これが魔力消費を必要としない特殊な能力だなんて言えないっす。
テクル、ラスイ、そして・・・・このパーティ唯一の魔人でない外れた者、クロイ。
僕はこの3人組のパーティに・・・・この街に来た時から名乗ってきた[シクス]という名で、内部に入り込んだっす。
・・・・・『魔人の回収』を遂行する機を、内側から待つっす。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから色々あったっす。
パーティに
テクルさんは力強く、いつも僕達を守ってくれたっす。
ラスイさんは卑屈っすけど、いつも周囲に気を配っている優しい人っす。
クロイは魔人でも無いし、クエストで役にも立たない木偶の坊だったっす。
唐揚げは美味しかったっす。
本当に、ここは、幸せっす。
でも、3ヶ月のタイムリミットは着実に迫っているっす。
残り一週間、『機をうかがっている』という無理のない後付け解釈で『魔人の回収』を先延ばしにしているっすけど・・・・もう限界っす。
気付いた時には、自分の手が時々魔人2人を後ろから首を絞めようとしていた事があったっす。
【絶対命令刻印】の効力が日に日に強くなり、無意識にどんな方法を使ってでも目の前にいる二人の『魔人の回収』をしようとしてしまっていたっす。
ギリギリで止まる事が出来たっすけど、3ヶ月というタイムリミット+身近にいる魔人の存在を察知して無意識に命令遂行させようとする【絶対命令刻印】・・・・・もう、本当に限界っす。
あの2人は良い人っす。
本当に、良い人なんす。
というか、あの
『元』のリセットにより知識が曖昧になってしまった僕に色んな事を教えてくれたし、話していて楽しいし、唐揚げだって分けてくれるっす。
クロイも、毎回クエストに貢献して無いのにキッチリ一丁前に報酬は貰ってるのは納得できないっすけど、まぁ多分良い人っす。
このパーティが『楽しい記憶』の殆どを埋めてくれたっす。
このパーティが、僕を満たしてくれたっす。
だから、『魔人の回収』とかいうこの幸せを崩す最悪な命令なんて実行したく無いっす!!!
だから、僕は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また色々あったっす。
いきなり酒場に子供が押しかけたかと思ったら、先生とやらを助けて欲しいという話になり僕達が助けに行くことになったっす。
そして紆余曲折してダンジョン脱出後、最終的に僕は金化した足を先生に渡したっす。
先生は本当に申し訳なさそうに罪悪感を感じていたみたいっすけど、これは大嘘つきのである僕の『罪滅ぼし』なんすから、気にしないでいいんすよ。
それに失うのが足だけなら儲け物っすよ、実験ではよく四肢がもげてたんすから。
右足を削ったその後、僕は孤児院の一部屋のベッドに寝かせて貰ったっす。
右足を失ってる僕を2人の魔人含めて孤児院の子供達が甲斐甲斐しく世話してくるっす。
本当に、大丈夫なのに。
しばらくして、先生とクロイが入ってきたっす。
先生がダンジョンに入った理由である病気の子とやらを治療し終えた様で、その子と思わしき全体的に緑な女の子を先生が抱えているっす。
え、なんで先生に抱えられてるその緑の子がクロイを撫でてるんすか?
・・・・撫でられながら入ってきたクロイに少し驚いたっすけど、まぁそこはいいっす。
3ヶ月のタイムリミット・・・・・時間が経過し“実は既に1日も残って無い”っす。
だから、僕は今日、実行するっす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます