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研究レポート {空白]月 『空白】日 対象:仮ナンバー《空白} 内容:自己認識の有無


 「・・・あ、あーーー。 わしの声が聞こえているならとっとと返事をしろ。 繰り返す、聞こえるなら何らかの返事をしろ。 もう一度繰り返すーーー」


 培養槽の薄汚れた緑のガラスの壁越しにいる・・・・人の見た目をした『何か』に、白衣を着た小柄な老人が〔魔力マイク〕と呼ばれる魔機械を通して声を伝えている。

 老人がいる部屋は『何か』の研究室の様だ、様々な研究器具が置いてある。

 そこから考えるにこの老人は研究者、或いはそれに近しい存在なのだろう。


 「最後に繰り返す、聞こえるなら返事をしろ。 ・・・・・・・・はぁ。 形は理想的だが、本当に形だけか。 これも失敗・・・・・」


 老人はしばらく同じ様な事を培養槽内の『何か』に語りかけていたが、反応が無かったようだ。

 老人はため息混じりに、自分の手元にある『処分』と書かれたボタンに手をかける。


 『ジ…… ジジジ‥ ジジ…‥…』


 しかしそのボタンを押す前に、老人の耳に雑音が届く。

 この雑音は・・・・培養槽の中の声を拾うマイクが、何らの音を拾いこちらに送っているということ。

 マイクが特殊な培養槽内の液に常に浸っているせいか、調子が悪く大量の雑音が流れてしまうが、そんなことはどうでも良い。


 老人はボタンを押す直前に手を離し、マイクが拾う声に急いで耳を傾ける。

 これが只の呻き声などでは今回も失敗、また最初からやり直しだ。

 しかし、そうで無いなら・・・・・


 『ジジジ……… ・・・・・ここは、どこ? 私はだ、れ? ・・・俺は誰? ? 僕? 私? 俺? どこ? ??? ジ‥…ジジ‥…・・・?? 状況? 何? え? え? え?? わからない分からない判らない解らない輪から、無い? え? ここはここは? 私、俺、私、わし、某、あたし・・・・違う。 ジジジジジジジジ‥………… ・・・・・・・僕は誰っす?』


 途中途中で耳障りな雑音が混じるが、ハッキリと『何か』が自ら発した声を聞いて、老人は嬉しそうにほくそ笑んだ。

 実験は成功したのだ。


研究レポート 結果:成功、対象は5分程で錯乱状態ながらも自己の認識を行った 補足:事前の予想通り、初期段階では自意識が不安定となっていた だが観測結果から完全な自我の再形成は時間経過で可能と判断 この結果から、対象に正式なナンバーを設定する


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 ・・・・・僕の目覚めた場所は、とある狭い部屋の中の更に狭い培養槽の中だったっす。


 ここで言う『目覚め』とは僕自身が僕を認識した瞬間の事を指すっす。

 自己認識はまだ曖昧で、自我がまるで液体の様に不定形だったっす。


 でも時間が経てば経つほど・・・・・僕は僕になっていったっす。


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ナンバー の研究レポート    月   日    内容:能力の確認


 「貴様には何らかの能力があるはずだ。 使ってみろ」


 『ジ… 分かったっす』

 

 培養槽内で『何か』は、老人の命令に従順に従い、言われた通り能力とやらを使おうとする。

 しかし命令自体が要領を得ず不明瞭、その能力が何なのか、どうすれば使えるかがなんて今の命令では分かりっこない。


 一時間経過・・・・『何か』は努力してるものの、何も出来ず、何も起きず。

 老人は目に見える程苛立っていた。


 「早く使え!!」

 

 『ジジ‥…ジ すいません・・・・っす』


 培養槽内の『何か』は謝罪をする。

 老人はここで少し驚いた。


 自分より上の立場のものに叱責されたから、謝るという行動を取った。

 これは僥倖だ、自我の再形成が予測より早く上手くいっている証。


 培養槽内の『何か』には『元』となった者がいる。

 だが、その『元』の記憶も、自我も、人間性も、一度リセットしている。


 その『元』を極一部を除いたまっさらにするのは研究の過程で必要だが・・・・同時に一度中身が消えた空っぽの器を基盤とした自我の再形成も研究過程で必須。


 老人はこの反応を見ていよいよ自身の研究が実を結ぶと思い、高揚した。


 しかしその高揚も束の間。


 三時間が経過しても、『何か』は能力と思われるものを一度も使用出来なかった。

 この命令の内容ではアバウトすぎて、それも仕方ないかもしれないが・・・・・命令を下した本人はそれを是としないようだ。


 「早く使え!!」


 老人は苛立ちを隠そうともせず叫び、それと同時に『教育』と書かれたボタンを押す。


 『ジジジジ…ジ‥ジジ が、はぁっ!? ジ…』


 ノイズに紛れながらも、はっきりと『何か』は悲痛の叫びを上げた。

 叫ぶのも無理もない、培養槽の中に電流を流されたのだから。

 しかも、死にはせず痛みを与えるのに特化した魔法による特殊な電流・・・・〈激痛電〉の電流。


 「早く使え! お前が使えなきゃまた最初からやり直しになるだろ!!」


 老人は、まるで子供の様な八つ当たりの如く『教育』ボタンを連打する。

 それは研究者であるにも関わらず、苛立ちをぶつけているだけの合理性など微塵もない行動。

しかもその苛立ちの原因が『思い通りにいかなかった』なので手に負えない。

 失敗を1つのサンプルとして糧にする事で成功への足掛かりとする一般的な研究者の精神は持ち合わせてない様子。


 そして、この途中途中で電撃と同時に悲鳴が流れる実験は、開始11時間後に終了した。

 結果的に言えば、当初想定していた完璧な成功だ。


 891回の〈激痛電〉が流れたことを除けば。


ナンバー の研究レポート 結果:成功 対象の能力使用を確認した 補足:能力発現が非常に遅く対象は怠惰だと発覚 故にこれからも〈激痛電〉の使用は必須 尚能力自体はこれからも訓練をさせ完全自由自在の使用を可能にさせる


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 僕の能力は激しい痛みに耐えながら初めて使用したっす。


 能力を発動した瞬間、僕の腕に何もない空間が広がる隙間が生まれたっす。

 その能力による空白隙間は培養液を吸い込み始めて、少し驚いたっす。

 その後、取り込むのでなく逆に液を空白の隙間から吐き出す事も出来たっす。


 思ったより感覚が掴めなくて、頻繁に流れる痛みに耐えながら、手こずりながら・・・・何とか出来たっす。


 その吐き出しをきっかけに僕の能力はかなり融通が効く様になっていったっす。


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