第83話 商品は常軌を逸している

 「・・・・な、何でぇ。 シクスさんがやる必要ななんてなかっただろぉ!! 皆さんはおれの救助に来ただけで・・・・ここまでやってくれただけで充分に十二分だった!! 金塊を入手するのは完全にこちらの事情だったのに!!」


 「・・・・・・・・“罪・・し”」


 先生の問いに、シクスはボソッと何かを呟いて返した。

 余りにも小さく、殆どが聞き取れなかったが。


 「・・・・シクス、何て言った?」


 「・・・・・何でもないっすよ。 ・・・・早くこの金塊をとって、子供助けるための薬をゲットするっす・・・・・ 僕のこと気にしなくていいんで・・・・・」


 「で、でも。 シクスさんの足をおれのために」


 「ほっんとに!! 気にしなくていいんすで!! 気にするなら子供達の前で僕のこと褒めまくってくださいっす・・・・・ あと、唐揚げ少しくれるとかでもいいっすよ・・・・」


 「・・・・感謝するぅ! だが、今は大丈夫でも金化が完全に治ったらシクスさんの失った足を失った際の痛みが遅れてやってくるし血がドバドバ出てくるだろうから、近くにあるおれの孤児院で一度処置をするぅ! そこまでシクスさんを連れてって向かって欲しい! 薬を手に入れたらすぐにおれも向かう!」


 先生はシクスの覚悟を感じ、言う通りにするようだ。

 その意思を尊重しよう。


 ・・・・孤児院って何処だ?

 頭に?マークが浮かんでそうな顔をした俺を見て察したのか、先生が位置を伝えようとしてくる。


 「孤児院の場所はだな・・・・」


 「場所なら大丈夫です! 子供達が酒場に依頼に来た時、その子達が帯びる生命の周波を私の触覚が覚えています! その子達プラス他の子達が集っている所まで私の〈触覚探索〉で探って向かえます!」


 ラスイが優秀すぎる。


 「そ、そうかぁ!! それなら・・・・おれは1人で薬を入手出来る所までいってくるぅ!」


 「待ってくれ。 先生だって金化が完全に治ってないから上手く歩けないだろ? だいぶ治ってきた俺がその薬を入手できる所まで歩くのを手伝う。 テクルとラスイは先にシクスを連れて孤児院に行っててくれ」


 「わ、分かった!」


 「理解しました!」


 「OK、っす」


 そう言って3人はラスイが先導し、テクルがシクスを丁寧に運んでいって孤児院があるらしい方向へと向かっていった。


 「じゃあ先生、その薬はどこだ? 早速一緒に向かう・・・・重っ!!」


 「・・・・無理しておれを運ばなくても大丈夫だぁ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 苦労しつつも先生を背負いながら案内通りに進むと、俺が使ってる宿屋の近くにある人通りの少ない道に辿り着いた。


 ん? この路地裏なんか覚えがあるな。


 「ありがとよ。 ここまで運んでくれて・・・・ もう自分でも何とか歩けるぐらいは回復したぁ」


 先生の金化も大分マシになっており、もう見える部分に金化は無くなっている。

 恐らく残りは服の下の見えない所だけだ。


 そして先生と共に薬とやらがある道の奥に辿り着く、そこにいたのは・・・・


 「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。 遅かったじゃないか。 事前に言っといた期限ピッタリに来たねぇ・・・・そろそろ帰宅しようかと思ってたとこさ。 危なかったねぇ」


 俺が〔付隠の手袋〕を購入した、あの老婆だった。


 「あぁ、色々あってなぁ・・・・ギリギリですまん。 約束通り、金魔石だ。 こちらの都合で悪いが、早く薬をくれ。 時間がないんだぁ」


 先生も〔付隠の手袋〕購入時の俺と同じく、普通には買えなかったから何らかの条件を呑む代わりに購入出来るようにしたのか。

 その条件が金魔石だったんだな。


 「ふえっ、ふぇっ、ふぇっ、随分お急ぎの様子だねぇ。 余計なお喋りはご所望ではなさそうだ。 ほれ、どんな病気でも治せる〔特殊万能薬〕だよ」


 先生の手に、透き通った緑色の液体が入った小瓶が渡された。


 「感謝する! すまんがクロイさん、俺は走って先に孤児院の病気の子に薬を届けるぅ。 孤児院の場所は、ここから最初の曲がり道を右に曲がってしばらく歩けば来れる! 本当に申し訳ないが置いていかせて貰っていいかぁ?」


 「急いでるのは知ってるから気にしなくていいぞ。 途中で転んだりするなよ?」


 そう言うと先生はこくりと頷き、治ったばかりの足でダッシュして孤児院がある方へと走っていった。

 先生を見送っていると、老婆が俺の顔をじっと見て目を見開いた。


 「・・・・あぁ! お兄さん、見た事あると思ったらこの前〔付隠の手袋〕と〔インビジブル・ハット〕を買った子じゃないか」


 「そうだぞ、また会うとは思わなかった。 ・・・・そういえば、今はどんなのが売ってるんだ?」


 「少し見てくかい?」


 「・・・・・ちょっとぐらいいいかな。 どれどれ・・・・」


 インビジブル・ハットも付隠の手袋もかなり便利だったので孤児院に向かう前に少し見ることにした。

 この前とは商品が綺麗に全て変わっていた。


 〔撮影石β〕・・・撮影石と見た目が酷似しているし機能も何かを撮影出来るというとこれも同じものだが、人の顔を撮ると勝手に点数をつけるという凄く失礼な機能があるしOFFに出来ない、誰が27点の顔だ。


 〔アイテム袋〕・・・どんな大きさの物でも3つまで収納できる異空間が内蔵された袋、尚そもそも袋の口に入るサイズでないと収納出来ないが袋口のサイズは子供の手のひら級である、手で持てば良くね?

 

 〔究極のなまくら刀〕・・・見た目は一級品の何でも切れそうな刀、実際は絶対に何も切れないように加工されている、切れない刀は唯の棒ではないのだろうか?


 うん!

 何もめぼしい物は無かった、孤児院行こう!


 ・・・・・ん?


 老婆に別れの挨拶をして足早に去ろうとした俺は、ここでふと違和感を感じる。


 言っては悪いが、この老婆が売る物は変な物だ。

 一見凄そうな物だって実際は駄目な物ばかりだ。


 俺の〔付隠の手袋〕だって付与魔法意外使えなくなるというデバフしか使えない男以外にはデカすぎるデメリットがあるし、〔インビジブル・ハット〕は透明になっても帽子自体は見えぱっなしという本末転倒な部分がある。


 それらは上手く利用してきたが・・・・先生に渡した万能薬は?


 「なぁ、さっき先生に渡した万能薬の事詳しく教えてくれないか?」


 「ん? あぁ。 あの万能薬の効果はどんな病も治せる、ただし植物の病気限定だがね。 植物以外に使うと使われたものは死ぬ」


 「なんて物売ってんだ!!」


 とんでもない物売ってやがった!!

 万能薬(植物限定)ってなんだよ!!


 え、待てよ?


 先生は既に孤児院に向かい子供に使おうとしてる。


 この万能薬(大嘘)のデメリットに気付かず使用したら・・・・!


 急いで止めなければ!!


 俺は速攻で孤児院に向かい、全力で駆けていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る