第82話 最良は一つを変える

 「私の触手、か・・・?」


 「・・・・あぁ、触手を切り離す事で金化を回避出来るんだろぉ? テクルさんの発言とか作戦たてる時の話でどうやって金化の解除をしたのか分かったんだよ。 ここで気になったのが、切り離した後の触手だ」


 「え、確かに2回とも切り離したけど。 どっちも謎蛇に食わせちゃったし・・・・」


 「待ってテクルちゃん。 ・・・・この逃げる時に謎蛇の口の中に放り込まれた触手がまだ残ってる! 多分ちゃんと飲み込む暇がなかったからかな・・・・そもそも飲み込んでもお腹がなくなってるから意味無いけど・・・・」


 そう言いながらラスイは、頭だけになった謎蛇の口をこじ開けて体の上半身を突っこんで中から触手を引っ張り出した。

 絵面がヤベェ。


 「あ! ありました! 先生、どうぞお納めください!」


 「・・・・あ、ありがとう」


 そのまま謎蛇の口ん中にあった切り離された触手を先生に手渡すラスイ。

 先生が若干ドン引きしているのが見るだけで分かる。

 魔人のお二方は、眼球とかさっきまで口の中に入っていた物とかをいきなり渡さないでください、ビビるから。


 先生は気を取り直して、受け取った触手を観察し始めた。

 触手は相変わらず半分以上が金化したままだ。


 「・・・・・分かった」


 「・・・何が、すかぁ・・・?」


 先生の主語が無い唐突な発言に、シクスが当然の疑問を投げかける。


 「金化毒・・・・クロイさんの言う通り毒魔法のお約束に漏れずちゃんと魔法の主である蛇を殺したから徐々に解除されていってる。 ・・・・おれも多少元気が出て来たし、ゆっくりだが実感できる程生身に戻っていってる」


 「・・・・確かにっす」


 「・・・だけどこの毒、隠し仕様があるみたいだなぁ。 それは・・・・切り離して既に自分の体で無くなった部位には、そのまま金化が固定されるっていう仕様が」


 「そ、そんなのがあるのか?」


 「この触手ぅ・・・・金化が少しも治っていっていないし逆に金化の侵食も止まっている。 もう既に切り離されて死んだ部分は金化が完全に止まるみたいだなぁ」


 先生はそう言うと、触手を少し遠くに投げ捨てた。


 「・・・・だからどうしたんだ?」


 先生は俺の持った割れてるダンジョンコアを指差しながら語る。


 「頭が大分スッキリしてきたなぁ・・・・ 魔法毒は解毒されると後を引かないものばかりで助かる。 頭が回るようになったので、おれの考えを言わせて貰うと・・・その〔ダンジョンコア〕が外のココにあるお陰で、割れてこそいるがそこから漏れ出る魔力で極所的、一時的にダンジョン内の環境が擬似的な再現が出来ている。 だからクロイさんの足の金化は本来外に出たら崩れる斑状なのに平気なんだろうよぉ。 でも、逆にいえばさぁ・・・・」


 先生は親指でさっき触手を投げた方向をさす。


 そこにあるのは投げ捨てられた後、完全に色を失い崩れた金だった何かと、金化してなかった触手の部分の残骸だけだ。


 「ここから金化が治り切る前に離れると、ダンジョンの環境が再現されている範囲から外れてクロイさんの足が崩れるってことだ。 ここで待機した方がいいなぁ」


 「肝に銘じた」


 先生、直接的な説明はしてないのにテクルの金化を治した方法や俺が持っているのがダンジョンコアだというのに気付いたな。

 それにあと口振からして知識もかなりあるな、金化毒の影響で意識が半ば朦朧とした状態じゃなかったら、この人に作戦立てて貰えばもっと上手くやれたかも。

そんな風に、先生頭いいなーーーと思ってたら。


 先生の話はまだ終わっていなかった。


 「だがよぉ、クロイさんやテクルさんの触手と違っておれの金化は時間をかけてるから外でも崩れない等粒状金魔石になってるだろぉ? 段々と、どんどんい治っていってるがまだまだかなりの部分の金化が残ってる。 あと数分で治り切るだろうけどぉ・・・・・ そこでだぁ」


 先生は、とんでも無い事を言い出した。


 「なぁ、誰かおれの金化してる部分を割って、体から切り離してくれねぇか?」











 「・・・・・へ?」


 「もうダンジョンに戻り等粒状金魔石の回収は物理的に不可能だ。 子供の時間もヤバいんだよ。 それなら、もう、ここにある、おれの体の金魔石をとりゃあいいだろ?」


 先生は、金化した自身の体を指さす。


 確かに理屈はそうだ、先生が受けた金化毒はダンジョンコアから離れても平気な等粒状・・・・それを切り離せば、金化は固定されもう元の肉体に戻らない金塊になる。

 今すぐ等粒状金魔石を手に入れるにはそれが一番手っ取り早い。


 理屈は、だが。


 「で、でも、先生の体の一部が無くなるぞ! 私みたいに再生出来るわけじゃないだろ!?」


 「大丈夫だ。 回復屋に頼めば体の欠損は治るだろ。 それに体の一部無くなってもすぐ死ぬわけじゃあ無い・・・・」


 「回復屋には、モノによりますが・・・・欠損修復レベルではかなりの金額がかかります・・・!! だ、だからその、えっと」


 「かねはあの子を助けた後に頑張って貯めるさ・・・・」


 「そ、そうだ! このダンジョンコアなら売れないか? わざわざ体じゃなくても」


 「ダメだ、かねじゃダメなんだ。 きんじゃないとな・・・そういう約束なんだよ」


 先生は、俺たちの説得を聞き入れる様子はない。

 ここまで孤児院の子供の事を大切にする人が、体の一部を失わなきゃいけないなんて・・・・


 「大丈夫だからよ・・・・完全に、金化が治る前にやらねぇと。 未だに金化が治ってないのは足だな。 テクルさんよぉ・・・アンタの触手パワーが凄いんだろ? 一思いにやってくれねぇか? これはおれの選択だから、気に病む必要はないからよぉ・・・・・」


 怪力を持つテクルに頼む先生・・・・テクルは非常に動揺している。


 「・・・・わ、私には出来ない・・・先生みたいな、いい人の体を破壊するなんて・・・・・」


 「頼む、分かってくれ・・・・そもそもこの命はクロイさん、テクルさん、シクスさん、ラスイさん・・・・皆さんに救われたんだよ。 だから、よぉ・・・・子供達のためだと思ってよぉ・・・・救われたこの体を有効活用すると思って・・・・お願いだ・・・・ これが、最良なんだぁ」


 先生はそう、テクルに縋るように頼み込む。

 その懇願を聞いたテクルは震えながらも、触手を振り上げて・・・・・


 「それは、確かに、最良っすねぇ!!!」


 そんな時、大分金化が治り体調がマシになっていたシクスが急に声を張り上げた。

 俺達が思わずシクスの方を向くと、シクスは〈クラック・ブランク〉を腕に開いており、その収納口に手を突っ込んで何かを取り出そうとしていた。


 「等粒状金魔石が体になってるから、そこをぶっ壊して金化を固定することで入手する・・・・確かに最良の手段っす。 けど、たった一つだけ最良じゃないところがあるっすよ」


 「・・・・・な、なにがだぁ?」


 「先生みたいな善人が、体を削るなんて耐えられないっす・・・・ これからも孤児院で子供達と共にいるなら、足はあった方がいいっすよ。 ・・・・だから最良なのは、足を取るのは先生じゃなくて」


 言いながらシクスはクラック・ブランクから物を取り出した。


 「あ、おい待て!!!」


 取り出したのは・・・・いかにも硬い物を破壊する為に作られた、巨大ハンマー。


 シクスはそれを、まだ金化が治っていない自分の右足に向けて・・・


 「・・・・・足を取るのは、先生じゃなくて。 ・・・・・同じく等粒状金魔石になってる、僕の方がいいっすよ」


 ・・・・・・ハンマーが、振り下ろされた。


 シクスの右足は・・・・元々足だっただけの、只の金塊になった。

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