第80話 空間は意識を朦朧させる

 ・・・・・意識が、朦朧としている。

 

 ・・・・・確か、何してたんだっけ?


 ・・・・・・さっき、ゲートが狭くなってて、そこで止まって・・・・?


 ・・・・・・そこからの記憶がない。


 ・・・・・・・・・・ここはどこだ?


 ・・・・・・・・・・・・真っ白で、何も見えない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、死んだのか?


 ここは天国、あるいは地獄・・・?


 ・・・・ん? 光が見える・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「皆さぁん!! 良かったですぅぅ!!」


 ラスイの大きな半泣き声で、曖昧になっていた俺の意識はハッキリと覚醒した。

 周囲を見渡せば、先程の白い空間ではなくなっていた。

 ラスイ、先生、シクス、テクル、そして俺・・・・全員がゲートを通り、外への脱出に成功していた。


 いつの間に?


 ゲートを通った瞬間の記憶がなく、さっきまで意識が朦朧としてたのはなぜか。

 そもそもあの小さいゲートで全員脱出できたのは何故か・・・・俺は周囲を見渡して情報を集める。

 すると、案外すぐにその理由は分かった。


 「〈クラック・ブランク〉ゥ・・・・・ギリ、間に合った、すぅ・・・」


 簡単な事だ、シクスの〈クラック・ブランク〉で俺と先生を収納した事で押し込まれる側の人間が一人になり謎蛇の口スレスレで脱出できたらしい。


 シクスの〈クラック・ブランク〉で収納した物は重さがなくなる・・・・俺がテクルに向かって言い放った重い物を捨てろという言葉を聞いて、シクスも軽くするために〈クラック・ブランク〉を開こうとしていたそうだが、体がかなりダルくなって発動が上手く出来ず遅くなってしまったらしい。

 だが怪我の功名と言うやつで、〈クラック・ブランク〉は丁度狭くなったゲートを目前に絶望してたタイミングに発動し、俺と先生の収納に成功、とのことだ。


 さっきの意識朦朧空間はシクスのクラック・ブランクの中だったのか。

 入ってた時はボーッとした状態になってたから平気だったが、出た後だと『何もなくて、何も感じなくて怖い』という感想を抱く二度と入りたくない空間だったが、素直に助かった。

 ちゃんとお礼は言葉にせねばな。


 「シクス、ありがとう・・・・ん?」


 俺は頭を下げて気付いた・・・・今俺自分の足で立ってる。

 よく見れば、膝から広がってた金化範囲が狭くなってる。

 いや、俺だけでなく、先生、シクスも金化が徐々に直っていってる!

 でも脱出しただけで謎蛇は倒せてない、つまり毒の解除は出来ないはずだが・・・・


 「クロイさん、こちらをご覧ください」


 俺の疑問を察したらしきラスイが、記憶はないが先程通ったらしいゲートに向かって指をさす。

 そちらを向くと・・・そこには頭だけ無理矢理捩じ込んだように小さなゲートを通ってこちら側に出て来ている、既にグッタリと下を向いており動かなくなっている謎蛇の頭部が存在していた。

 しかもその頭部は様々な箇所がめっちゃ凹んでいる。


 ・・・・どう言う状況?

 俺がクラック・ブランクの空間内にいた時に何があったんだ?


 俺の疑問にテクルとラスイが回答した。

 聞いてみれば、答えは存外シンプルなものだった。 


 まず〈クラック・ブランク〉によって俺と先生が収納され実質1人になったシクスとテクルがゲートを通りダンジョンからの脱出に成功。


 出た後でラスイが先に行ってしまった事を謝り始めたり、それを宥めたり、シクスがクラック・ブランクを走ってる時には発動できなかった理由を話すなどしたが・・・・なんとその最中に謎蛇が執拗深くゲートを無理矢理通過しようとして来たのだ。

 しかしいくら体のド真ん中を爆弾で失い小さくなっていたとしても、何故かは知らんが一人ずつしか入れないほど縮小したゲートを執念で無理矢理通ったのだ。

 ツチノコのようなボディをしてる蛇の為、太い部分がつっかえて頭だけ出て止まった。


 そして途中でゲートに嵌まっていて頭部のみこちら側に来た謎蛇を見てテクルは考えた。


 今の謎蛇は身動き取れずに無防備、更に頭を差し出してる状態・・・・鱗が硬くても、今なら殺れるのでは?


 そこからは少し休憩してから触手を再生したテクルが謎蛇をぶん殴りまくる、あの化け物魚にトドメをさす時と同じ撲殺パーティになった。


 結果、最初は持ち前の硬い鱗である程度耐えていた謎蛇だったが、流石に太鼓を連打するが如く連続殴打で衝撃が分散しきれず死んだらしい。


 ど、通りで謎蛇の頭の至る所が凹んでるのか・・・・


 ちなみに俺と先生が何故先にクラック・ブランクの空間から出さず全て終わった後に解放されたかというと、純粋に収納に時間がかかったのと同様に排出も時間をかかるのと、シクスが初めてみたテクルの一方的なタコ殴りを見たのとそれを笑顔で見ていたラスイに戦慄して俺達の存在を一瞬忘れていたかららしい。


 うん、初見でテクルのあれ見たら誰だろうと驚くよな・・・・


 そんな変な事を考えると、次の疑問が浮かぶ。


 俺のくらった金化毒は斑状金魔石になる方だ、今は謎蛇の死亡でゆっくりと治っていってるがまだ金化したままの部分の方が多い。

 そして俺は既にダンジョンの外にいる、そして外ということは本来なら斑状金魔石はボロボロになり崩れる筈。

 それなのに俺の体に異変は無く、崩れることもなく金化が徐々に治っていってるだけだ・・・・いや、足が崩れ落ちなくてよかったけども何故かは気になる。


 「・・・・終わったのかぁ・・・・?」


 ん、この声は。


 「あ、先生!」


 「あぁ・・・・クロイさんの先生じゃないがなぁ。 ・・・・肝心な時にずっと気絶しててすまなかったな・・・」


 先生が目覚めた!


 「先生、謎蛇は倒したし・・・・これで等粒状金魔石を探せ・・・・」


 テクルが先生にそう言おうとして・・途中で『ボトリ!』という何か大きめな物が落下した音がして遮られた。


 そちらに目を向ければ、先程からだらんとしていた謎蛇の頭が落ちていた。

 そして。


 ゲートが、更に小さくなっていた。

 もうどれ程無理しても、人っ子一人通れなさそうな程小さくなっていたのだ。

 いや、更に小さくなっていってる・・・・・最終的に完全に縮小しきって消えてしまいそうだ。


 ・・・・謎蛇はゲートの急激な縮小による圧迫で唯一出てた頭部が切り落とされたのか。


 何故ゲートが小さくなったのかも、俺の足の斑状金魔石が外なのに崩れてないのも非常に気になるが、今はもうそれどころではない問題が発生している。


 「・・・・・・」


 先生が、もうダンジョンに入れなくなったゲートを何も言わずにじっと見ている。


 ここまで頑張ったのに・・・・もう子供を助ける為に必要な金魔石が回収出来ないという問題が発生した。

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