第79話 脱出は終わりを予感させる
テクルにゴミの如くポイ捨てされないことを祈っている俺。
なぜなら一番重く、一番落としやすいのが俺だからだ。
俺の脳内Q&Aがこのままだと捨てられる可能性を示唆してしまっている。
だがしかし、この俺クロイとテクルには絆がある。
そう、今まで過去に積み重ねてきた絆が・・・・・
初対面の時は酷かったなぁ、あの頃は俺の事友人を騙してるクズ男にしか見えなかっただろうなぁ。
一緒にクエスト行った時、俺がヘマしたせいでポイズンベア起こして逃げる事になったこともあったなぁ。
土下座して手袋のために10万借りたこともあったなぁ。
丁度今さっき作戦の為とはいえ外で全裸にさせたなぁ。
・・・・何故だ、他にもっといい思い出があるはずなのに悪い所の切り抜きしか出てこない。
俺は捨てられた後にいかにして生き残るかを、本格的に頭の中でシュミレーションし始めた頃にはテクルが既に行動を起こしていた。
ポイッ。
テクルが後ろに捨てた。
捨てたのは半分以上が金になっていたもので、後ろから迫ってる謎蛇の口の中に入っていく。
・・・・・その捨てられたもの。
それは、俺ではない。
もちろん俺とテクルの右腕にサンドイッチの具のように挟まれてるシクスでも先生でもない。
テクルは自分の、先ほど金化毒をくらってたまだ金化がギリギリ到達してない肩と触手の境目・・・・つまり触手の根本をなんと歯で噛みちぎった。
根本から噛み切られた触手が、慣性の赴くまま後方に飛んで行き“捨てられた”。
片手が俺たちで埋まってるとはいえ、歯を使うとは・・・・顎まで力強いのか。
・・・・そしてテクルは、触手を再生させずにそのまま走る。
再生させないのは、体を軽く(物理)してスピードアップするのと、切り離すだけなら大丈夫だが〈再生〉にはもう残り少ない体力を使わなければならないからだろう。
確かに触手は金化がかなり進んでたから切り離さなかったらヤバかったが、それでも自分の体の一部を捨てて身軽になるとは・・・・力だけでなく思い切りも良い。
・・・・ラスイに金の重さの確認したのは純粋に金化触手を捨てる気で聞いてただけか。
・・・・・唐突なありがとうって言葉も普通にアイデアを出したことへの感謝でそれ以上でもそれ以下でも無かったのか。
・・・・・・・・いや、うん。
テクルは俺を捨てないって心の底から信じてたぞ!!
俺の脳内Q&Aがポンコツだったせいで生じた謎の深読みで無意味にかいた冷や汗を拭っていると、謎蛇との距離が多少引き離されてきた。
デバフ警戒プラス急に口に飛んできた触手を思わず食べて減速した謎蛇と、自らの体ごと重い物を捨てたテクルの移動速度だと、テクルがギリギリ勝利してるのだろう。
尚、テクルのスピードが上がってもラスイも足を早めてほんの僅かに遅れながらもしっかりとついてきている、謎蛇に追いつかれることもなさそうだ。
・・・・身軽になったテクルの急な速度上昇にしっかり対応出来るってことは、もしかしてさっきまでは先に行くのは申し訳ないとか思っててでわざと手加減ならぬ足加減をして並走してたって事か?
いやまさか、追いつかれたら命の危機があるのに申し訳ないと思って全力で走らないなんてそんなわけ・・・・
あ、でもラスイの卑屈さならありえるか。
さて、俺がこんなどうでも良いことを考えている理由は簡単。
謎蛇から逃げ切るためのゲートがもうすぐで、逃走成功を確信してるからだ。
後ろ向きの俺がなぜ分かるかというとテクルの呟きが聞こえるから。
「もうゲート、だ・・・・?」
ん? 今の呟きの感じなんかおかしいぞ。
なんでそんな困ったような声で言うんだ。
テクルが停止し、すぐに俺達担がれ3人組を方向をグルリと回転させて持ち直したようだ。
俺たちの視線も前方に向き、ダンジョンゲートを視認できた。
そして、俺は一瞬で何故テクルが困惑してような呟きをしたのか理解した。
そりゃ困る。
スピードから考えて、謎蛇は後10秒も経たずにここの俺達にまで到達するってのに・・・・
〔ゲート〕が来た時より、なぜか目に見える程縮小していて、どう頑張っても一人ずつしか通れそうにないんだから。
「ラスイ、早く行け!!」
「!!」
語気を強めに放ったテクルに、思わずと言った様子で言われるがままにラスイはゲートを通っていた。
今ラスイが通過して外に出られたように、一人ずつならスムーズに行ける。
きっと動けない体でも、後ろにテクルがいてもらえれば押し込んで通れるだろう。
この感じだと・・・・人一人押し込んでからテクルが通れば本当にギリギリ、テクルとその押し込まれた一人は助かるってとこだ。
・・・・・・・・
・・・・問題はその動けないから押し込まれなきゃ出られない人が、俺含めて3人いるってことだがな。
俺は目前にあるゲートを見て、終わりを予感した。
『ダレ誰ダれだれダだダ誰だレれれレれれれレェェェエェェェえ!!!』
半身が千切れた状態でも死なずに、怒り狂ったようにすぐ後ろから迫る謎蛇の叫喚を聴きながら。
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