第78話 Q&Aは冷や汗をかかせる
『ケェえェェぇ、え、テテテテ!!!』
また僅かに時が過ぎ〈鈍化〉が1段階解除され、人の声で不気味な鳴き声を発している謎蛇は更に速くなっている。
俺の見立てでは、徐々に解除される鈍化を込みで今のテクルのペースで走ってたらあと20秒ちょっとで追いつかれる距離だと思われる。
追いつかれたらきっと鋭い牙で噛み殺されて・・・・〈鈍化〉で鈍った舌のままだったら、不味いとも感じずにそのままあの大口で食べられてしまうだろう。
まぁ、謎蛇が例え何を噛んで何を飲み込んだとしてもそれを消化する胃はさっき内側から弾け飛んだのが。
しかし今はそんな追いつかれたらどうなるか、ではなく追いつかれないための策を考えねばいけない。
今はゲートに向かって現在全力で引き返しているが・・・俺の記憶ではそのゲートまでは迷う事ない一本道であり、あと1分もすればゴールであるゲートに辿り着ける筈だ。
あの蛇のサイズではダンジョンの入り口兼出口のダンジョンゲートは通れない。
蛇を倒さなければ目的の等粒状金魔石を探す事は出来そうにないが・・・蛇の異常な生命力は完全に予想外。
反省は後にして今はとりあえずこのダンジョンからの脱出をしなければならないのだ。
幸いな事に金化毒が侵入した位置は膝なので、上半身には金化が到達してないのでまだ全然手は動く。
先生とシクスと違って倦怠感がないのは毒の種類が等粒状金魔石でなく、斑状金魔石になる方の毒だからだろうな。
だが倦怠感がなくともこの毒はその代わり金化が早く既に足は完全に金化している、手も金となり動かなくなるのは時間の問題。
早く考えるのだ・・・あ、一瞬で思いついた!
わざわざ複雑に考えるまでもない、この状況は謎蛇の〈鈍化〉が解除されていくから速くなってるように感じるのだ。
だったら〈鈍化〉のおかわりをくらわせて、再度速度のギアを下げさせればいい。
今、俺達はテクルにお米様抱っこされてて3人重なってる状態。
そして俺は一番上である。
俺達の顔はテクルの進行方向の逆・・・・つまり謎蛇がいる後ろを常に向いている。
俺は視界内にいる謎蛇に手を向け、黒い魔法陣を瞬時に構築する。
「くらえ、謎蛇っっ!」
黒い魔法陣から周囲の金の光を一切反射しないドス黒いシャボン玉・・・・かなりの魔力を使ったとびきり濃度が高い〈鈍化〉のデバフ球が飛んでいく。
『タ、ケ!』
そしてその構築、発射の一部始終を視力が悪いとはいえかなり近い所まで追いついていた謎蛇は認識しており、軽い声ひとつと共に体をよじり回避した。
デバフ球は全く関係ない床に着弾して割れた。
「外したぁぁぁぁぁっ!!」
「目の前で自分が大ダメージくらった一番の要因は警戒すると思うっすよ・・・・」
お米様抱っこ二段目で先生とクロイにサンドイッチされてるシクスがボソッと言った通りだ。
謎蛇の土手っ腹に穴を直接開けたのは爆弾だが、その爆弾を体内に侵入させたきっかけはクロイのデバフ球。
それにより謎蛇は本能であのデバフ球をくらったら生命が危ういと感じ取ったのか、回避しないなんて事はしてくれなかった。
だが幸いな事にデバフ球を再び認識した事により警戒が一層高まったためか、蛇が少し減速している。
しかし、それでも俺達より速い事に変わり無い!
「やばいぃぃぃ! このままだと結局ゲートに着く前に追いつかれるぅぅ!! ・・・・・そうだ! 何か重い物とかあったらそれを捨てれば・・・」
「うる、っさい! こちとら全、力、で、走って、る! 耳、元、叫、ぶ、うる、さい、邪、魔!!」
テクルももう余裕がなく、言葉が途切れ途切れになっていた。
テクルの言う通りに口を慎む。
だが喋らなくはなったが、もちろん思考は回し続けている。
・・・・俺が言いかけた重い物を捨てるという行動は理にかなっていると思う。
同じ身体能力の二人に片方は鳥の羽、もう片方に100tの重りを背中につけて走らせたら軽い鳥の羽を持った方の圧勝になる。
100t重りの人は多分潰れて死ぬが、何が言いたいかというとつまり荷物が軽いほど早く走れるのは当然って事だ。
しかし俺の荷物にそんな重いものはない、インビジブル・ハットや付隠の手袋は、捨ててスピードが上がるほどの負担にはなっていないだろう。
テクル本人は何か無いか?
これは大事な事、口頭でしっかり伝える。
「テクル! 何か重い物を持ってたら捨てるんだ!」
「重い、物? ・・・・・・」
テクルが足の動きはそのままに、考え込み始めた。
直後、ラスイの方に顔を向け口を開いた。
「なぁ、ラスイ、金、って、重い、よ、な?」
「う、ん。 金って、重めの、金属、だよ」
並走してるラスイにいきなり質問するテクル。
なぜそんな事を聞く?
そんな事、実際に持ったテクルなら分かるはず・・・・
・・・・・・
Q、さっきの俺がテクルに言った言葉は?
A、『重い物を持ってたら捨てるんだ!!』
Q、テクルが持ってる中で一番重そうなのは。
A、金化が早く進行して金になった体積が先生と並んできているクロイ
Q、この全力で走っている状態で一番捨てやすそうなのは?
A、お米様抱っこで一番上にいるクロイは腕の角度次第で簡単に落とせそうです
突如俺の脳内に浮かび上がった半ば無意識的な脳内Q&Aがヤバい結果を導き出した。
・・・・・・・いや待てクロイ、テクルを信じろ。
俺達は互いに信頼するパーティなんだ。
テクルがそんなことするわけない。
「クロイ、ありがとな」
そう思ってた俺にテクルの感謝の言葉が飛んで来た。
Q、この状況でのテクルのお礼の意味は?
A、(今まで)ありがとな、という意味と推察 つまるところお別れの言葉
・・・・・・
あれ、マジでこれ俺捨てられる?
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