第76話 起爆は合図を待つ

 動きも味覚もたっぷり鈍らせた。

 謎蛇はかなり空腹であるとも推測した。

 そしてついに口の中に放り込めた。


 謎蛇は口の中に入っているキャンディスライムを・・・・


 ・・・・・ゴクン。


 当然謎蛇の口は閉じてるので、外からは見えないが・・・・喉の動きから、ちゃんと飲みこんだのは分かった。

 膝の金化が進んで転倒した俺が上を見上げると謎蛇はもう食べ終わったようで、再び口を開き毒の追撃をしようとしていた。


 金化が早い、体がだるくないという事はテクルが最初触手にくらった斑状の方の金化毒を俺は貰ったのか。

 ・・・・マズイ、これ以上毒を注入されたら完全に金化する!!


 「シィクゥ、スゥゥゥゥゥゥウウウ!!!」


 俺は膝の金化で上手く動けない体に鞭打ち、後方でチャンスを伺っていた彼の名を叫んだ。

 実にシンプルにタイミングを伝える為の合図だ。


 謎蛇がゆっくりとした開口を終えて、ギロリと俺を睨み、口から金化毒が。


 ーーーーバアアァァァァァァンンン!!!


 放たれる直前に・・・・ちゃんと合図が届いたようだ。

 謎蛇の腹から、こもった轟音がしたと同時に、勢いよく内側から食い破るように爆炎が飛び出てきて、破裂した。


 『・・・・・・ガ・・・ッ!?』


 謎蛇は一瞬だけ苦悶の声を上げたかと思うと、上げていた顔が力無く地に落ちる。

 安心して首を後ろに向ければ、起爆スイッチを押したシクスが小さくガッツポーズしている姿が見えた。


 再び前に向き直ると、謎蛇は丁度体の真ん中辺りで破裂している。

 体が中央で裂け、二分割されているのだ。

 断面からは、爆発で生じた煙がモクモクと上がっていた。

 内側からと言え巨大な謎蛇を真っ二つにする威力を持つ爆弾・・・・シクスは普段からこれを持っていたのか・・・・本当に何で持ってたの?


 「「や、やったぁぁぁぁ!!」」


 そんな俺の疑念は露知らず、テクルが勝利の雄叫びを上げた。

 ・・・・まぁ、確かに勝てたんだし、面倒くさい考えは後回しにして今は勝利の余韻に浸ろう。


 テクルの声で若干かき消されてるが、後ろからはラスイも喜びの声を漏らしているのが聞こえた。


 「これで金化は解除されるんだろ? クロイも結局金化毒が直撃しちゃった時は焦ったけど、これで治るなら良かった! ・・・・ちなみにあのスライムが急に分裂したのはどう言う事だ?」


 「そうだな。 すぐにじゃなくてゆっくりだけど・・・・金化は解けるはずだ。 後スライムの件はマジでごめん、忘れてた。 けど勝てたからいいよな?」


 「・・・・・・」


 おぉなんだテクル、その怒り通り越して呆れてるみたいな顔は。

 ・・・・・本当にすいませんでした。


 「・・・・まぁそれについては深く追求しないでやるよ。 クロイの作戦のおかげで勝てたのは事実だしな。 ・・・・・ちなみに、私もキャンディスライムに金化毒が当たるように掲げた時、少しだけどまた触手に入っちゃったんだよな。 でも治るならまた引っこ抜かなくてもいいよな!」


 結果的に見れば、ラスイ以外全員一度は金化毒を貰ってたようだ。

 さらっと言ったが、テクルはこれで2回目の毒をくらってるのに一番余裕があるな。

 ・・・・再生能力ずるくね?


 「・・・・? ノイズが小さくなってきた・・・・」


 俺がテクルの生まれつきの能力を羨んでいると、ラスイが何かを呟いた。

 妙に気になりそちらに目をやると、何やら考え込んでいた。

 でも無理に聞くことでも無いし、今は聞かなくていや。

 ラスイは謙虚と卑屈のハイブリッドだが、重要な情報はちゃんと共有してくれるタイプだからな。


 「テクル、俺を運んでくれ。 金化がまだ治ってないから歩きづらいことこの上ない」


 「仕方ないな。 ほい」


 触手の方は金化が少し進行してる状態だったからか、右手の方に俺を乗せてラスイの元に向かう

 ・・・・片手だけで男一人を持ち上げれるのは力が強いってレベルではない気がする。

 普通の手の方でもテクルに力では絶対に勝てない事を悟り、少し悲しみつつラスイの元に向かうとまだ何か考え込んでるようだ。

 流石に考え込む時間がヤケに長いし、眉を顰めている。

 さっき自分で聞かなくていいやとか言ったが、やっぱり好奇心が勝ったので聞くことにした。


 「ラスイどうした? 先生とシクスの所に行かないのか?」


 「あ、す、すいません。 分かりました!」


 「いや待て、ラスイよ。 何を考えてただけ聞かせてくれ、気になるから」


 「え? あ! それはですね」


 俺が問うと、ラスイは自分の触角を指をさした。


 「あの蛇が爆弾で見るも無惨な姿になった後に・・・・ダンジョンに入った時から私の〈触角探索〉を妨害してた謎のノイズが大分収まってきたんです。 やっぱりあの謎蛇の生命活動が私の触覚に何らかの影響を与えてたのかなぁ・・・・とか考えてたんですけど・・・・まだ少しおかしくて」


 「おかしい?」


 「まだノイズが消えきってないのもそうですけど・・・・一応感じ取れる私を除いた生命の反応が・・・・えっと1、2、3、4・・・・・5?」


 ラスイが数を数えるたびに視線をさまざまな方向に向ける。


 1と数えた時はテクルの方に目をやる。

 2と数えた時は俺の方を向く。

 3と数えた時は少し離れた『何で早く戻ってこないんすか?』と言いたそうな顔をしてるシクスに視線がいってる。

 4と数えた時には視線方向がは大して変わっていないが、シクスの近くにいる金塊の後ろに向いている。ここからでは見えないが気絶中の先生だろう。


 そして5と数えた時の目の向きは・・・・


 「・・・・あ!! み、みなさん、逃げましょう!!」


 5を数えた時に・・・・地面に落ちて動かない“蛇の頭”を見ていたラスイがそう叫ぶ。


 「あ、あの蛇、まだ生きてます! 報告が遅くてごめんなさい! 生命反応が小さくなってたから最初分からなくて違和感しか感じれ」


 『だ、だ、ダ、誰、ダ、ダレガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』


 ラスイが慌ててしていた説明を遮ったのは、謎蛇の方から聞こえる雄叫び。


 謎蛇は目をカッと見開き、そしてーーーーーー


 『だ、ダレ、だ、だレ、ガ、ガ、が』


 うめきながら、ちぎれた前半分の体で這いずってこちらに向かってきた。

 下半分がちぎれたことによって、ダンジョンに固定されてた尻尾から上半分が切り離されたのか!

 それはそうと、あの状態で生きてるっておかしいだろ!


 「何で生きてんの!? 逃げよう!」


 俺と同じく不気味さを感じたテクルがラスイと共に逃げる。

 俺は抱えられた状態のままだが・・・・本とかの物語では逃げる時に男性が女性を抱えて逃げるのがお約束だ。


 それの逆バージョンを身をもって感じている・・・しかも片手なんだよなぁ。

 そんなしょうもないことを少し考えてる俺はこの状況で我ながら危機感が足りないと思った。

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