第75話 状況はあの時を思い出す
・・・・落下する、爆弾入りキャンディスライム。
スライム特有の分裂する生態を最初から一切知らないテクルとラスイは、予想外の出来事で思わず固まってしまっている。
特にテクルは自分の触手でちゃんと投げた筈なのに、いきなり分離されてあらぬ方向に落ち始めたのに驚き隠せていない。
つまり、キャッチ出来るのは・・・・先程まで分裂生態を忘れてこそいたものの、瞬時に思い出して既に落下地点に駆け出してる俺だけだ。
作戦立てる時点で、こうなる事にド忘れで気づけなかった自分はかなりの戦犯・・・・自分のミスは自分で拭う!!
俺は、前のめりにスライディングする事でギリギリ床にぶつかる直前の爆弾入りキャンディスライムをガシッと受け止めた。
そして急いで立ち上がり、謎蛇の口に向かってぶん投げ・・・・
・・・・・!?
急に体がふらつき、キャンディスライムを思わず落としそうになる。
俺が即座に足元に目をやると。ズボンの右足の膝部分に・・・・まるで高速で飛んできた小さな何かに貫かれたような、針の先端程の大きさをした穴が空いていた。
そして、穴が小さすぎて覗けないが・・・・感覚で分かる。
金化毒を膝にくらって、俺の金化が開始しているという事を。
キャンディスライムをキャッチしに“前”に行ったのだ。
もう、とっくに金化毒の射程内に入ってしまったのだ。
膝がやられてしまった・・・・これでは口に投げ入れる為の狙いが定まらない。
マズイ、毒放ち攻撃がまた来る!!
「クロイ、あとは任せろ!」
そう焦っていたが・・・・杞憂に終わった。
テクルがフラフラしてる俺の手からキャンディスライムを掻っ攫い、流れるように毒を放ち終わったばかりの閉じ切ってない口に放り込んだ。
・・・・さぁ、最後の関門だ。
作戦通りに行けばいいが・・・・
俺はさっき皆に説明した計画を今一度思い出すーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「け、結局謎蛇の口に投げ込む・・・・のか?」
検証を終え、ダンジョン外から戻ってきた俺の説明を聞いたテクルは、さっき沢山挙がっていた問題はどうするんだ、という訝しむ顔をこちらに向ける。
「あぁ。 爆弾が勝手に起爆しないように衝撃を和らげるかつ金化させれる生き物であり、更に自ら口ん中入ってくれるキャンディスライムで包み込む。 それを口ん中に入れるんだ」
「でも、クロイさん完全には金化させない状態で投げ込むって・・・・蛇はやっぱり吐き出してしまうんじゃ・・・・」
「大丈夫だ・・・・だってあの謎蛇は不味いから金以外を吐き出す。 でも、俺達の手によって“味が分からなくなるからな”。 食べさせれると思う」
「・・・・・味が分からなくなる、すか?」
「そんな事出来るのかぁ・・・? 金以外絶対に不味さを感じて吐くんだろぉ? そういう体の作りなんだろぉ?」
やはり結局吐き出し問題が解決できてないように思える作戦に、皆が疑問を投げかける。
「なぁ、それならさ・・・・何故、先生連れて逃げる時に、謎蛇は金化しきってない触手を食べれたと思う?」
「・・・・・確かに、なんでだろ」
「俺、さっき気づいたんだよ。 皆のおかげでな。 特にラスイのおかげで」
ビシッとラスイに指をさすと、ラスイが驚き自分に指を向けて確認してくる。
「わ、私ですか? 私なんかが特にこれといった意見は・・・・」
「出会った頃から変わらないラスイを見て・・・・ふと思い出したんだよ。 過去にもかなり違うが・・・・でもこれと似た状況があった事に」
「・・・・思い出した?」
「その魔物の生態からして絶対に有り得ない状態なのに、なぜか実際にはそうなっている状態・・・・今の場合だと、なぜか完全な金でないのに触手を吐き出さずに食した謎蛇。 そして俺が言う過去の場合は・・・・」
ラスイがハッとしたかのような顔になり、自分自身に向けていた指を俺の方に向け、未だラスイを指さしていた俺と指が向かい合った。
「「ベビィスライム!」・・・・・のことですか?」
「「「ベビィスライム?」」」
俺とラスイ、遅れて残り3人の声がそれぞれハモった。
今回の謎蛇と似た、あり得ない筈なのに発生している状態・・・・ラスイとの出会いで起きた、ベビィスライム凍結。
本来どんなに弱かろうがあらゆる攻撃、果ては多少強めの付与でもかすった瞬間に感知して勝手に自壊する生態を持つベビィスライム。
しかし俺とラスイが出会った直後、ラスイとのパーティ結成のきっかけの大きな一因となったラスイの魔法で凍ったベビィスライム。
あれ以降も何度か再びベビィスライムを凍らせるチャレンジをしているが・・・・全て失敗。
ついさっきまでは理由が分からずこの件は頭の隅に追いやっていた、しかし今回の謎蛇の件とも合わせる事でようやく分かった。
「金以外を食べた謎蛇と、自壊せず凍りついたベビィスライム。 その共通点は・・・・」
・・・テクルが言ってた、『デバフで何とか出来ないのかな』という意見はこうして今考えてみると的確だったな。
俺も知らなかった、さっきまで気付かなかったとあるデバフの隠されたもう1つの効果。
「どっちも俺の〈鈍化〉デバフがかかった状態である、ってことだ」
俺はいつも通り、ほぼ自力で勘づいたラスイ以外の皆に解説し始める。
ベビィスライムは、ラスイがベビィスライムを凍らせた〈微冷〉を使う前に俺がデバフを披露するために〈鈍化〉を事前にかけていた。
謎蛇にも、撤退時に有利になる為にも先にに付与してあった。
そして先程、外でした一刻も早くもしかしてを確信に変えたくて皆を置いて行き外でした“検証”。
その検証は・・・・わざと自分に切り傷をつけて、とびきり甘いキャンディスライム凝縮のど飴を数回舐めて、最後に肉汁たっぷりジューシーな唐揚げを食べること。
その検証の過程のせいで帰ってくる時の動きが、やけに遅くなってしまったが。
〈鈍化〉の・・・今まで気付かなかった“動きを鈍らせる以外の効果”。
その効果は検証で身をもって実感した。
まず検証は自分に〈鈍化〉をかけることから始めーーーー
〈鈍化〉がかかってる状態で、そこらへんの鋭い植物で自身に切り傷をつけても痛みを感じなかった。
めちゃ甘いのど飴を舐めてもその甘みを感じず、唐揚げも味わい深いthe・肉という大味を感じなかった。
・・・・だからベビィスライムは、ラスイの繊細な魔法使いも合間って攻撃を感知出来ずに、なすがままに凍らせられた。
だかた謎蛇は不味さを感じず半金化の触手を食べれたんだと、俺はその検証が終わって納得したのだ。
「〈鈍化〉のデバフのもう一つの効果、それは・・・・動きだけでもなく、同時に“感覚も鈍らせる”、だ」
「・・・・1つ聞いていいっすか?」
俺がキメ顔でその新事実を言うと、シクスが神妙な顔持ちで質問してきた。
「・・・・凍ったベビィスライムって何の話すか?」
・・・・そう言えばシクスには話したこと無かったわ。
「私もいいか?」
「何だ? テクルよ」
「デバフしか使えないからずっとデバフだけ極めてたと自分で言ってたのに・・・・まだ知らない効果があったのか?」
「・・・・・・」
待て、言い訳させて欲しい。
確かに幼い頃からデバフの研究とかは何度もしてきた。
それなのに今の今まで俺は鈍化の効果が“動きを遅くする”オンリーだと思っていた。
だって〈鈍化〉の、感覚も鈍くする効果はもの凄く気づき難いのだ!
デバフは基本的に魔物にかけるのだから、その魔物が感覚鈍くなってるかなんて見るだけで分かりようが無い。
それよりも誰からも見て取れる鈍くなった動きの方に注目してしまう。
人は装備次第で簡単にデバフを防げる上に、魔法で的確に相殺も出来る
故に対人にデバフを余り使わない、これも隠された効果に気付けなかった要因だ。
・・・・それに何より『世界に存在する魔法達 〜これであなたも魔法博士〜 {世界中の魔法研究に全ての人生を費やしている男、マジクヤバー監修}』という魔法を知りたい時に使う辞書に書かれてる〈鈍化〉の効果が『相手の動きを鈍くする』としか書かれてないのだ、勘違いしても仕方無いだろ!
・・・・待てよ?
つまりデバフって世間が正確な効果も把握して無い程研究が進んで無いの?
もしかしてデバフにそこまでちゃんと研究する価値がないと思われてるのか?
「ちくしょーー!! やっぱり世界的にもデバフは積極的に使う価値がほぼ無い魔法かよ!!」
「ど、どうした!?」
・・・・かっこよく魔法の辞書でさえ判明してない新事実を宣言したはずなのに、なんだかもの凄く締まらない終わり方になった。
ーーーーーーーーーーーーー
〈鈍化〉で謎蛇の味覚を殺し、キャンディスライムで感じる不味みを分からなくさせる。
5段階デバフにしたのは、キャンディスライムの味が濃いので、完全に味覚にキャッチされぬようにたっぷりと鈍らせたかったから。
さて、謎蛇よ。
今口の中にあるそいつを飲み込んでくれぇ!!
もしくはキャンディスライム自身が動いて飲み込まれてくれぇ!!
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