第74話 生態は想定を狂わす

 金になりつつあるキャンディスライムを逃げれぬようにしっかりと触手で雁字搦めにしながら、謎蛇の前を煽るように走り回るテクル。

 〈微冷〉と〈微気〉の繊細な合わせ技で謎蛇を寒がらせ、動きを鈍らせているラスイ。

 安全圏の金塊の後ろからスイッチを押すタイミングを見計らっているシクス。


 そして・・・・・


 「〈鈍化〉ぁ・・・・当たったぁ!! しゃあっ!!」


 デバフ球を今ようやく5発命中させたこの俺、クロイ。


 5段階の鈍化、そしてラスイによる冷風もあり、謎蛇の動きがロボットのようにぎこちないものになっている。

 それでも、毒を吐く動きだけは余り遅くなっていない。

 やはり元より大して時間がかからない細かい動きの阻害は鈍化では難しい・・・だがしかし、当然それも作戦内だ。


 毒放ちは相変わらず早いが・・・・毒を放つ時の開口、そして放ち終わった後の魔法のリロードの為と思われる閉口、これらの動作は目に見える程遅くなっている。


 そして謎蛇は、次の毒放ち攻撃の為に既にゆっくりながらも口を開け始めている。


 ・・・・・チャンス!!


 「テクル! 今だ、ぶん投げろ!!」


 「分かった!」


 テクルは俺の合図を聞き、触手の中にいるキャンディスライムをその圧倒的力で飛び過ぎないように加減し、蛇の開口し始めていた口の中に向かってぶん投げる。


 これが、俺の作戦。

 ラスイと俺が蛇の動きを鈍らせ、蛇が開口している間の時間を引き伸ばす。

 そこにテクルがわざと金化毒を命中させ一部金化させたキャンディスライムを、その長くなった開口時間中に投げ込み食べさせる。

 そして最後にそれを見届けたシクスがスイッチオン! 

 蛇の体内でドッカーン! 

 俺達、WIN!


 これが【金着キンキ果実カジツ】作戦の全容だ!!


 ・・・・これだけ聞くと謎蛇が爆弾入りスライムを不味いと感じて、飲み込む前に吐き出してしまうから結局食わせられない、という先程直面した問題が解決できておらず失敗するように思えるが・・・・

 既に、その問題解決の布石は打ってある。


 あとは蛇が食うだけ!


 ・・・・と思っていたのだけど。


 『キュウゥゥウゥウウ!!』


 「え?」


 テクルは投げた直後、呆気に取られ思わず間の抜けた声を漏らした。

 その理由は・・・・


 投げられた勢いのまま謎蛇の口に入ると思われていたキャンディスライムが、テクルの触手から離れた瞬間に空中で分離したからだ!


 それはもう、綺麗に勢いよく分離した。

 爆弾が内包されている普通なままの体部分から、そうでない金化した部分を切り離したのだ。


 このタイミングで俺は、大体全てのスライムに関する知識を思い出した。

 スライムは足りなくなった体を補う為に同種のスライムを取り込んで補完しようとする習性があるが・・・・

 補完とは逆に、スライムっていらなくなった部位を捨てる為に勢いよく分離する生態も持ってるんだった! 

 今までテクルにガッチリホールドされてて毒に蝕まれた部分を捨てたくても出来なかっただけで、解放された瞬間実行出来るようになってしまったのか!

 なんで俺は作戦思考時にこうなる可能性に気づいてなかったんだよ!!


 この勢いある分離によりテクルによる投げた勢いは殺され、全く関係ない方向に飛んでってしまう。

 こんな事になるなら中途半端に金化している状態でなく完全に金化するのを待てばよかったが・・・・


 わざと金化が全身に行き渡ってない状態で投げたのにも理由があって。

 少し動ける状態にする事で蛇が飲み込まなくても、自ら人の口に入り込むという習性を利用してキャンディスライム自身から飲み込まれに行ってもらう為だったり。

 先生の為にも、一刻も早く倒したいので全身金化を待つ時間が勿体無かったり。

 テクルが謎蛇のヘイトを一身に受けながら躱し続ける時間からテクルが毒をくらう可能性を考え、リスク軽減の為短くしたかったり。

 完全に金化した状態のキャンディスライムに爆弾が覆われてしまうと爆発の威力が高密度の金に防がれ倒しきれないかもしれないから、一部は威力が外に通りやすい脆いままでいてもらいたかったのと。

 そもそもこの作戦上、多少金化すれば完全金化は必要無かったり・・・・色々理由があったが。


 そもそも口ん中入らなきゃ意味がないんだよ!!

 自身を責めつつも、それと同時に思考を謎蛇付近にやると分離した体が無事な方のキャンディスライムが落下していた。


 ・・・・分離の勢いがついた状態でだ。


 俺は高速で思考するのが得意・・・・キャンディスライムが分離してから俺が今この状態を認識するのに要した思考時間は1秒にも満たない。


 そしてその自慢の高速思考で至った結論。

 このままでは、マズイ。


 金化してない方のキャンディスライム・・・・そっちには包まれた爆弾が透けて見える。

 そしてその爆弾入りキャンディスライムが勢いよく、床に向かっている。

 そしてこの爆弾は衝撃で爆発する。


 いくら包まれていて衝撃が和らげるからと言っても、起爆条件の正確な衝撃の強さが分からない状態でこれは・・・・うん、やっぱりマズイ!


 俺は咄嗟に駆け出して、落ちる直前の爆弾入りキャンディスライムを・・・・・

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