第58話 工夫は服を脱がせる

 「さて、テクルよ。 さっそく服を脱ぐんだ」


 「とち狂ったのか?」


 俺はテクルとラスイに頼まれ、蛇の奥にいる先生を助ける作戦を3分程考えた。

 蛇はツチノコ型の短い体とはいえ、テクル曰く元々のサイズが巨大らしく横切れそうにないらしい。

 つまり工夫しなければ奥の先生が回収出来ない。

 だから俺はその工夫、もとい作戦を考えたのでテクルに言ったのだ。


 「服を脱ぐんだ」


 「2回も言うな、半殺すぞ」


 「ここで脱がせようとするとか、頭おかしいんじゃないんすか?」


 「ク、クロイさん。 手伝ってくれる報酬は金では無く体で支払えという事ですか? それならテクルちゃんの代わりに私では・・・」


 立腹、軽蔑、動揺・・・・・三人からそんな感情が見て取れた。

 三人は俺の発言が俺の下心から来ていると解釈しているようだ・・・・・・


 「・・・・いや違うぞ、お前達は誤解している。 ゴミを見る目はやめてくれ! 服を脱がせようとしてるには、コレの為だよ!」


 俺は必死に弁明しながらおもむろに持ってきた物の内、1つを取り出す。

 先程過去の戦いを思い返した時の、対ゴーストで使っていたどぎついピンク色の帽子・・・・〔インビジブル・ハット〕だ。


 「お前の遠くまで伸びる触手なら、蛇に当たらないように軌道を曲げて遠くから先生を掴めば回収出来るだろ。 でもその触手を蛇に認識されれば何をされるか分からない。 だがインビジブル・ハットを被ればその触手は見えなくなる!」


 クズルゴを攻略する際に使用した、インビジブル・ハットを被ることによる不可視の触手。

 それを使えば蛇にバレる前に奥の先生を救えると思う。


 だがインビジブル・ハットの弱点、それは透明化しても帽子そのものと衣服は絶対に見えっぱなしのままだという事。

 ・・・・蛇の目は色が認識できず視力も悪い、故に遠くから触手を伸ばして回収すればテクルの姿はハッキリと見えないだろう。

 だが、念の為にも少しでも見える部分は無くしておきたいのだ。


 ちなみにこの作戦、謎蛇が周囲の赤外線を感じれるピット器官を備えてたら詰む。

 だがここに生息している筈のスフィンクスネークは、金を食うだけの蛇なので生きる上でピット器官を必要とせずそもそも生まれつき持っていない。

 なのでここにいるテクルが見たスフィンクスネークもどきもピット器官を持っていないと信じて、この作戦だ。

 もしピット器官があってテクルの存在を察知されたら撤収して作戦を立て直そう。


 「・・・・・と、いうわけでテクルの触手を不可視にしたいし、全体もなるべく見えないようにしたい。 だから服を脱いで欲しい。 他意は無い」


 「最初からそういう具体的な言い方をしろ。 割と本気でぶん殴ろうと思ったぞ」


 テクルに殴れれたら俺は消し飛んでしまいそうだ、勘弁して頂きたい。


 「クロイ、言葉足らずすぎっす」


 「知ってる。 よく母にも言われてた」


 「・・・・・いや待って、説明はされたしある程度納得はした。 ・・・・・けど。 ふ、服脱ぐの? 今? ここで?」


 「あぁ、盛大に脱いでくれ。 蛇に見つかる可能性は少しでも下げたいだろ?」


 「いやそうだけど! 作戦の為とは言え・・・・・ここで脱ぐの!? 今この場で私全裸になんの!?」


 「大丈夫だ」


 「何が大丈夫だ! 私魔人だけど、一応ちゃんとした羞恥心は持ち合わせてる女だからな!?」


 「それでも脱いで貰わなきゃ困るんだ。 それに作戦を考えろと言い始めたのはテクル、お前じゃないか」


 「そ、そうだけどぉ。 で、でもこんなとこで全裸に・・・・う、うぅぅ」


 俺は真剣な眼差しでテクルの瞳を覗き込む。

 一応は正論ということもあり、テクルは押されている。


 「テクルちゃん。 思ったんだけど・・・・今すぐ脱ぐんじゃなくて、インビジブル・ハットを最初から被って服脱げばいいんじゃないかな。 事前に姿を透明にすれば服を脱いでも素肌は見えない、ある程度の恥ずかしさは軽減・・・・・ま、まぁ脱ぐ事には変わりないけどある程度軽減されるんじゃないかな」


 ここでラスイが助け舟を出した。


 「・・・・姿が透明だとしても、ラスイ以外は脱いでるとこ見るなよ。 おい、帽子を渡せ」


 顔を真っ赤にはしているが、一応納得したテクル。

 俺から受け取ったインビジブル・ハットをラスイのアドバイス通り脱衣前に被り、服と帽子だけを残してテクル自身が透明になった。


 「いや、でも。 ・・・・透明なら見ててもいいだろ」


 「・・・・・同意っす」


 透明で見えないとは言え、生着替えしている所を一緒に見ようとするとは・・・・シクス、お前も男だな。


 「見るな! 透明でも恥ずかしいんだよ! あと下着は普通に見られちゃうだろ!」


 「す、すいません二人とも。 ですけどテクルちゃんの為、少し離れてくださいぃ・・・・」


 ラスイにダンジョンの少し奥に押し出され、覗けなくなった俺たちは後ろから聞こえる布の擦れる音のみが聞こえる中、少しガッカリしたのだった。

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