第57話 賞賛は調子を良くさせる

 「よし、それじゃ不安要素いっぱいあるし帰るか!」


 「え? か、帰っちゃうのか?」


 何故か金鮫は一切出てこず、逆に本来生息していないスライムはおり、スフィンクスネークに似ているが違う何かがいる。

 そして忘れてはいけないが、俺達は既に1度壊滅しかけている・・・ダンジョンに入った数分後にだ。


 そもそもテクルが声を聞いた瞬間に駆け出してしまったから有耶無耶になったが・・・本来ならもう帰るという話をしてたはずだ。


「さ、さっき倒れてる人があのデカい蛇の奥に見えたんだ! その人を置いていって逃げちゃうのか?」


 「うん」


 「いや即答かよ!? もう少し悩めよ! 多分救助対象の先生だぞ!」


 「先生がこのダンジョンに来て5日経ってるらしいし、魔物の奥でぶっ倒れてるのなら、ただ食べらられてないだけで普通にもう死んでるはずだよ。 意味ないよ」


 「薄情だぁ!! でも、たとえ死体だとしても回収して弔わないと・・・・手ぶらで帰って『先生は死んだ』って伝えても、きっと依頼して来た子供達は納得出来ない。 頼む、救助か回収か、どちらにしろ手伝って欲しいんだ!!」


 随分と殊勝なことだ。

 それに比べて、俺はテクルが言う通りの薄情者。

 いつでもどこでも自分第一が俺の信条だからな。


 俺はテクルの頼みをキッパリと断ろうと・・・・


 「クロイさん、私からもお願いします。 子供達があんな必死に頼んで来て・・・・きっとそれ程素晴らしい先生なんだと思います。 手伝って下さるなら、私の全財産を差し上げます」


 いつもオドオドしてるラスイが、ハッキリと本気の真剣な顔で頼んできた。

 しかも全財産つきで。


 「いや全財産そんな簡単に差し出すな。 それを受け取ったら俺は人として何か終わる気がする」


 「す、すいません」


 「というかそもそもの話、俺に頼んでも意味ないだろ。 テクルが上手い具合工夫すればその先生を回収できるだろうし。 俺に手伝いを要請しなくとも、一人でやればいいじゃん」


 テクルが俺に許可を貰おうとし、ラスイも俺に頼んでくる理由が分からない。

 俺がここで一人で帰ってたとしても、他の奴らがいれば救助に支障はなくね?

 俺自身デバフだけ男やぞ。


 「だ、だって・・・・お前が言った、その上手い具合な工夫が分からないんだから仕方ないだろ!」


 え?


 「そうです。 化け物魚、水色ゴーストことルベリーさん、クズルゴさん、先程のクソスライム・・・・今までの強敵と戦った時はいつも、クロイさんが考えてくれたおかげで勝てたんじゃないですか! それにクロイさんのデバフだってしっかりと役に立ってます! 最下級魔法しか使えない私の方が木偶の坊ですよ!」 


 俺はそれを聞き、少し思い返す。

 いきなり現れた化け物魚・・・・確かにトドメはテクルの触手だった。

 しかしそれを決めれたのは俺の誘導作戦と鈍化デバフによるものだったな。


 クズルゴが使役してカゴを奪おうとしていた透明化を伝播させる青いゴースト[ルベリー]は、俺の機転で〔インビジブル・ハット〕を目印にした事で、実質視認出来る状態にしテクルの攻撃をヒットさせれた。

 全ての攻撃を念力でいなし防ぐ赤いゴースト[リーラズ]は、その性質と位置を俺が推測しかつこれまた〔インビジブル・ハット〕を上手く利用して触手を命中させた。

 クズルゴ本人は、俺が事前にかけていた弱体デバフを発動させるためにワザと捕まえないように追いかけ続け、行動できない状態にして脅す事で100万エヌを1年以内に用意させることを約束させた。

 先程のゴールドスライムもいわずもがな。

 こうして思い返すと、大体全部トドメさすのはテクルの触手なんだな。


 ・・・・・あれ、もしかして俺って勝つ為の作戦立てるの上手いんじゃね?


 「クロイ! あの蛇の奥から先生を救出するための作戦を考えて欲しいんだよ!」


 「お、お願いします!」


 ・・・・・・・・


 「お前はこういう時に一番頼りになるんだ!」


 「クロイさん、魔物の知識も豊富ですし、何より頭がいいですから」


 2人の言葉が俺の自尊心を、顕示欲を刺激した。


 「・・・・・し、仕方ないな! いいだろう! 帰るのは先生を回収・・・・いや助けてからにしよう! そのための作戦は俺に任せろ!」


 「流石だクロイ!」


 「ありがとうございます!」


 そんな風に真正面から褒められてニヤけてる俺と俺を褒め称える二人の魔人を見て、ずっと口を閉じて唯話の流れを見ていただけのシクスは誰に聞かせるわけでもなく、ボソッと呟いた。


 「クロイ・・・・・・流石にチョロすぎっす」

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