第52話 危機感は帰還を促す

 「・・・・なぁ、俺達1回帰らないか?」


 シクスに急いで爆弾をしまわせた後、俺は提案をする。

 その提案に異を唱えたのは、隣にいるテクルだ。


 「な、何言ってるんだ! 子供達の先生がこのダンジョンの何処かで死にかけてるかもなんだぞ! 時間が無いだろ!」


 テクルは割と正義感が強く、人の命をかなり大事にする。

 助けれるなら基本的に助けようとするタイプだ。

 逆に、本当に嫌いな奴は結構本気で殺めようとしている気がするが。


 「よく考えろ。 ・・・・俺達、まだダンジョンに入ってから数えれるほどしか進んでないぞ。 それなのにこんなにボロボロになって・・・・もう、この先無理だろ!」


 いや、マジで実際無理だと思う。

 一匹のスライムに翻弄されてパーティ半壊されかけてる時点でお察しだろう。


 「で、でも今回はいきなり来てビックリしてる間にやられただけで、慎重に進めば行けるって!」


 「・・・お前、もしかしてダンジョンの情報調べてないのか?」


 「え?」


 俺は酒場のお姉さんにこのクエストの情報を教えて貰った。

 今回はお姉さんが仲介した依頼、故に気兼ねなくお姉さんから情報を聞ける。


 まず、このダンジョンは基本的にモンスターの種類は多くない、というか全部で2種類で、基本位的に遭遇するのは一種類のみだ。


 その基本的に遭遇する方・・・・その名も[金鮫]という金の鱗を持った事以外サイズも形状も変哲はない鮫。

 しかしこの鮫が泳ぐのは水の中ではなく・・・・金、或いはそれと同じ性質の金魔石だ。

 金鮫は〈金遊泳〉という世にも珍しい魔法を持っており、金・・・・というかこのダンジョン内では同じ性質の金魔石の中を自由に潜伏し泳ぎ回ることが出来る。

 そう、液状に溶かされた金とかではなく、このダンジョンを構成する固体の金塊の中を文字通りすり抜けるように泳ぐ事が可能なのだ。


 もう一匹はここのボスである蛇の魔物だが・・・・常にこのダンジョンの最奥にあるコアを守るためにその場でじっと佇んでいる為、必然的に徒歩1時間ちょっと進み続ければ辿り着けない最奥まで行かなければ会うことはない。


 ・・・・じゃあ、さっきのスライムは何だったんだ?

 俺はお姉さんから、このダンジョンが分かれ道など殆ど存在しないほぼ一本道の構造になってる事も、最奥に着くまでの大まかな時間と距離を、ダンジョン内の魔物も、魔石の事も・・・・とにかく沢山の情報を教えてもらった。

 10年ほど前に現れたここ、【贋金まみれ洞窟】は稀にだが確かに外でも価値が保てる等粒状の金魔石を手に入れられる為、散々ベテラン冒険者が奥まで進んで調査したりされてはいる上でコアを敢えて破壊されずに残ってる状態なのだ。

 つまりこのダンジョンは研究され尽くされてる・・・・その上でお姉さんは俺に魔物は金鮫とボスの2種類のみと言ったのだ。

 何ならギルドでも情報を聞いたが、同じだったし・・・・つまりそれは今までの調査等ではスライムの存在は確認されてなかったわけだ。

 ダンジョンで魔物は自然発生しない・・・ちゃんとダンジョンの内も外と同じ方法で普通に繁殖する。

 それにゲート周辺には特殊な魔力が渦巻いてる為、外の魔物達は本能的に近づきたがらないので、外から新しく魔物が入ってくる事もない。

 だから今までスライムがいなかったなら、ここにスライムはいないはずなのだ。


 ・・・・・もうわけわかんね。

 最近はよく分からない事ばっかだ。

 

 化け物魚といい、シクスといい、何故か凍結したベビィスライムといい・・・・


 ちなみにベビィスライムだが、しばらくして再び凍らせて貰おうとしたが・・・・失敗して普通に自壊された。

 何回もラスイの〈微冷〉で試したが全部自壊された。

 そしてラスイは落ち込んだ。

 

 じゃあ、なんであの時は何で凍ったんだろう?


 ・・・・まぁ、いつか分かるだろ!

 今考えても分かりそうにないし一回置いておこう。

 

 で、金鮫の話に戻るのだが・・・・金鮫は別に凄く攻撃的なわけでもないし、特段高い殺傷力を持っている訳でもないが・・・・ウチのパーティはそいつらレベルにもやられそうなのだ。

 いかんせん金の中を鮫のみが自在に透過するように泳ぐという生態上、何らかのきっかけでいきなり襲われても対処が出来ないと思う。

 だから俺はラスイの〈触角探索〉で金の中に潜んでいる金鮫達を刺激しないよう、近づかないように進もうと考えていたが・・・・触覚は不具合を起こしててそれも無理だ。


 その旨を俺は丁寧にテクル含めたパーティの仲間達に伝える。


 「というわけで、このダンジョン俺たちにとっては危険極まりない。 ラスイの触覚が使えない以上、金鮫にいきなりエンカウントしてやられてしまうかもしれない」


 「す、すいません」


 「むむむ・・・・・!」


 「まぁ、一理あるっす」


 1回帰ることを提案し続ける俺に、帰りたくないテクル。

 しかし、あともう一押しでテクルも納得してくれそうだ!

 そう思った矢先。


 『おぉぉぉぉい! 誰か助けてくれぇぇぇ!』


 突然、声が響いた。


「!! 今の声は!」


 発声源は、洞窟の奥からだ。

 その声はハスキーな大人の男の声と言った感じだ。


 「まさか、先生とやらの声じゃないっすか?」


 「声で位置がわかるなら迷わないし、いいだろ! ラスイは安全なゲート近くで休んでて!」


 テクルはそう言うと、声の方に駆け出した。


 「おい待て!」


 俺は静止させようとするが・・・・もう行ってしまった。


 非常にまずいぞ!

 だって・・・・今の声、“明らかに不自然”だ!

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