第53話 Uターンは怯えを露わにする

 テクルは声の方に・・・・つまるところ、ダンジョンの奥にどんどん進んでいく。


 ・・・・マズイ、今の叫びは明らかにおかしい。

 

 よく考えれば今の声がおかしいのはすぐに分かる。


 俺達が帰ろうとした瞬間に都合よく助けを求めてくるなんて狙ってるとしか思えないタイミングだし。

 その上、本当に先生の救援要請の声だとしても、既に何らかの理由で数日間ダンジョンから出て来れていないのにこれだけ叫べる元気があるとは思えない。

 それに金の中に潜む金鮫がどこにいるかも分からないのに、それを刺激するリスクを背負ってまでそんなに大声で叫ぶのも怪しいポイントだ。


 この要因から不安を抱いた俺は、急いでテクルを連れ戻す為に追いかけようと思ったが・・・・いかんせんラスイの調子がまだ悪そうだ、放っておく事が出来ない。

 そんな心配する視線に気付いたラスイが凄く申し訳なさそうにしている。


 「あ、あのクソスライムのせいでぇ・・・・! 皆さんは私は放って先に行ってくださって構いません」


 「ラスイを置いて行くのはダメだ。 だって、ラスイ単体だと戦闘能力無いんだからな!」


 盛大な言葉のブーメランが自分にも刺さってる気がするがそれは棚に置いておこう。

 

 それにしてもラスイは今の言動からも分かる通りの、The・卑屈なのだが・・・・何故かスライム系の魔物に対してのみ口が少し悪くなる。

 ゴールドスライムに対して『クソスライム』とか言ってるし、かなり前だがベビィスライム凍結して運ばせてた時も『スライムごとき』とか言ってた。

 

 ・・・・もしかしてラスイはバグスライムの魔人だから、スライム系魔物への同族嫌悪的なものがあるのだろうか?

 魔人って不思議だ・・・・・


 「クロイに同調するわけじゃ無いっすけど、ラスイさんはさっきまで金色のスライムに包まれてて呼吸出来なかったしすぐに移動出来ないのは仕方ないっすし、それを僕達が待つのは・・・・・仲間として当然っすよ。 それにテクルさんならある程度の奴は1人で返り討ちにできるはずっすし、少し遅れても大丈夫だと思うっす」


 それはそうと何気に俺だけが、さん付けされてないんだよな・・・・いつもまともに働いてないし仕方ないけど。


 と、思考するポイントはそこじゃない。

 シクスもラスイを置いていかないのに賛成のようだ。

 それにシクスの言う通り、テクルなら奥に何がいても簡単に単独で倒せる気がする。

 ・・・・・ゴールドスライムは、いきなり現れてラスイが実質人質みたいな形になってたからあんな風(パーティ半壊しかける)になっただけだしな!!


 「わざわざ私の為に残って頂き、ありがとうございます。 あ。 じょ、情報共有は大事ですよね。 実は私が今走れなくなるほどダメージを負ってる理由は、純粋に呼吸が出来なかったからでは無いんです・・・・な、なんか言い訳みたいになっちゃいますけど・・・・」 


 「そうなんすか? ・・・・確かに魔人は基本的に物凄くタフっす。 数分の無呼吸程度ではそんなにへこたれないっす。 こんなに動けなくなるのはおかしいっす」


 マジか、数分無呼吸でへこたれないのか。

 魔人ってすげーーーーー。


 「じゃあ、どうしてそこまでもダメージを受けたんだ?」


 「先程あのスライムの中に閉じ込められて周りも見えず上手く動けずもがいてた時、急にクソスライムが重くなって潰されそうになってしまい・・・・ 呼吸困難よりその重さによる圧迫でダメージが多いんです・・・・」


 ・・・ダメージの理由を聞いたシクスが、俺の事をじーっと見てくる。

 

 そうだよなーーーー。

 重荷デバフでゴールドスライムそのものに下に向かう力発生させてたんだ、そりゃ中のラスイにも重さの負荷がもろにかかるよな、失念してたわ。


 ・・・・テクルが先に向かっていてくれて良かったと少し思ってしまった。

 だって、俺のデバフによってラスイにダメージを与えていたと知られれば・・・・あのラスイ大事で大好きウーマンことテクルに殺されたかもしれなかったからな。


 「も、もうそろそろ大丈夫です。 テクルちゃんの所に向かいましょう」


 「そうっすね。 ラスイさんが平気なら急ぎめで行くっす」


 「幸いにもこのダンジョン、複雑な道がないからな。 さっきの声がなくとも迷わずテクルの元に迎えるだろう」


 このダンジョンは基本的に一方通行で迷うことが無い、だからこそ魔物が多少危険でもギルドが簡単に許可を出せるほどのレベルとして認定されているのだ。

 だからといって、ここに生息する金鮫を警戒しなければいけないのは変わりないが・・・・今の所全然出てこないな。

 情報に無いゴールドスライムは出てきたのに、割と騒いでもこのダンジョンに大量に潜んでいるはずの金鮫は出てこないのはこれ如何に。


 そう考えて奥に向かって走っていると・・・・


 「ヤバい! ヤバい!! ヤバい!!!」


 なんと向こう側、つまり奥からテクルが全力ダッシュで戻ってきている。

 だが、様子がおかしい。

 遠目でも分かるぐらい凄まじく冷や汗をかいている。


 奥に何がいてもテクルなら触手でワンパン・・・・出来なくても3発ぐらいで原型を残さず倒せると思ったが間違いだったようだ、何かに物凄く怯えている。


 「一体どうしたんだテクル。 何があった?」


 「さっきの叫び声の主はなんだったんすか?」

 

 「テクルちゃん、何を見てそんなに怯えてるの・・・・?」


 合流した俺達がその尋常で無い様子を心配し一斉に質問すると・・・テクルはこう答えた。


 「化け物だよ・・・・、化け物だよ!!」


 ・・・・・・また?

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