第47話 準備は情報を確認する

 飯にシクスが釣られた後話はトントン拍子で進んでしまい、結局俺達は先生とやらが向かったダンジョンにいく依頼を受けることになった。

 酒場のお姉さんが意識して出してるかは知らないが圧を感じたし、子供達が泣きそうな声で『お願い・・・します。 先生を・・・・助けてください・・・!』とか言われたら断れない、断れるわけがない。


 そして、今はその準備の為に宿の部屋に戻って持ち物確認だ。

 この依頼はギルドでいう“救出クエスト”にあたるが・・・子供達の話曰く、既に先生がダンジョンに向かってから5日経っているらしい。

 不謹慎だけど・・・もう死んでんじゃねぇかな。


 俺は悪い癖が多々あるが・・・・その中の一つに死体とかを直接見でもしない限り、死というものに対してかなり他人事になってしまうことだ。

 全く知らない人が知らない場所で死んだと聞いても、『ふぅん』ぐらいしか思えない。

 なんか自分が薄情な人間に思えてしまう癖だ。

 ・・・・そんな自分でも嫌いではないからいいか!


 まぁどっちにしろダンジョン行くし、持ち物の最終確認をしよう。


 付与の際に付与対象に発生してしまう黒い光を消せる〔付隠の手袋〕は俺にとってデメリットが無く常に付けてるから当然として。

 つい最近活躍した、被せた者の体だけを透明にする〔インビジブル・ハット〕はテクルの触手で潰されたあとも機能は健在だったし・・・・念の為持っていくか。

 採集祭の時みたいに思わぬ時に何かに使えるかもしれない。


 他には・・・そうだなぁ、昨日少し買いすぎた、〔のど飴〕でも持っていこう。

 実はこののど飴、普通の飴ではない。

 【お菓子達の家】というダンジョンに生息する、身体そのものが健康に良い効能を持つ飴となっている[キャンディスライム]という魔物を、討伐後100%凝縮して加工されている特別なのど飴なのだ。

 まぁ、そのキャンディスライムが人懐っこすぎて簡単に討伐されまくるもんだからめっちゃ大安売りされてた。

 そんな小袋に入った一口サイズのど飴を5個ほど俺愛用の白ラインが所々にある黒メインな服の胸ポケットに入れておく。


 最後に・・・割と前に念の為買っておいてあったけど、結局使い所がなくこのままでは腐りそうな中級魔力回復薬を持っていこう。

 テクルは魔法が使えず、ラスイは魔力消費がほとんど無い最下級魔法しか使えないためそれを魔力切れするほど使ったら先に体力が切れるだろうから要らないだろうが・・・・

自分の体質も考慮されて作られた独自魔法である、シクスの〈クラック・ブランク〉の魔力消費量は聞いていないから、もしかしたら途中で魔力切れするかもだし。

 それに俺がデバフを使いまくるかもしれない・・・・どんな状況に陥ったらデバフ連発するんだ?


 ちなみに俺の魔力量的に・・・・接触付与、発射付与に限らず50デバフぐらい使えば切れるだろう。

 自分で言うのもなんだがデバフしか使えないくそ雑魚魔法使いとして考えたら中々の魔力量ではなかろうか。

 ま、俺以外にデバフしか使えないクソザコナメクジ魔法使いは聞いたことがないので比較対象がそもそもいないんだけどな!


 次は情報の確認だ。

今回先生が向かったと子供達が言ったのは・・・・【贋金まみれ洞窟】というダンジョンだ。

 人の体内には魔力があり、自然にも魔力は存在するがダンジョン内にも魔力は存在する、それも大量に。

 そして魔力は自己増殖する、人の体内の魔力が時間経過で回復するのもこれが理由だ。

 だが人は魔法で意図的かつお手軽に魔力消費が出来るが、ダンジョンにはそれが無い。

 魔物は酸素と同時に魔力を呼吸で消費して生命活動を行うが、元の魔力量が多すぎるダンジョンでは魔物の呼吸による魔力減少より増加が上回ってしまう。


 その増え続ける大量の魔力は、ある意味ゲートによって閉ざされてる閉鎖的空間のダンジョンの許容量を超えると・・・・実体化し形態を変化させ、直接触れることも見ることも出来なかった状態から一変し固体になる。

 増えすぎた魔力をギュッと凝固し小型化する事で、ダンジョン内の実際の魔力量は減少しなくとも魔力の許容限界からは遠ざかる。

 この凝固し実体化した魔力は〔魔石〕と呼ばれ、ダンジョン内の環境に合わせた姿になる為、ダンジョンによって性質が全く異なる。


 俺達が今から行く【贋金まみれ洞窟】の魔石は、見た目まんまきんの〔金魔石〕と呼ばれていて、見た目だけでなく実際に本物のきんと完全に同じ性質を持っている。

 決して朽ちない金、それは遥か昔から普遍で不変の価値を持つ。

 つまり金魔石は生まれる経緯が全く違うけど、金と同じ性質してるから金と同じ用途で使えるし、それ故に金と同じ価格で取引出来るから金と同じ高い価値を持っている。


 じゃあそこにある金魔石を大量に持ち帰れば大富豪になれそう・・・・だが、そんな簡単にはいかいない。

 このダンジョンにも当然“ズレ”がある。


 そのズレとは“同じ魔石でも位置や微妙な気圧の違い等の条件で凝固にかかる時間が全然違う”という若干『ん?』と思われるようなズレだ。

 本来魔石が凝固にかける時間は全ダンジョン共通して緩やかだが同じ魔石だったら多少の差異はあれど全部同じくらい時間がかかる、そんな法則ルールをズラしているのがこのダンジョン。

 だがそんなズレ、『で?』としか思えないだろう・・・・だが、これが金魔石の形成にかなり響く。

 

 このズレにより、金魔石には『斑状』と『等粒状』と呼ばれる2つの種類が生まれる。

 贋金まみれ洞穴にある金魔石の殆どは『斑状』と呼ばれる方だ。

 斑状は急速に凝固することによって生まれる金魔石、等粒状は時間をかける事で確実にガッチリと凝固した金魔石だ。


 ダンジョン内でこの2種類は見分けられない、というかダンジョン内では違いが無い。

 この2種類の違いは、ダンジョン外に持ち出して初めて分かる。

 等粒状金魔石は一度回収すればダンジョン外でも普通に金として持ち歩けるが、斑状の方はダンジョン外に持ち出した瞬間、輝きを失いボロボロと崩れてしまうのだ。


 本来全てが緩やかに凝固し成長する金魔石のプロセスがズレによって急速に早まってしまい、十分に実体化出来てない状態の金魔石が『斑状』・・・・ダンジョン外に出ただけで朽ちてしまうのはそれが理由だ。


 だからしっかり金として売りたいならどこでも変わらない等粒状の金魔石でないといけないが、数が総量的にも相対的にも圧倒的に少ないし・・・何より厄介なのが外に持ち出すまで違いが一切無いという事。

 外に持ち出して、崩壊するかどうか確認して初めてどっちか分かるのだ。


 金かぁ。

 ・・・・一応、大量に金魔石を入れられる袋も用意しよう。

 数打ちゃ当たるの精神で集めまくるとしよう。


 さて・・・そろそろ行こう。

 贋金まみれ洞穴のゲートは赤みがかった森の少し先にある。

 まずはラスイ達と合流しないとな。

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