第46話 お姉さんは依頼を仲介する

 「この子達はここの近くにある孤児院・・・・【トプセアの孤児院】の所の子達らしいんですけど、どうやらそこの先生が【ダンジョン】に向かってから帰って来てないらしいんです」


 【ダンジョン】・・・それは普通とは少し違う、所謂この世界と“ズレ”があるとんでも空間な謎エリア。

 ダンジョンは世界中に数え切れない程の種類が点在しており、ダンジョンによってそのズレが全部違う。

 そのズレによって生じる少し普通から逸脱した法則ルールにちなんだ、個別の名前がダンジョン1個1個に付けられている。


 例えば、ダンジョン内生物含む全ての物の一部が実際に食べれるお菓子になっている【お菓子達の家】。

 ダンジョン内で笑った瞬間解析不能な謎の力で首から上を消し飛ばされる【笑っては生きれない小道】。

 ダンジョンの無機物の大きさが時間経過で変化する【凸凹デカチビどたばた山】。

 ・・・・・誰がダンジョンの名前決めてるんだろ?


 そんなダンジョン達だが、これら全て[別空間]と呼ばれるココとは違う空間に存在しており、直接干渉する事が出来ない、

 じゃあそのダンジョンにどうやって入るのか・・・・正解は〔ゲート〕を使う、だ。

 奥がグニャグニャと捻じ曲がった様に見える常に開きっぱなしのなんかの色一色に染まった扉、それが〔ダンジョンゲート〕、略して〔ゲート〕だ。

 その来る者拒まずな開放的な扉の先に進めばそこは既に別空間、ダンジョンである。

 つまり先述した『ダンジョンは世界中に数え切れない程の種類が点在しており』というより、正確に言うなら実際にこの世界に点在するのはダンジョンの入り口であるゲートの方だ。


 そのゲートは突然前触れも無くどこかに出現して、出現した後は最初からそこにあったかの様にずっと残り続ける。

 いきなりの出現からどれ程時間が経過しようとゲートは普通の扉の様に老朽化したりせず決して自然消滅しない。


 そしてゲートが初めて出現したのを確認されたのが2900年前程。 

 未だにダンジョンとそれに入る為のゲートが何故発生するのか分かっていない・・・・だが分かった事もある。


 ゲートを直接破壊は出来ないが・・・・ダンジョンの最奥にある直径30cmぐらいの大きさを持った丸い宝石のような見た目をした〔ダンジョンコア〕省略して〔コア〕を破壊することでダンジョンを崩壊させ、ダンジョン崩壊後時間差でゲートは勝手にブッ壊れる。

 が、ダンジョンには定期的に豊富な資材が発生するものもあり、破壊せずあえて残す事で定期的な収入にするという話もよくある。


 あとダンジョン内にも魔物が存在しているが、その中で[ダンジョンボス]略称[ボス]と呼ばれる超大物魔物がいる場合がある。

 

 他にもダンジョンは[別空間]で普通とは少し違うズレがあると言ったが・・・・逆に言えばそのズレてるとこ以外はノーマルで普通な法則だ。

 例えばダンジョン内には普通に魔物達がいるが、その魔物達も特別な化け物とかでなく普通にこの世界にいる魔物と大差ないし何ならダンジョン内外で同種の魔物も存在する。

 [ボス]だって普通の魔物が異常成長したようなもので、少なくとも鮫系の姿してるのに地面を這ってでかい人の腕持って執拗に追跡してくる化け物はいない。

 存在する魔物だけで無く、ダンジョン内部だって見ただけで精神を侵される人の言葉では形容出来ない異常な場所ではなく『山』『小道』『川』とかこれまた普通に説明出来る空間が殆どだ。

 つまりズレてる部分除けば以外は割と普通な空間、それがダンジョン。

 そのズレがものによって厄介なんだけどね!

 

 もちろん世界中にある為、ここら辺にも多種多様なズレを持つダンジョンが複数あるが・・・・俺は1個も、1度も行ったことが無い!

 だって俺弱いもん!!


 「なので貴方達に私を仲介したこの子達からの依頼として、そのダンジョンに向かったと言われる先生の元へと向かって・・・・生存確認をし、出来る状況なら救助をしてきてください」


 お姉さんが少し言い淀んだのはきっと心の中で『先生とやらは既に死んでいるのでは?』と思っているからだろう。

 もちろん子供達の前で直接死体確認して来てくださいなんて言えやしないだろうが。


 「これはクエストではありませんので正式な報酬は約束できません。 ですが・・・助けてあげてくれませんか?」


 そう言ってお姉さんが頭を下げてお願いしてくる。

 その様子を見たお姉さんの後ろにいる子供達も少し遅れて頭を下げてくる。


 「「「おねがいします!!!」」」


 ・・・・お姉さんがここまで頼んでくるのは何故だろう?

 言っちゃ悪いがいきなり酒場に押しかけてくる子供達の願い事を聞く義理は無いはず。


 「なんでここまでして無関係な子供達のお願いごとを聞いてるんだ?って顔をしてますね」


 「え」


 昔からお姉さんは俺の心を見透かした発言をする。

 だがまさかお辞儀してる状態で俺の顔が見えてないのに分かるとは・・・・


 「ここは酒場であると同時に、犯罪を除く何らかの事情でクエストにしたくない願い事を聞いて、それを常連の冒険者さんに頼むこともしてるんです。 この子達の場合は、早急に先生の所に向かってもらいたいから冒険者が選んで受けるかどうか選べてしまうギルドのクエストでは適しませんし・・・そもそも子供達ではちゃんとした報酬が用意できないのでクエストにするのはより無理です。 なので1度私が仲介して依頼をしているのです」


 お姉さんが行っているのは困った人を助ける・・・つまりボランティアのようなものだろうか。

 お姉さんは様々な人と接点があり人脈が広い・・・その理由はこの慈善活動によることもあるのかもしれない。

 この前の最終的にクズルゴに渡したゴールドギルドのクエストだってお姉さんが出処だ、それも諸事情でギルドではなくこの酒場で依頼をしにきた人と繋いだ縁から来た物だったのかも。


 縁を繋ぎ宴をする、そして最後は大円団。

 それがここ、【エン酒場】。


 それにしてもクエストでなく私的な依頼にする、か。

 確かにお姉さんを通して頼まれると断りにくくなる。

 だってここらに住む大体の冒険者はこの酒場に頻繁に通うのに、そこの人からの頼みを断ったら何だか行くのが億劫に感じれてしまう。

 

 あ!

 ・・・・だから他の冒険者はお姉さんと子供が話している間に逃げたのかぁ!!


 お姉さんの頼みとはいえ、確実な報酬が約束されない依頼を受ける・・・・皆が皆、お姉さんのように困った人に無償で手を差し伸べる精神は持っていないのだ!

 頼まれてしまえば断りにくい・・・・なら頼まれる前に去れば良い!

 やけに皆急に帰ると思った!


 俺は子供の頃から面識があったしこの酒場をよく使っているが、お姉さんがこのような事をしているとは知らなかった・・・・


 「お姉さん、今まで俺こんなことやっているなんて知らなかったんだけど」


 「あなた一人じゃどんな依頼でも無理だと思ったからです。 だからどれ程暇そうでも今まで頼んでなかったんですよ」


 ・・・・・な、なるほど。


 「それで・・・・受けて、くれますか? 受けていただければ・・・そうですねぇ、今回の食事を無料にしてあげますよ」


 「おぉ!」


 それは良い、今回は割り勘だからシクスの大量の唐揚げの分財布へのダメージが大きくなっている。

 それが0になるのは非常に良いが・・・


 「もう一声!」


 「・・・・そうですね、解決したら唐揚げを10個奢りましょう」


 「受けましょうっす!!」


 即答するシクスだった。

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