第40話 彼?彼女?は仲介役を挟む

 「あ、採集祭優勝者のクロイさん達じゃないですか」


 昨日何故か最終的に歌う羽目になったが・・・・なんだかんだ当初の目的だったゆっくりと会話する事は出来た。


 その次の日・・・・つまり今日はギルドに来ていつも通りクエストディスプレイを使ってクエストを受けようとすると、受付のケウシャが話しかけてきたのだ。


 採集祭優勝者の俺達に声をかけてくる人は結構いる。


 今日もギルドに行く途中で街の人が「あ、採集祭優勝者の人だ!」みたいな感じで話しかけてきた。

 ちなみに俺達3人で優勝した訳だが、話しかけられるのは殆ど俺だけである。

 というかテクルとラスイとは割と露骨に目をあまり合わせないようにされている。

 言葉には出してないけどやっぱり魔人って避けられてるんだなという事実を再確認したが・・・・本人達は慣れてるのか特に悲しむような事はなかった。


 むしろ俺越しではあるが優勝の事で賞賛されていたので、ラスイは嬉しそうにしていた。

 そして俺とテクルはこっそり植物を奪った件を思い出してしまい愛想笑いしかできない。


 受付のケウシャにも愛想笑いで俺とテクルは返すが、ケウシャはただ話しかけてきただけでは無い様子。

 採集祭の話を早々に切り上げて、話に一拍間を置いたケウシャがあの事を教えてくれた。


 「クロイさんが[化け物魚]と呼んでいた魔物の肉片・・・・カンテさんが鑑定し終えましたよ」


 ・・・・すっかり忘れていた!

 そうだ、俺達は落花に上手い事嵌めてテクルが殴り続ける事で動きを完封し倒したが・・・・結局正体が不明なままだ。

 化け物魚に追われた件含め、飛び散った血や肉片を報告しギルドに提出した。

 かなり幅広いと自負している俺の魔物知識の中にも無かったし、あの後気になり自分でも調べたが・・・・巨大な人の腕を持ち陸を這える鮫のような魔物なんてどこにも載っていなかった、そんな正体不明の存在だがギルドなら分かると思ったののだが・・・・


 「『何じゃコレ、細胞の組織とかしっちゃかめっちゃかじゃぞ。 本当に生きて動いておったのか? かろうじて鮫系の魔物に近しい部分があるが、明らかに普通の鮫系魔物には要らん不純物も混じっとるし・・・・本来成立しないのを無理矢理形にしたみたいじゃ』と、カンテさんが言っていました」


 ケウシャのかなり上手いカンテの声真似に少し面食らったが・・・


 「・・・・それってつまり?」

 

 「こちらとしても正体不明でよく分からない存在という事です。 クロイさん達の報告通りの場所に実際に報告して下さった原型は完全に失われていましたが穴に嵌っている化け物魚がいましたので、そちらもサンプルとして色々検証や鑑定を重ねましたが・・・・結局解りませんでした」


 「まじか」


 「本気マジです」


 まさかギルドも分からないなんて・・・・本当にあの化け物は何だったんだ。


「これからも調査は致しますので、もし新発見があればお伝えしますね、 ・・・・それはそうと・・・・・[エルガント]さーん。 居ますか、エルガントさーん! クロイさん達が来ましたよー!!」


 ケウシャが化け物魚の話から切り替えたかと思うと、いきなりよく通る声でギルドの奥に呼びかけ始める。


 どうやら[エルガント]という人を呼んでいるようだ。


 少し広いギルドで俺達が見えない位置にいたであろう、その呼びかけに応える人が向かってきた。


 「やっと来たかい。 教えてくれてありがとうケウシャさん」


 「いえいえ」


 呼びかけに応じここに来て、ケウシャに礼を言った金髪の人がエルガントなのだろう。

 そしてこのエルガントという人の顔には物凄く見覚えがある。


 「あの時のイケメン!」


 そう、採集祭で夜行性の魔物が徘徊しているという注意喚起をしてくれたイケメンだ。


「イケメンとは・・・・嬉しいこと言ってくれるね」


 エルガントは温和な笑みを浮かべる。

 そんなエルガントだが、1人では無いようだ。

 エルガントの後ろには2人が立っていた。


 1人はジト目が特徴的な気怠そうな印象の銀髪の女性だ。

 服装は何処かの軍服のようだが、被っている鼠色の帽子は軍帽というよりベレー帽だった。

 気怠そうではあるがそれと同時に貫禄の様な物も感じる、そんな謎の存在感を醸し出している。

 

 そしてもう1人は・・・女性?男性?

 ・・・・美少女とも美少年とも言える端正な顔立ちをした中性的な人だ。

 純粋な白と碧の二色だけの服はかなり涼しそうな薄着かつ少し大きめで、簡単に袖がめくれそうだと思わせる。


 2人は口を開かない御様子だ。


 「で、何の用だ? わざわざケウシャに私達が来たら呼ぶように頼んでいたようだが」


 「あぁ、その事だがね。 正確に言えば僕ではなくこちらの方が君達に用があるそうだ。 僕達はただの仲介役さ」


 エルガントは中性的の人を前に出るように促す。

 促されるがままに前に出た中性的の人が口を開く。


 「えーっと、初めましてっす!! テクルさん、ラスイさん、・・・・えっと、クロイさん、っすよね?」


 パッと見の何処か儚い美しさを感じる第一印象とうって変わって割とハキハキとした喋り方をして来た。


 しかし喋り方より気になったのは、中性的の人はそれぞれ俺達1人1人を指さしながら名前を呼んだが・・・俺だけ名前を呼ぶ時に『えっと』を挟んだのはどういう了見だろう。


 「はい、そうです。 もしよろしければ、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 「名前っすか? ・・・・えっと、シクスっす!!」


 「シクスさんですね! 教えて頂きありがとうございます!」

 

 例え相手が下手に出ようが初対面だろうが、ラスイのへりくだりっぷりはいつも通りだ。


 「それじゃ、僕達は失礼。 シクスさん、頑張ってね」


 「・・・・・・・(ブンブン)」


 エルガントは片手をヒラヒラさせながら帰り、ジト目軍服ベレー帽の人はやや大袈裟だがさよならを表現する為か片手をブンブンさせながら一言も発する事無くエルガントについて行き、二人一緒にギルドの外に出ていった。


「エルガントさん、[ケナ]さん、ありがとうございましたっす!!」


 帰っていく2人にシクスは敬礼する。


 「で? 結局何の用なんだ?」


「あ、それはっすね・・・・・僕を、御三方のパーティに入れて欲しいっす!!」


 シクスはそう言って綺麗な90度の礼をする。


 「・・・俺達の?」


 「・・・パーティに?」


 「・・・入りたい、ですか?」


 「「「・・・・・・・・・」」」


 「「「えぇっっ!!??」」」


 俺達は驚愕してシンクロしながら素っ頓狂な声を上げてしまった。


 「声のボリューム下げてくださーい」


 ・・・・そしてケウシャに注意されてしまった。


 「昨日も声の大きさで注意された気がします・・・・」

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