第39話 2人は思いを馳せる
「私達は昔、赤みがかった森でおじいちゃんと一緒に住んでいたんです。」
「魚みたいな化け物に追われた時に避難した結界、覚えてるだろ? あの結界内の小屋で暮らしてたんだよ」
俺の話が終わり、テクルとラスイが自分達の昔の話をしてくれる。
「実は私達・・・・捨て子だったらしいんです。 おじいちゃんが拾って育ててくれたんです」
「森の中で二人一緒のおくるみで包まれていたそうだ。 まぁ私達魔人だし、気味悪がられて捨てられたのかな?」
中々にヘビィな話をしてくる。
・・・・・魔人だし、か。
確かに魔人は世間一般的に不気味な存在という扱いをされる。
要因としては、魔物の能力を持つ事、身体の一部が異形である事、というのも大きいが・・・・そもそも魔人は謎が多すぎる、という点が挙げられる。
要因の1つとして言った、魔物の能力を何故宿しているのかというのも未だ解明されていないし、他にも魔人同士では全く違う魔物の力を宿していても初対面だろうと同胞という感覚があるというのもあり、それも謎だ。
更に魔人はラスイとテクルもそうだが、基本的に捨て子として発見されるらしい。
それに捨て子のままでも、魔人はこれまた謎であるが膨大な生命力を持ち合わせている為、大自然の中でも1人で生き抜けるそうだ。
その実例があるのだが、その野生の中1人で生きていた魔人は普通に俺達が使う言葉を喋る事が出来、簡単にコミュニュケーションを取れたらしい。
言語なんて学ぶ機会が無い自然の中で育ったのに何故か言語を理解している・・・・これもまた魔人の不気味さに拍車をかけていた。
「私達、検査しても血の繋がりは無かったんですけど・・・・それでもテクルちゃんの事は親友兼本物の姉のように思っています」
「私もラスイの事親友であると同時に妹と思ってる!!」
俺が魔人の謎について考えていながらもしっかりと2人の言葉を聞いていたら、少し気になる所があった。
この2人、血の繋がりが無かったのに同じおくるみで包まれてたのか?
これも魔人の謎なのだろうか、いつか魔人の謎を解き明かせるだろうか。
「・・・・毎日森の恵みでのほほんと生活していたんですけど・・・・ある日を境におじいちゃんが日に日に弱っていったんです」
「・・・あれは辛かった。 看病虚しく、爺ちゃんは、天国に・・・」
その頃を思い出したのかしょぼんとし始めた2人。
「おじいちゃん、今頃天国で楽しくやってるかなぁ」
「・・・きっとやってるよ」
しみじみとしている2人。
「それで、しばらくは爺ちゃんが居なく無ってからの小屋で2人で暮らしてたんだけど・・・・ ある日偶然爺ちゃんの昔の日記を見つけて、そこには爺ちゃんが昔凄い冒険者だったのが分かる事が書いてあって・・・・」
「私達もおじいちゃんと同じことがしたくて冒険者になったんです」
おじいちゃんと同じ道を歩みたくて冒険者になったのか・・・・いい話だなぁ。
「クロイは何故冒険者をやってるんだ?」
「俺も似たようなもんだ。 凄い母がいてなぁ。 その母との約束があって・・・・まぁ、そんな感じだ。 スマンがあまり母に関係する話は詳しくしたくない」
「・・・・こ、こちらこそすまん。 嫌なことを思い出させてしまったか」
「あぁ、母のことはあまり聞かないでくれると助かる」
「分かりました」
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
何だかしんみりとした空気になってしまった。
家族の話はあまりするもんじゃないな。
「・・・ここで1曲。 曲名は、『挨拶レクイエム』。 おは〜は〜〜よ〜〜! よ〜〜! よ〜〜〜!!」
そんな若干重い空気をぶち壊したのは、なんといつもは決して出しゃばらないラスイの歌声であった。
「何故いきなり歌い出す!? あとリズムが独特だな!!」
「ラスイは空気が重くなると歌ってリセットしようと試みる時がある。 慣れれば意外と楽しいぞ。 ちなみにあの『挨拶レクイエム』の作詞作曲は私だ」
お前歌作れるのか・・・・と驚きつつも感服している俺を尻目に、テクルはどこからともなく用意したタンバリンを歌の合間合間に鳴らし始める。
「こ〜〜に〜〜ち、は〜〜〜!!」
タン、タン!!
「こんばん〜〜〜〜は〜〜!!!」
タン、タン、タン!!
「おや〜す〜み!!!!」
タン、タン、タン、タン!!
・・・・なんだこの状況。
「クロイも歌うか? 次歌うなら私がタイミングよく口笛を挟んでやろう」
遠慮させてもらおう。
俺は聴くだけで結構だ・・・・
ちなみにその後、宿の人から普通に『うるさい』とクレームが入ったらしい。
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