第37話 採集祭は優勝者を発表する
『えー、あと30分、30分で採集祭終了じゃ。 未だ1度もカゴを提出していないゼロポイントの人が多数おるぞ。 とっとと提出せい!!』
クズルゴの絶望による悲鳴の後に森中に響いたのはカンテの声。
道具か魔法か・・・何らかの方法でアナウンスしているようだ。
・・・・あれ、そう言えば俺達って。
「俺達、提出1度もしてねぇじゃん!! ポイントゼロだ!!」
「あ、そうじゃん。 おいてめぇ!!」
テクルは触手を元の短さに戻しクズルゴと気絶中ゴースト達の拘束を解き、胸ぐらを掴んで放心中のクズルゴの意識を荒々しく引き戻す。
「な、なんだ? いや、なんでございましょうか!?」
ずっと生殺与奪の権を握られてトラウマになったのだろう、クズルゴが敬語を使っている。
「魔物の死体を使ってカゴを強奪しまくったんだろ? それはどこにある? 優勝する為に全部回収してやる」
「正確に言えば因縁のあるアナタ達以外は純粋に集める妨害だけしようとしたら、相手が思ってた以上にビビってカゴを置いていって逃げただけなので、特にカゴに関しては他参加者が落とした後いじってないです!! 余裕あれば後でゆっくり探して回収しようかなみたいな風に考えてたので正確な位置は分かりませぬ!!」
「使えねぇな!! このカゴ奪い野郎が!!」
辛辣にそう言うテクルだが・・・カゴ奪い野郎に関しては俺達がそれを言う資格はない気がする。
「大丈夫だよ、テクルちゃん!! カゴを探すなら私の触角探索で様々な植物の反応が重なっているのを探せば見つかるよ!!」
便利な触角探索、使えないと言ったクズルゴは見る目がなかったようだ。
「しょ、触角探索? 何それ知らない」
あぁ、クズルゴ知らなかったのか・・・
「あ、お前のカゴは貰うぞ」
「え」
テクルはクズルゴのカゴを一瞬で触手に絡め取らせ奪い去り、ラスイの案内で他参加者が落としたカゴを回収しつつ受付に向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「採集祭、終〜了〜!!!」」
ケウシャとカンテが皆が集まっている特設受付で終わりを宣言する。
「さぁ、まどろっこしい挨拶は無しじゃ!! 採集祭優勝者を発表しよう!!」
「ちょ、カンテさん? 終わりの挨拶はちゃんとしないとダメですよ? 散々練習したじゃないですか」
「んなもん忘れたわい!!」
「・・・そうですよね。 カンテさんってそう言う人でしたね。 ですがここに台本がありますしその言い訳は通じな」
ビリビリ!!
「・・・・・・台本破り捨てる程言いたくないんですか?」
「当たり前じゃあ!! さぁ、栄えある優勝者は・・・!!」
ケウシャが諦めた顔になり、その横でカンテが満面の笑みで優勝者を発表する。
もちろん優勝者は・・・!!
「クロイ、ラスイ、テクル・・・この3人のチームが優勝じゃ、おめでとう!!!」
パチパチパチパチパチパチ!!!
他参加者が盛大に拍手をする。
「終了30分前まではゼロポイントじゃったのに、終了の5分ほど前に有り得ん量の植物を提出してきて驚いたわい。 あの量一気に鑑定は流石に疲れたのう。 流石に質は悪くなっているものがかなりあったが、圧倒的量で他と差をつけたのう」
・・・今拍手してくれてる他参加者達から回収したものなんて言えない。
クズルゴの件のやつはあくまで落し物の様なものだったが、前半で俺達普通に他参加者から植物掠めとってるんだよなぁ。
制約石の設定が滅茶苦茶緩かったから良かったが・・・バレたら普通に失格になりそうだ。
「今一度、優勝者に盛大な拍手を!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
これにて採集祭は幕を下ろしたのだった。
俺はこれで借金を返せそうで良かったし、テクルもクズルゴを酷い目にあわせれて満足そうだ。
ちなみにラスイは・・・
「クロイさん。 クズルゴさんの事、ありがとうございます」
「ん? 何にお礼言ってるんだ?」
「最終的にクロイさんが提示した条件、1年以内に100万エヌ。 少し理不尽に聞こえるかもしれませんけど・・・・問答無用で社会的に殺してしまうのでなく、挽回の機会を与えてます。 クロイさん、やっぱり優しいです。 あのままだとクズルゴさんが・・・テクルちゃんに申し訳ないですけど少し可哀想だったので・・・・だから。 ・・・・ありがとうございました!!」
随分と好意的に解釈してくれる。
俺はただリターンが欲しかっただけなのだが。
というより・・・60万エヌ以上取られた相手に挽回のチャンスを与えてありがとうとは・・・随分と変わり者、だなぁ。
いや、もうこの自分が最底辺という考えは変わり者ってレベルじゃ無いな。
完全に一般から外れた考えをしている・・・・
“外れ者”だな。
変に悪い意味では無いぞ。
「本当に、ありがとうございました!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
採集祭が終わった後・・・真夜中。
既に撤収された特設受付があった場所。
赤みがかった森の近場、そして今日は催し物があり終わったばかり。
そこにあるのは時折静寂を破る魔物の鳴き声だけで人っこ1人いない・・・・
否。
そこには1人の人間がいた。
たまたま夜風に当たる為散歩している一般人であろうか。
否。
一般人は強力な魔物が徘徊する夜の赤みがかった森付近になど近づかない、危険だからだ。
ならば夜しか受けれない強力な魔物の討伐クエストをクリアする為に来た冒険者であろうか。
否。
この者はあくまで赤みがかった森“付近”にいるだけで森に入ろうともしない、討伐クエストをしに来たわけで無いようだ。
ではその者は何故いるのだろうか?
その質問に答える者はいないし、そもそもこの質問を問う人もいない。
その者は、男とも女とも言える非常に整っている端正な顔立ちが特徴的だ。
彼?彼女?は特に何をする訳でもなくその場に突っ立ていた。
「・・・どうしてっすかねぇ」
その者は顔を下へと向け、これまた男とも女とも言える中性的な声でどこへ向ける訳でもない呟きをこぼす。
「本当に・・・・どうしてっ・・・・・すかねぇ」
その者は・・・・顔をスっと上げると。
「・・・・あぁ。 やるしか、ないんすね」
クロイ達の住む街、【イズリラ】へと歩みを向けるのだった。
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