第36話 復讐はリターンを考える
「あ。 ・・・・・そ、それは・・・・〔撮影石〕・・・!?」
採集祭開始の時に配られた、周囲の状況を録画録音出来る、〔撮影石〕。
俺はさっきから左ポケットに手を突っ込み撮影を開始するボタンを押していた。
つまり、コレでさっきのクズルゴの発言はバッチリ録音されてあるのだ。
そう、ゴースト憑依云々の話・・・・冒険者登録の詐称の自供を。
詐称でギルドカード発行は普通に犯罪だ。
「確か・・・・撮影石で撮ったものを提出して、最も良かったものにも賞金があるらしいじゃないか。 これを提出すれば貰えるかなぁ?」
「あ、あ、あーーーーーー!!!」
撮影石の存在を忘れて余計なことまで全部話してしまったクズルゴは完全に絶望している。
口は災いの元、をよくここまで綺麗に体現したものだな。
「なるほどぉ!! 今までのクエストの功績も全て詐称されたパーティによるものだと知られれば、詐称の罪自体の罰が軽くても社会的に死ぬ!! 実に素晴らしいぞクロイ!!」
俺が実行した事に気付き、満面の笑みのテクル。
「・・・・・・」
困ったような顔をしているラスイ。
「あぁ、もうダメだぁ・・・・ 終わったぁ・・・」
真っ青通り越して真っ白通り越して一周してまた真っ青になった顔をしているクズルゴ。
・・・しかし、復讐はこの様な終わり方ではない。
犯罪の自供を録音して提出して、社会的な死をもたらす・・・・そんな終わり方ではない。
「そういえば・・・・カンテが説明の時に、撮影石は提出せずに思い出として保管することも出来ると言っていたなぁ」
「!! それってどういう・・・・」
「・・・・クロイ? まさか、慈悲でもかけるつもりか?」
その発言に顔を上げるクズルゴと、明らかに嫌そうな顔をするテクル。
「そうだなぁ。 この撮影石は俺の思い出として残そうかなぁ? でも、もしかしたら・・・・うっかり誰かに見せちゃうかもなぁ?」
「・・・・・あ」
ラスイが俺の顔を見る。
俺の意図に気づいたようだ。
「でもなぁ、ずっと保管するのもなぁ。 そうだなぁ。 ・・・・もし、誰かが1年以内に100万エヌ払ったらコレを渡すとしよう」
「・・・・そりゃあ良い! もし1年以内に誰も払えなかったら然るべき所に提出しよう!!」
ようやくテクルも俺の意図に気づき合わせてくる。
クズルゴを犯罪者として社会的に殺すだけでは・・・・リターンがこちらにない。
何も帰ってこない復讐は虚しいものだろう。
「・・・まぁ、私としては社会的に殺すのも全然アリだと思うが・・・」
・・・・虚しいものだろう!!
ラスイはお金を取られた・・・なら、そちらもお金で償ってもらおう。
クズルゴは何気に夜行性のツキヤブリ等の強力な魔物を仕込みと称して屠っているし、テクルの触手を指示を出せる余裕を常に持ちながら見切っていた。
本当に死ぬ気で働けば100万エヌも夢ではないだろう。
「え・・・っと、オ、オレが・・・・100万エヌ払えば・・・?」
「うん、もう面倒臭いから遠回しに言わずに直接言ってやるよ。 1年以内に100万エヌ俺達に払えればこの撮影石は渡してやる、処分とかも好きにしろ。 渡せなかったらお前は社会から犯罪者として見られることになる。 今まで通りには生きられなくなるだろうな」
「い、1年以内・・・!!」
「そうだよなぁ、1年以内に100万エヌって大変そうだよなぁ。 ・・・・そんなお前にコレをおすすめしよう」
俺はクシャクシャになっている複数の紙切れをポケットから出して、未だ拘束中のクズルゴに見えるよう目の前の地面に置く。
クズルゴはその紙切れに書いてある文字を読み始める。
「・・・・護衛に被検体募集、蠱毒喰から生き延びる・・・・ コ、コレは!?」
その紙切れは、酒場のお姉さんから貰った超難しいが、報酬は破格のゴールドギルドのクエスト達。
「お前、ラスイの長年の苦労で貯めた金全部奪ったんだし。 ・・・・これぐらい頑張れよ」
「う、嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
クズルゴの絶叫が森に響いたのだった。
「あ、後また詐欺とかで稼いだ汚い金はダメだからな? ちゃんとその金の出処を証明できるものを用意しろよ?」
更に条件を課して追い討ちするテクルであった。
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