第34話 解説は詳細を求める

 「頼む殺さないでくれ」


 クズルゴ、そしてルベリーと呼ばれた水色ゴーストと赤ゴーストはテクルの触手に巻き付けられ拘束されている。

 今さっき俺も知ったがテクルの魔能であり異形の部分でもある〈触手触れるべき手〉は非実体だろうがその場に居るという事実があれば干渉ができる。


 故に気絶中の2体のゴーストが目覚めて非実体化しても逃げ出せない。

クズルゴ本人ももう力による抵抗は無理だと完全に諦めているようだ。


 「黙ってろ、クソ詐欺師野郎」


 テクルが命乞いするクズルゴに冷たい目を向ける。

 クズルゴは物凄く絶望した顔になっている・・・・さっきまで煽っていた相手に生殺与奪の権を握られてるもんなぁ。

 

 だがテクルには少し落ち着いて貰いたい。

 拘束しているだけなら攻撃では無いので制約石に引っかからないが、逆に言えばこのまま締め付けたり等で攻撃したら反応し、強制的に失格者エリアに転送されてしまう。


 「テクル、そのまま締め上げるなよ? フリじゃないぞ?」


 「分かってる。 だがこの動けなくするだけの巻きつけは私が我慢できなくなりそうだ。 何かするなら早くしてくれ」


 決して洒落ではない事が分かる怒りに満ちた声のテクルに少しビビりながらも、俺はクズルゴに顔を向け、右ポケットに手を突っ込みながら質問をする。


 「そうだな。 まずは気になる事があるから、答え合わせして貰おう。 クズルゴよ、何故こんな事を?」


 『こんな事を?』とは当然水色ゴーストによるカゴ強奪や夜行性の魔物を大量に仕込み俺達含む他参加者の妨害の事だ。


 「・・・・・・それは、だな。 えーーーーっと」


 「早く喋らないとテクルが何するか俺にも分からないぞ」


 「圧倒的に勝利して煽り散らかしてやろうという出来心だ! だから事前に夜行性の魔物を倒しまくって配置し、他参加者の妨害するために屍役したしゴーストでオマエ達のカゴを奪おうと思った!」


 脅した瞬間速攻吐き出された理由はクソしょうもなかった。

 しょうもなかったが・・・・・


「「・・・・・・・(目を逸らすテクルと俺)」」


 俺とテクルも同じような理由で他参加者の植物を盗んでいた為、強く言えなくなってしまった。

 ・・・・あれ、規模感が違うだけで俺とテクルがやった事ってコイツと同類・・・・?


 いや、クズルゴは使役したゴーストとか屍役した魔物の間接的な攻撃なら制約石に引っかからないのをいい事に、俺達へ直接明確に危害加えようとしてたし・・・・向こうのほうが悪い!

 そういう風に半ば無理やり自己弁護した俺が再びクズルゴに向き直る。

 

 「そ、そうか。 ・・・・・そうか」


 テクルも自分がさっき途中から率先してやっていた他参加者からの植物盗みを思い出し少し動揺して特に意味もなく同じ言葉を2回言っていた。


 「・・・・あの、よろしければ私も聞きたいのですが。 よ、良いでしょうか?」


 「いいと思う」


 俺は頷いた・・・・何でも許可制にしないでいいぞ。


 「水色のゴーストはルベリーさんというお名前だそうですが、赤いゴーストは何というお名前なのでしょうか?」


 「それ今聞くか? [リーラズ]だよ!!」


 「私の尻を触ったのはそこのルベリーだろうが、お前の指示か?」


「違う!! 確かにルベリーにオマエらを見つけたら、念入りに色々と妨害した上でカゴを奪ってこいとは命じた。 命じたが、セクハラを命じた訳ではない!!」


 「なんでリーラズの位置は背中だったんだ? もう少し離れた所からクズルゴへの攻撃を防ぎつつ隠れていた方が安全だったんじゃないか?」


 「念動力は自身と近い座標の方が威力が高くなるからだ。 高威力の攻撃が来ても防げる様にオレからかなり近い位置にいてもらいたかった。 あと、遠くにいたら防御が遅れるかもしれないだろ!! ちなみにルベリーを俺たちの元へと回収したのはリーラズの念動力ではなく屍霊術師であるオレの使役したゴーストを自分の所に強制的に移動させる〈霊招集〉という魔法だ。 遠くで動かなくなっているのを感知したから発動した。 そしたらお前らが着いてきた」


 ラスイ、テクル、俺の質問ラッシュに対してかなり早口で返答するクズルゴ。

 意識してなのかは知らないが、聞いてないことも言ってくる辺り、やはり自分のことを喋るのが好きなタイプの人間だろう。 

 と、ここで話している内に若干絶望顔が薄くなったクズルゴが自主的に発言をしてくる。


 「・・・ところで、こちらからも聞きたいんだが、オレは〈弱体〉というデバフかけられたみたいだが、いつかけられたんだ?」


 「質問する権利はお前のようなクソ詐欺師野郎にないが? クロイ、この質問には答えるなよ」


 勝手に質問してきたクズルゴを、小動物ぐらいなら比喩でも何でもなく本当に射殺せそうな視線で睨むテクル。


 「あの・・・・えっと、私も気になります。 デバフ付与中の黒い発光もしていませんでしたし・・・・いつ付与したのでしょう? 教えて頂けると幸いです」


「よしクロイ。 早く答えろ」


 ラスイの言葉で直ぐに掌をひっくり返すテクルを尻目に答えることにした。


 「黒い発光がなかったのは簡単だ。 ・・・・コレだよ」


 俺は自分のポケットに突っ込んでいない左手を突き出す。


 「・・・手? 手がどうしたのですか?」


 「違う、手ではなく手袋だ」


 俺が『コレ』と言ったのは、手にはめられている指先や手のひら部分に穴が空いたデザインの黒い手袋。


 「私達に土下座して借りた金で買った手袋か。 確か・・・〔フオンのテブクロ〕って名前だったか?」


 「え、オマエ ・・・そんなことしたのか」


 クズルゴが土下座借金の話を聞き『えぇ・・・マジかコイツ』みたいな目で見てくるが、まぁいいだろう。


 「この手袋はデバフしか使えない俺にとっては正に国宝級の価値がある、〔付隠フオン手袋テブクロ〕!! この手袋をはめていれば、付与魔法の効果発動中の証である発光が消える!!」


 つまり相手に付与を視認で確認出来なくさせれるのだ!


 『え、それだけ?』となるかも知れないが、コレはかなり役に立つ

 実は付与はされていても殆どの人は感覚だけでは分からない。

 大体は付与される事で生じる発光を見て、付与されてるか否かを判別する。

 その判断方法を封じるのだ。


 もし普段通り視覚で確認されたら・・・・クズルゴは弱体デバフにかかっている事を理解して、体を無理に動かさない様にし、やろうとする動きと弱くなった身体能力による実際の動きに齟齬が生じない様にしただろう。

 そうされたら今の様に動けなくなった所を捕縛出来なくなったかもしれない・・・・何かされていると理解させないのがこの手袋の強みだ。


 「・・・確かにデバフだけしか使えない故にデバフを主体としたお前にとって、10万払ってもいい価値があるものだな」


 「ちなみにコレを使う間のデメリットは、付与魔法しか使えなくなるというものだ!!」


 「お前にとっては、っていうかお前ぐらいにしか価値が無いな!!」


 至極真っ当な意見だ。

 この手袋の強みを生かす方法は付与魔法より強い魔法を持っていない事が前提だ。

 だって付与以外使えなくなるからな!


 元々デバフしか使えない俺だからこそこの手袋を100%扱える。

 付与魔法しか使えない人間なんて俺は俺以外知らないし、多分俺はこの手袋をフルで扱える唯一無二の存在だろう。


 「付与魔法しか使えないとか・・・マジかコイツ」


 「あと付与魔法って、かける方法は2つあってな。 俺がいつも使ってるのは『発射付与』だ。 デバフを黒いシャボン玉の様なもの・・・[デバフ球]にして、それを飛ばしてぶつけた相手に付与出来る。 メリットは遠くから付与出来る為安全、デメリットはデバフ球は最初にぶつかった物体に付与してしまうからそこら辺のものを投げて当てるだけで防げてしまうことだ。 後飛ぶ速度が遅い」


 ベビィスライム、化け物魚に使ったのはこの発射付与だ。


 「デバフ球? そんなもの触れた記憶はないぞ!」


 「当たり前だ! 俺がお前に使ったのは発射付与でなく、『接触付与』だ!」


 「付与の方法にもレパートリーがあるんですね!」


 合いの手を入れたラスイに続き俺は説明する。


 「接触付与は読んで字の如く、直接触れる事で付与出来る! デメリットとしては、接触しなければいけないので接近が前提・・・・つまり危険なことだ!! だから付与以外使えない貧弱の俺にはあまり合わない!! メリットは、直接接触し干渉することによってデバフの設定を色々弄れる。 効果時間とか、潜伏期間とか」


 「・・・・潜伏期間?」


「前会った時にお前、俺と握手しただろ? あの時付与しといた。 まぁ、その時は単純に採取祭の時に困ってしまえーーぐらいの感じだったんだが」


 「あれ単純にキモい行動して相手を不快にさせる為にやったわけじゃなかったのか」


 「実際にそうだがその説明の仕方は何かやだぞ」


 テクルの悪意ない口撃で少しやられている俺に、クズルゴが驚いていた。


 「オマエが強引に握手した時って・・・・2日前じゃねぇか!! そんな長続きする付与知らねぇぞ!?」


 「さっき言っただろう。 潜伏期間を設けたんだよ。 採集祭が始まるぐらいのタイミングで発動するようにな」


 「潜伏期間って・・・・付与にそんなもの存在するなんて聞いた事無いぞ!! ・・・・存在しない魔法の設定を新たに作り出すだなんてそんな芸当・・・・ま、まさかオマエ・・・・賢者レベルの」


 「デバフしか使えねぇからずっとそれしか練習出来なかった結果出来るようになったんだよ!!! 一生かけて付与魔法鍛える奴なんて俺ぐらいしか居ないだろうな!!」


 過去に付与魔法に効果時間を設定できる人はいたが、潜伏期間を設けることができた人の話は聞いたことがない。

 そりゃ付与魔法だけの人間なんていないだろうから・・・他の付与魔法が使える人は使うにしても多少鍛えたら後は他の魔法を鍛えるはずだ。


 俺の場合はその他に鍛えれる魔法がなかったから付与だけなら未開の領域に達している賢者級のレベルだろう。


 本当に付与というかデバフ『だけ』だがなぁ!!!


 「・・・そ、そうか。 ま、まぁ付与だけでもそのレベルは凄いと思うぞ?」


 同情する様に少し優しい目をしたクズルゴが俺を見てそう言ったのだった。

 俺コイツにも憐れまれるぐらいなの?

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